タクシーで「偉い人」はどの位置に座る? ビジネスマナーと自動車メーカーで異なる訳とは
上座は運転席後ろ? ではその理由は?
社会人のビジネスマナーのひとつとして、タクシーでの乗車位置が挙げられます。
なんとなく「正解」はわかっていても、なぜそれが正解なのかを説明できる人はあまり多くないかもしれません。
では、目上の人とタクシーに同乗する場合、どのように座るのが正解とされているのでしょうか。
タクシーでのマナーを解説したいくつかのウェブサイトなどを見ると、もっとも目上の人は運転席の後ろに着座するのが良いとされています。
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次いで、助手席の後ろ、その次は助手席という順が「正解」とされているようです。
端的にいえば、運転席の後ろが「上座」、助手席が「下座」ということのようですが、なぜそうなっているのかが解説されている例はほとんど見つかりません。
「運転席の後ろが一番安全だから」と説明しているものもありましたが、安全装備が厳格化された現代から見れば、根拠の乏しい理由といえます。
おそらく、入り口からもっとも遠い席を「上座」とするという原則から、左側通行(=歩道が左側にある)の日本では、運転席の後ろを上座とすることになったのだと考えられます。
しかし、マナーを「相手に不快な思いをさせないためのもの」ととらえるなら、目上の人は運転席の後ろと決めつけるのではなく、状況に応じて臨機応変に考えるのがよいでしょう。
例えば、タクシーを使わなければならないほど急いでいるのであれば、「お先にどうぞ」というやりとりを省き、近い場所にいる人が奥に座るというのもアリかもしれません。
もし、こうした特段の状況がない場合に限り、前述のようなビジネスマナーをよりどころにするのも悪くはないでしょう。
しかし、タクシーではなくハイヤーとなると話は変わります。
一般的に「ショーファードリブン」と呼ばれる、運転手に運転してもらうクルマは、助手席の後ろにオーナーが乗るのが普通です。
これは、助手席の後ろのほうが後席のレッグスペースを確保できることが大きな理由のようです。
ショーファードリブンを想定したモデルのなかには、助手席を通常のクルマよりも前に出すことで後席のレッグスペースを確保したり、助手席のヘッドレストを折りたたむことで後席の視界を広くしたりするなどの機能が備わっています。
なかには、助手席のシートバックの一部を取り外し、助手席を貫通させる形で後席の乗員が脚を伸ばせるようになっているものもあります。
いずれにせよ、よほど儀礼を重んじる場でもない限り、現代の文化や事情に則さない紋切り型のマナーにとらわれるよりも、状況に応じて臨機応変に行動することが重要だと考えられます。
「後席左」は古い? いまの若者の意見とは
一応、「代表取締役社長」の肩書を持つ筆者(PeacockBlue K.K. 瓜生洋明)は、社内のスタッフから見ると「もっとも目上の人」にあたります。
そのため、スタッフとタクシーなどに乗る際は、スタッフたちから運転席後ろの座席をすすめられることもありますが、タクシーに近いほうが先に乗る、あるいは先に降りる方が後に乗るという結果となることがほとんどです。
実際には、タクシーよりも社有車で移動することのほうが多いのですが、ある若いスタッフと移動するときに少し驚くことがありました。
筆者がハンドルを握り、そのスタッフを迎えに行ったとき、そのスタッフはおもむろに後席後ろに乗ったのです。
社長が運転するクルマをタクシー扱いしている、あるいは自分を過剰に上に見ている、ととらえれば、この行動はあまり褒められたことではありませんが、一方で普段の行動から決してそういったようすは見られないので、なにか理由があるのだろうと思い、本人に「なぜその席に座ったの?」と聞いたところ、少々驚くべき答えが返って来ました。
聞けば、そのスタッフにとって助手席は「特別な人の席」であり、「私が座るべき席ではない」とのことでした。
つまり、そのスタッフにとって、助手席後ろは「『特別な人の席』を侵すことなく、なおかつ運転をしている筆者と会話ができる席」だったのです。
前述で紹介したような「マナー」に照らし合わせれば、このスタッフの行動は常識外れと言うこともできるかもしれません。
しかし、本人にとっては明瞭たる論理に基づく行動であるので、無下に否定することはできません。
思えば、筆者自身も、学生時代に先輩などとドライブした際、助手席は何か特別な場所だったという印象があったことを思い出しました。
運転してくれる先輩の相棒的存在、あるいは先輩の彼女などのために助手席は空けておかなければならないような気がして、コソコソと後部座席に座った記憶があります。
学生時代の文化と、社会人のマナーを混同すべきではありませんが、古い時代に作られた、実態に則さないマナーよりも、いま目の前の仲間たちとの関係を優先して乗車位置を決定するのは、決して常識外れではなく、むしろ合理的かつ論理的思考に基づくものだと感じます。
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将来、自動運転が普及すれば、いまのクルマとは異なる乗車位置がマナーとしてできるのかもしれません。
いずれにせよ、マナーとは、それを守ることそのものが重要なのではなく、周囲の人を不快にさせないための一種の指針と考えれば、どんな乗車位置とすべきかは、それほど重要なことではないといえるのではないでしょうか。