『新R25』読者には、いろいろな規模の企業で働いているビジネスパーソンが多いかと思いますが、昨今は「小さなチームで働く」ということに注目が集まっています。

企業内の少人数のチームや、スタートアップ企業、フリーランスなどさまざまな働き方の人が集まったチーム。多様な形態がありますが、いったいどんなメリットがあるのか?

今回は家入一真さんと佐藤裕介さんに、「小さなチームで働くことのメリット」、さらに、そんなチームをどうやってマネジメントしていくのかを伺いました。

家入さんはpaperboy&co.(現GMOペパボ)、CAMPFIRE、BASEなどを創業。一方佐藤さんは、決済サービス運営会社のコイニーとネットショップ作成サービスのSTORES.jpを統合し、昨年新会社heyを創業したという経歴の持ち主。どちらもスモールチームの起業フェーズを多く経験されています。

以前から親交が深いという二人の「チーム論」対談は、『攻殻機動隊』から『ほぼ日』まで話がおよぶ、脱線たっぷりかつ学びの多いものになりました。


【家入一真(いえいり・かずま)】(写真左)株式会社CAMPFIRE 代表取締役CEO。1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業し、JASDAQ市場最年少で上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIRE創業、代表取締役に就任。他にもBASE、XIMERAの創業、駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の世界展開、50億規模のベンチャーキャピタルNOWの設立など。 / 【佐藤裕介(さとう・ゆうすけ)】hey代表取締役社長。2008年Googleに入社し、広告製品を担当。2010年末、COOとしてフリークアウトの創業に参画。2017年、フリークアウト・ホールディングス共同代表に就任。2018年、決済サービスCoineyを提供するコイニーと、ネットショップ作成サービスSTORES.jpを提供するストアーズ・ドット・ジェーピーを統合し、新会社heyを創業した

家入さん:
heyってめっちゃ「いいチーム感」あるよね

スタートアップ界隈を見ても、嫉妬してる人多い気がするよ。

佐藤さん:
…そうですかね(笑)。

家入さん:
僕はheyを見てると、『攻殻機動隊』の名言を思い出すんですよ。

うちの会社(CAMPFIRE)ではSlackの最初のローディングのとき、その名言が出るようになってるんですけど…

ほら、なんだっけ? あのおじいさんが言うやつ…

佐藤さん:
え…なんですか?

家入さん:
ごめん、言おうとしたのに忘れたわ


「今検索するから待ってて」

家入さん:
あった。読みますね。「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけだ」。

つまり、「俺たち仲間だよな!」みたいな慣れあいはないのに、それぞれの個人プレーがうまく噛みあっている。heyを見てると、そんな感覚があるんだよね。

佐藤さん:
なるほど。たしかに、メンバー個人個人の「自分の気持ちいい」からスタートして、それがくっつきあうようなチームを組むように意識してます。

それは大企業にはない、小さなチームならではのメリットかもしれないですね。

“マイメン”と働くメリットは「緊張感」。一方で、家入さんには苦い思い出も…?



佐藤さん:
僕は、小さなチームで仕事をすることのメリットって大きいと感じてて、「マイメンと仕事をするといい」ってよく言ってるんです。

友だちと仕事をすると「カッコ悪いところを見せたくない」っていう、いい意味での緊張感がありますよね。

家入さん:
たしかにねえ…ただそれって、友だちだからこそ「分かり合えるはずだ」と思ってしまうデメリットもある。

僕、過去に、ある会社を共同経営してた仲間に多額のお金を使い込まれてたことがあって。理由は「家入さんが構ってくれなくてさみしかったから」。

期待しあったり依存しあったりする関係って、仕事でもカップルでも夫婦でも、どこかで破綻してしまうんだよね。


過去いろいろあった家入さん

佐藤さん:
そういうトラブルを経験して、仕事のコミュニケーションで気を付けるようになったことってありますか?

家入さん:
何かを言う前に、「どの立場から話しているのか」を伝えるようになったね。

たとえば会社を辞めたいと言ってるヤツがいたとして、「今ここで逃げ出さないほうが本人のために絶対いいのにな」って思ってたとしても、僕が「逃げるなよ!」って言ったら、それは「社員に辞められたくない社長のポジショントーク」になっちゃうんです。

佐藤さん:
どうしたってポジショントークに見えてしまうと。

家入さん:
だから、「これはいち友人として言うね」って前置きしてコミュニケーションするようにしてる。

逆に「上司として言うね」もあるし、「これは友人として、これは上司として」ってふたつ話すこともある。

人間って、言葉と「誰が言ったか」を分離するのがすごく苦手。これぐらいハッキリ前置きしたほうがいいと思うんです。

佐藤さん:
なるほど…



「仕事と喜びとの距離」が近いのが小さなチームの魅力

佐藤さん:
「仕事と喜びとの距離」が近いことも小さなチームの魅力ですよね。自分の仕事の結果がどう世に出ているのかがわかる。

たとえば、家で料理をしてるときに子どもに「まな板押さえといて」って言うと、きっと喜んでやってくれると思うんです。

それは隣に親がいて、「ありがとう!」って言ってもらえるから。「役に立ってる」って実感は何よりの報酬なんだなと。



家入さん:
それはすごくわかるね…

でも今heyは、小さなチームから急激に成長を遂げようとしてるじゃない。そこで課題を感じたりはするのかな?

佐藤さん:
ああ、まさにですね。

組織がちゃんとするにつれて、「お客様が喜んでくれてる」っていうことと「自分の努力」の関係がどんどん遠くなって、その“喜び”が組織のどこかに吸収されてしまうんですよ。

家入さん:
ふむふむ。

佐藤さん:
なので、僕はSTORES.jpに出店してくれてるお客さんのところに会いに行って、ショップを開設して、こんなにいいことがあったんです!」っていうファクトをできるだけたくさん取ってくるようにしてるんです。

地道なんですけど、そういうエピソードトークみたいなものを社内に持って帰って、みんなに「人の役に立つ喜び」を感じてもらうようにしてますね。

家入さん:
それはめっちゃいいね! …パクろう。


パクるために対談中でもすぐメモる人

佐藤さん:
あとは、僕がGoogleにいたときに学んだことなんですが、データや数字を見ることも、「自分の仕事が誰かの役に立ってる」ことをわかりやすくする手段なんですよね。

データってどうしても冷たい、ドライみたいなイメージなんですけど、うまく使えば、「これだけの人に影響を与えてる仕事なんだな」っていう実感をつくることができるんです。

チームに新しく入った人は“保護動物”として大事にするべき

家入さん:
僕は組織の話をするときによくサーフィンのたとえをよく出すんだけど、小さなチームで仕事をするうえで重要なのは、「波とどう付き合うか」なんです。

どんなチームにも必ず問題があり、必ず波がある。問題がなくなったときは、成長が終わっているときなんだよね。

まあ、僕サーフィンやったことないんだけど…


だろうと思いました

佐藤さん:
家入さんは今、自分のまわりのチームにどんな問題を感じてるんですか?

家入さん:
なんだろう…? 何かある?

急に振られたCAMPFIRE広報加賀美さん:
えっ!!(焦)

そうですね…私は転職して半年ぐらいなんですけど、みなさん自分でいろいろと工夫して仕事をしているというか…

クラウドファンディングの市場がまだまだ発展途上な部分もあって、「何でも教える」というよりは、「まずはやってみて」みたいな風土はありますね。

佐藤さん:
割とスパルタ系なんですね。

僕が考えてるチームをうまくいかせる方法として、「新しく入ってきた人をケアする」っていうのがあるんです。

転職経験ある人はわかると思うんですけど、「誰が何を知ってる」「どこに何がある」とか、社内の資源にアクセスしやすい人のほうが結果が出やすいんですよね。

家入さん:
新しい人って常に不利だってことだよね。

佐藤さん:
そうなんです。だから“保護動物”みたいに大事にして、公平にしないといけない。ピュアに「ヨーイドン」という環境じゃないので。

家入さん:
それはどうやって“保護”してるの?

佐藤さん:
ひとつは、すべての会議で議事録を残して、誰からもアクセスできるようにしてるんです。必ずドキュメントで残すという文化にしてます。

もうひとつは、最初にロケットスタートさせてあげること。



佐藤さん:
具体的には、少し達成しやすい“初期目標”みたいなものを設定するようにしてるんです。

最初はボーナスステージで戦ってもらうというか。

家入さん:
ああ〜、そういうある種の“でっち上げ”をうまく使うのはすごく大事だね。

『ほぼ日』で感じた、「誰でも小さなチームでビジネスができるようになる」という感覚



家入さん:
そういえば、佐藤くん昔『ほぼ日』に出入りしてたよね? チームについて、『ほぼ日』で学んだこともあるのかな?

佐藤さん:
行ってましたね! 2014年に、共同代表を務めていたフリークアウトが上場して、ふと「ここからどうしようかな?」みたいな時期がありまして。

それで通いつめていたんです。社員向けの話を聞かせてもらったり、雑用したり、いろんな経験をさせてもらいました。

家入さん:
え〜、そうなんだ…!

佐藤さん:
『ほぼ日』では、「突出したスターがいなくても、大規模な資金がなくても、誰でも小さなチームでビジネスができる時代が来る」ってことを逆説的に学んだんです。

家入さん:
逆説的に?

佐藤さん:
糸井重里さんって、80年代の広告業界でスターになって、90年代後半にひとりで『ほぼ日』というメディアを立ち上げて、そこから物販で人気になってるわけじゃないですか。

糸井さんという個人の活動が、徐々に“会社然”となっていってる。

それを間近で見てて思ったんですよ。「この先、“プチ糸井さん”がもっともっと増えていくんじゃないか?」って。


プチ糸井? 表現がかわいい佐藤さん

佐藤さん:
当時は、糸井さんというスターだからできたことだったんですけど、それがどんどん“民主化”されてくるはずだと。

実際、今はインスタをはじめれば、タダで自分のメディアを持てる物販サイトだってSTORES.jpやBASEを使えば簡単につくれるようになってますよね。

糸井さんを見て「この人にしかできないことだ」って思ってたら、今のSTORES.jpのカタチにはつながってないと思います。

家入さん:
なるほどね。それに近いことは僕もすごく思ってて。

震災ぐらいから、大きな経済に組み込まれるというより、自分の身の回りの小さな経済圏に魅力を感じる人が増えてきてるんだよね。有名人じゃなくても、資金がなくても、できることから商売をはじめていいんだと。

最近はネットを通じて小さな経済圏を持つことができるサービスが出てきて、その動きがどんどん加速している気がします。



おわりに

家入さん:
今日はひさびさにこうやって対談したけど、佐藤君は本当に欠点がないというか、素晴らしい人間だよね…

佐藤さん:
本当ですか? ありがとうございます(笑)。

前にお会いしたのはいつでしたっけ?

家入さん:
ほら、あの渋谷のゲイバーで飲んだとき。

佐藤さん:
ああ…(笑)

家入さん:
最近僕はゲイバーについてもすごく考えていて。

ゲイバーっていうのも、まさに小さな“ジブン経済圏”なんだよね。


ゲイバーについてまだまだ語りたそうな家入さんですが、そろそろお時間です。ありがとうございました!!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉

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