京都大と東北大の「不透明すぎる総長選考」に教員たちが絶望…国立大学で問題になっている”知られざる支配体制”

写真拡大 (全8枚)

【前編を読む】京都大で教授陣が猛抗議「総長選考のプロセスがひどすぎる」…”国際卓越研究大学”認定の裏で起きていた「深刻なトラブル」

東北大の総長選考は詳細な議事録を公開せず

東北大が国際卓越研究大学の候補に選ばれたと発表されたのは2023年9月1日。審査を行なったアドバイザリーボードは、「改革の理念が組織に浸透している」と評価した。

しかし、論文数を10年目には倍に増やすといった体制強化計画の内容を、東北大の教員が候補に選ばれたこの日まで知らなかったことは、この連載の第1回後編で伝えてきた通りだ。その後、’24年12月に、国際卓越研究大学に第1号として認定された。

体制強化計画を策定する過程を一般の教員が知らなかったことは、東北大ではこの時点ですでにトップだけで物事を決めるガバナンスが確立していたことを意味する。

東北大が国際卓越研究大学になるよう申請した時の総長は大野英男氏だ。実は、彼が認定に動いていたちょうどその時期、東北大でも総長選考が行われていた。

そして、この総長選考も、一般の教員にとっては不透明な状況で行われたという。ある教員が、こう証言する。

「この年の総長選考では、総長選考・監察会議は詳細な議事録を公開していません。しかも、教職員による意向投票の結果を公にしなかったのです」

総長選考で意向投票の結果を明かさなかった東北大

東北大の総長選考の流れは次のようなものだ。

総長候補者は3つのルートで推薦される。1つは教員で構成する「教育研究評議会」が、教職員による意向投票の結果をもとに5人以内の候補者を推薦するルート。あとの2つは、学外委員が半数を占める経営協議会が5人以内の候補者を推薦するルートと、教授と准教授30人以上の連名によって候補者を推薦するルートだ。その上で、総長選考・監察会議が選考する。

教職員による意向投票の結果を、ある関係者が明かした。

「’23年10月中旬に、約2900人による意向投票が行われました。その結果、投票の対象となったのは4人です。このうち冨永氏が最も多い1172票を獲得しました。2位の候補は779票、3位の候補は445票、4位の候補は225票でした。

ただ、2位と3位の候補は、のちに総長に選ばれた冨永氏に比べると、国際卓越研究大学に対してはやや消極的な態度をとっていました。2人の得票を合わせると1224票です。この結果は地元紙の『河北新報』が10月26日に詳細に伝えました。

しかし教育研究評議会は、新聞で報じられたにもかかわらず、投票数を議事録にも載せませんでした。投票結果を隠したのは、国際卓越研究大学の推進が全学一致になっていないことを知られるのが、その後の本採択の決定には不都合だったからかもしれません」

東北大の総長選考・監察会議が公開している資料によると、11月7日に一次候補者5人が確認され、12月7日に二次候補者3人を選出。3人の面談を実施して、1月23日に冨永氏を次期総長候補者として決定し、翌日発表したとある。ただ、不思議なことに二次候補者の名前は公表されていない。関係者によると、「3人の中には、意向投票で選ばれたときに2位と3位だった人が選ばれず、なぜか4位の人と経営協議会から推薦された人がいた」という。

誰にでも当てはまる「選考理由」とは

前編で伝えた今年6月の京都大の総長選考では、総長選考・監察会議は候補者の名前も、意向調査の投票結果も公表している。

また、東京大の総長選考・監察会議では、公開している議事録に各委員の発言内容まで詳細に掲載している。それらに対して、東北大は教員が指摘する通り、意向投票の結果には一切触れられていなかった。冨永氏は意向投票では1位だったのだから、隠す必要はなかったのではないだろうか。

ただ、京都大との共通点もある。それは、冨永氏を選考した理由だ。

’24 年1月に公表された「東北大学総長候補者の選考について」には、次のように記載されている。

「国際卓越研究大学の認定候補となった本学をグローバルなスケールで、真に教育・研究に卓越した大学として発展させていくとともに、国内外の大学等と連携し、共に高度な教育研究を通じて社会の発展に貢献していくトップリーダーにふさわしい資質・能力を有する人材であると判断し、同氏を次期総長候補者として決定した」

この選考理由も、京都大の’26年6月の総長選考と同様に、誰にでも当てはまるものだ。また、「学長の条件」として国立大学法人法の第12条では、高潔さ、学識、教育研究活動の適切な運営能力が問われているが、この条件にも言及していない。いずれにしても、東北大も京都大も、内容があるとは言えない選考理由にわざわざ記載している「国際卓越研究大学」の推進ありきでの選考だったと考えるのが自然だろう。

トップの権限強化と、国による支配体制を確立

なぜ東北大や京都大の総長選考はこんなにも不透明なのか。実は、意向調査や意向投票などで1位の票を得ていない候補者が総長や学長に選ばれるケースは、全国各地の国立大学でも起きている。ちなみに、多くの国立大学のトップは学長だが、東京大、京都大、東北大など一部の大学では総長の名称になっている。

さらに、投票自体を廃止した大学や、筑波大や大分大のように学長任期の上限を撤廃し、その結果在任期間が長期にわたっている大学もある。国から運営費交付金を受けている国立大学トップの選考方法として、適切と言えるのだろうか。運営費交付金の主な財源は、私たちが納めている税金である。

このような決定が可能になったのは、「国立大学の法人化」と、その後の「国立大学法人法の改正」に原因がある。

法人化される前の国立大学の総長や学長は、教職員による投票結果をもとに、教員で構成される評議会が指名していた。

教職員による投票結果は重んじられていたのが、’04年の法人化によって、教職員による各種投票は「意向投票」に格下げとなってしまう。そして、最終的な選考権限は「総長(学長)選考会議」が持つことになったのである。そして、選考会議の委員には、総長や学長といったトップが就くとともに、経済界などからトップが選んだ学外委員が含まれるようになった。

続いて、’14年の国立大学法人法改正によって、総長や学長の選考方法そのものも選考会議が独自で決められるようになる。また、同年の学校教育法改正では、教授会の権限が総長・学長の諮問機関に格下げされている。

この結果、トップを選ぶ際に教職員の意向が反映されにくくなったと同時に、トップの権限が強化されたことが分かる。実際に’14年以降に各国立大学で実施された意向投票では、1位ではない候補がトップに選ばれるケースが増えているほか、任期の上限撤廃も行われるようになった。また、学内の様々な事項が、上意下達で全てが決まる傾向も強まった。

学外者の意見が強くなってしまった

さらに、’21年の国立大学法人法改正からは、学外者の影響力が増している。「総長(学長)選考会議」は、現在の「総長(学長)選考・監察会議」に改編された。総長や学長に不正行為があった場合は文部科学省に解任を申し出ることができるなど、この組織の権限が強化された。

そして、’23年の国立大学法人法の改正では、東京大、京都大、大阪大、名古屋大と岐阜大を運営する東海国立大学機構、それに東北大には、新たに最高意思決定機関として、委員の過半数を学外委員が占める運営方針会議の設置が義務付けられた。

運営方針会議は、中期目標・中期計画及び予算・決算に関する事項を決議するなど強い権限を持つ。決議内容に基づいて運営が行われていない場合には、総長や学長に改善措置を要求できるほか、総長や学長の選考に関する事項について、総長(学長)選考・監察会議に意見を述べることができる。

もともと運営方針会議は、国際卓越研究大学に認定された大学に設置される組織だ。それがなぜか、国内のトップレベルの大学に設置する流れになってしまう。国立大学法人法の改正案が突然閣議決定され、そのまま国会で可決された結果である。

運営方針会議の委員は、総長(学長)選考・監察会議との協議を経て、文部科学大臣の承認を得た上で、総長や学長が任命する。つまり、国際卓越研究大学に認定された大学や、トップレベルの国立大学については、国や学外者の意向がより反映される状況になったのだ。

総長の再任を可能にする方針を決定

さらに東北大では、学内の教職員が知らないうちに総長選考のルールの変更が行われたと、別の関係者が証言する。

「東北大の任期は6年間で、冨永総長の任期は’30年3月末までです。しかし、’25年9月に東京オフィスで開催された総長選考・監察会議で、総長の再任を可能にする方針が決定されました。まだ規程は変更していませんが、決定した方針では現職の総長が次期総長の推薦候補者になることが可能になります。また、再任の任期は4年で、再任は1回に限るとされています。

この変更は教育研究評議会では報告されていますが、いまだに多くの教職員が知らないと思います。国からの運営費交付金や、税金を原資とする大学ファンドの運用益から多額の助成を受ける大学で、こんな重大なことが密室で決められていいのでしょうか」

この連載の第2回や第3回で明らかにしたように、東北大では大学ファンドの助成を受けているにもかかわらず、博士課程の学生の支援を改悪し、’25年秋以降は『財務がショートした』として、国際卓越研究大学の事業も一時停止していた。そのため、目玉である招聘する『卓越研究者』の人件費は、本部と部局で折半することが決められた。本来、部局にはそうした資金はなく、やがて部局はその資金を捻出するために従来の教員数を減らすことになる。

教職員には諦めムードが漂っている

ただ、現在のガバナンスでは、執行部が運営に失敗していると教職員たちが感じても、トップが選んだ運営方針会議や総長選考・監察会議が異を唱えることは考えにくい。それだけでなく、全てが現場のあずかり知らぬところで決まってしまう。そして、その決定がある日突然現場に押し付けられているのが東北大の現状だ。

教員の一人は「東北大にはガバナンスがない。本部の執行部はガバナンスの意味を取り違えている」と指摘する。

「組織の上の人が下の人に徹底してやらせるのがガバナンスではないんですよ。国際卓越研究大学が認定されて’25年度から事業がスタートして、わずか半年で財務がショートしていると言い出したものの、誰も責任を取りません。本部が’25年度の助成金154億円を何に使っているのかについて、教職員は知らされていないなど、情報の透明性もありません。部局の教職員には諦めムードが漂っています。

やはり大学ですから、情報をきちんと公開して、海外大学への留学などを含めていろいろな経験を持つ教員らと一緒に最も良い方法を導き出さなければならないのに、本部の一部の執行部が自分の狭い経験や力量だけで判断するのは非常にまずいですよ。本部の執行部が教育研究から逸脱せず暴走しないように縛るのが、本来の組織のガバナンスではないでしょうか」

現状のガバナンス体制によって、東北大では教員たちが首を傾げざるを得ない事象が次々と起こっている。その実態を次回お伝えする。

【こちらも読む】巨額の税金を原資とする事業なのに、明確な説明ナシ…東北大学の教員たちが怒りの声を上げる「納得の理由」

【こちらも読む】巨額の税金を原資とする事業なのに、明確な説明ナシ…東北大学の教員たちが怒りの声を上げる「納得の理由」