森保監督「異例の半年続投」への違和感 W杯の結果はどう評価された? 曖昧な「人事判断」から見えてこないJFAの主体性
サッカー北中米W杯を決勝トーナメント1回戦敗退で終えた日本代表。日本サッカー協会(JFA)は7月23日の理事会で、森保一監督を来年1〜2月のアジアカップまで続投させ、その後は大岩剛監督に引き継ぐことを決めた。会見で強調されたのは「継承と進化」だった。だが、森保監督の8年間を何によって評価し、その評価がなぜ「半年続投」という人事につながったのかは、十分に示されたとは言い難い。これは単なる説明不足の問題ではない。日本がどのようなサッカーを目指し、そのためにどのような監督と選手を必要としているのか。スポーツライターの大塚一樹氏は、JFAの方針そのものが問われていると語る。
【大塚一樹(スポーツライター)】
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異例の「半年続投」
7月24日、都内で日本サッカー協会(JFA)の記者会見が開かれました。

壇上に並んだのは宮本恒靖会長、山本昌邦技術委員長、そして森保一監督の三人。前日の理事会で承認されたのは、森保監督が来年1〜2月のアジアカップ・サウジアラビア大会まで指揮を執り、その後はU‐21日本代表を率いる大岩剛監督が、世代別代表との兼任でA代表を引き継ぐという人事でした。
日本代表監督は、これまで4年ごとのW杯を基本的な区切りとしてきました。次の大会を率いる監督が、4年単位でチームづくりを始めるのが通例です。その意味で、半年後の退任があらかじめ決まっている監督に新たな任務を託すのは異例と言えます。
なぜ、最初から大岩監督に任せないのか。宮本会長は、W杯後の重要な大会であるアジアカップで優勝するため、森保監督がこれまで示してきた「アジアでの強さ」を生かしたいと説明しました。同時に、大岩監督には年内、アジア競技大会などU‐21日本代表の活動に専念させたいという事情も示されています。
アジアカップを森保監督に任せ、大岩監督には世代別代表での仕事を完遂してもらう。人事の時間軸としては、理解できる説明です。
ただし、その人事に合理性があることと、北中米W杯までの森保監督の仕事がどう評価されたのかは、別の問題です。
大会前から描かれていた「半年続投」
会見で明らかになったのは、森保監督の続投案が、北中米W杯の結果を受けて考え出されたものではないという事実でした。
宮本会長は今年3月、森保監督に対して、契約はW杯までと伝えていました。しかし、その後に西野朗・前日本代表監督らの意見も聞きながら考えを改め、5月にはアジアカップまで続投する可能性があることを森保監督に伝えていたといいます。
つまり、「半年続投」はブラジルに敗れたあと、急きょ用意された案ではありません。大会前から選択肢として存在していました。
だからこそ、疑問が残ります。北中米W杯の結果は、今回の人事判断にどこまで影響したのでしょうか。W杯で目標に届かなければ、続投案を見直す可能性はあったのか。反対に、どのような結果や内容であれば、予定通りアジアカップまで託すことになっていたのか。
大会前から続投を想定していたこと自体が問題なのではありません。問題は、北中米W杯の評価が、その後の人事にどのように反映されたのかが見えてこないことです。
「優勝」という目標と評価基準は別物
森保監督と選手たちは、北中米W杯での「優勝」を公言していました。
この目標を過大だと批判する声もあります。しかし、現場が高い目標を掲げること自体に問題はないはずです。一部の選手から自然に出てきた「優勝」という言葉がチームを一つの方向へ向かわせ、森保ジャパンの一体感につながったことは、ピッチ上の戦いぶりからも伝わってきました。
目標には、現在の実力を超えた場所へ選手を向かわせる働きがあります。実現可能性だけを基準に目標を決めていたら、日本サッカーはW杯出場にも、世界の強豪国を破るところにもたどり着かなかったでしょう。しかし、それはあくまでもチームが目指す目標です。
監督を雇用するJFAには、それとは別に、監督の仕事を査定するための現実的な基準が必要です。高い目標を掲げることと、監督を評価する基準を用意することは両立するはずです。
評価材料はあるが判定が見えない
今回、JFAに評価材料がなかったわけではありません。7月22日に行われた技術委員会を終えた山本委員長が報道陣向けのブリーフィングで示したのは、日本代表の戦いをベスト8進出国と比較したデータでした。
日本は4試合で8得点。1試合平均2得点は、2018年ロシア大会の1.5得点を上回る日本のW杯史上最高の数字で、4試合すべてで得点したのも初めてでした。4試合のうち3試合で先制しており、攻撃面には明確な前進が見られます。
一方、失点は4試合で5点、1試合平均1.25点でした。山本技術委員長は、ベスト8進出国の多くが平均失点を1点以内に抑えていたことを指摘しています。守備のコンパクトさはベスト8基準に達していたものの、実際にボールを奪い切り、攻撃へつなげる部分では基準を下回ったという評価でした。
24日の会見ではこのほか、FIFAランキングが森保監督就任時の50位台から17位まで上昇したこと、世界の強豪国と互角に戦えるチームになったこと、世代別代表との連続性をつくったこと、チームをまとめるマネジメント能力なども言及がありました。いずれも森保監督を評価する上で重要な材料です。
問題は、それぞれをどのように重みづけし、最終的な人事判断に結びつけたのかが見えないことです。
W杯での成績、試合内容、FIFAランキング、選手育成、組織マネジメント。どれをどの程度重視したのか。森保監督はどの項目で基準を満たし、どの項目が足りなかったのか。そして、その総合評価がなぜ、アジアカップまでの続投という結論になったのか。
評価材料はいくつも示されました。しかし、それぞれをどう重みづけし、なぜ「アジアカップまで続投」という結論に至ったのか、その判定の過程は明らかにされていません。
4年前に出された「宿題」の答えは
カタールW杯後の2022年12月、JFAが森保監督の続投を決めた際には、次の4年間に向けた課題も提示されていました。
当時の反町康治技術委員長は、短い活動期間で選手を同じ方向へ向かわせ、戦術を統一する能力を森保監督の長所として評価しました。一方、ドイツやスペインを相手に受動的な戦いを強いられたことを踏まえ、今後はもっと「能動的なサッカー」を目指してほしいと求めています。これは、第2次森保体制に出された明確な「宿題」でした。
自分たちがボールを持ち、試合をコントロールすることだけが能動的なサッカーではありません。守備から入るとしても、自ら狙いを定めてボールを奪い、攻撃につなげる。相手に対応するだけでなく、自分たちの意思で試合を動かす。それが4年前に求められた進化だったはずです。
北中米大会では、得点数や先制した試合が増え、攻撃面では前進しました。一方、ブラジル戦ではボールを奪う位置がグループステージより下がり、押し込まれたまま試合を覆されました。
では、4年前に示された「能動的なサッカー」という課題は、どこまで達成されたのでしょうか。
できたのか、できなかったのか。一定の進歩はあったが、ベスト8へ進むには足りなかったのか。それとも、4年間の中で目指すサッカーそのものが変わったのか。
森保監督の続投を発表するのであれば、本来は、この問いに対するJFAの答えがあってもよかったと思います。
評価基準はどこから導かれるのか
では、監督を評価する基準は、どこから導かれるべきなのでしょうか。
本来はJFAに、日本代表がどのようなサッカーを目指すのかという方針があり、その実現に適した監督を選ぶ。その方針に照らして、監督がチームをどこまで前進させたのかを評価する。監督が先にいて、その監督のサッカーを日本代表の方針にするのではなく、順序は逆であるべきです。
サッカーでは、チームがどのように試合を進めるのか、その原則を「プレーモデル」と呼びます。JFAの言葉を使えば「プレービジョン」です。
これはシステムや個別の戦術だけを意味するものではありません。日本人選手の特徴、育成環境、これまで積み上げてきた歴史を踏まえ、攻守にわたってどんな方法論でプレーするのかを方向付けるものです。
日本代表のプレービジョンが明確なら当然、監督を評価する基準もそこから導かれます。さらに、どういう選手を代表に選ぶのか。育成年代でどのような能力を伸ばすのか。全国の指導者と子どもたちが、何を目指して日々のトレーニングを積み重ねるのか。その方向も同時に定まります。
監督評価とは、目の前の代表チームを採点するためだけの作業ではありません。日本サッカーがどこへ進むのかを、未来の選手たちへ示す行為でもあるのです。
Japan’s Wayを現場につなげられるか
JFAには、日本サッカーの方向性がまったくないわけではありません。
2005年には「2050年までにサッカーファミリーを1000万人にし、FIFAワールドカップで優勝する」という長期目標を掲げ、2022年には、そこへ至る道筋として「Japan’s Way」を策定しました。
2025年に改訂された第2版には、日本サッカーのプレービジョン、攻撃と守備の考え方、日本代表の方向性、育成年代で育てるべき選手像まで記されています。代表強化だけでなく、ユース育成、指導者養成、普及を一体として進める考え方も示されています。つまり、理念も、目指すサッカーの大枠もすでに存在しています。問われるのは、それが実際の監督選びや評価にどう使われているのかです。
森保監督のサッカーは、Japan’s Wayに示されたプレービジョンをどこまで実現したのか。大岩監督は、どのような点でその方針に適合しているのか。次の4年間で、何を継承し、何を進化させるのか。
今大会で優勝したスペインから学ぶべきなのも、ボールを保持する「ポジショナルプレー」そのものだけではありません。
スペインは、自分たちが良しとするサッカーを定め、それを可能にする選手を育て、指導者を養成し、代表チームまで同じ方向へつなげてきました。成功した国の戦術だけを切り取ってまねるのではなく、選んだサッカーを実現するための選手と環境を、長い時間をかけて育ててきた。その仕組みこそ、学ぶべきものです。
日本も、世界から学ぶのをやめる必要はありません。ただし、学んだものを自分たちのサッカーとして組み上げる段階には来ています。
Japan’s Wayが監督人事、代表強化、選手育成まで一本の線でつながれば、監督が代わっても、日本代表が目指す方向は変わりません。
逆に、そのつながりが見えなければ、Japan’s Wayは大きな理念を記した文書のまま、監督人事はその時々の結果や事情に左右され続けることになります。
継続すべきは、人ではなく方針
森保監督は、与えられた条件の中で最善を尽くしたと思います。
8年間にわたって日本代表をまとめ、FIFAランキングを上げ、世界の強豪国と互角に戦えるチームをつくりました。世代別代表からA代表への流れを整え、選手たちが日本代表に誇りを持って戦う文化も築いた。これらを高く評価し、アジアカップまで託すという判断そのものはあり得ます。
だからこそ、JFAは、その判断に至った道筋を明確に示すべきでした。W杯で目標に届かなかった事実を、ほかの実績がどのように上回ったのか。4年前に与えた課題をどう採点したのか。アジアカップまでの続投は、森保監督の8年間に対する評価なのか、それともアジアカップを勝つための短期的な人選なのか。
それが曖昧なままでは、森保監督が正当に評価されたとも、厳しく査定されたとも言えません。継続すべきは、人ではなく方針です。監督が代わっても、日本代表が何を目指し、何を積み上げるのかは変わらない。その方針に照らして監督を選び、事前に共有した基準によって仕事を評価する。そして、その方針を代表チームだけでなく、これからの選手を育てる現場にもつなげていく。
「次の4年」で問われているのは、大岩監督の手腕だけではありません。本来は監督を評価する立場にある、JFAの主体性なのだと思います。
デイリー新潮編集部
