世界は中国をどう見ているのか。拓殖大学の富坂聰教授は「実は世界で反中感情が強いのは、日本、台湾、フィリピンくらいだ。各国は中国との関係を見直し始めている。日本は感情ではなく大局で外交を進めるべきだ」という。『おそるべき「中国一強」時代』(小学館新書)の刊行を機に、ノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。
写真=共同通信社
2025年10月31日、会談を前に中国の習近平国家主席(右)と握手を交わす高市首相=韓国・慶州 - 写真=共同通信社

■習近平が高市首相に感じている“薄気味悪さ”

――先日、フランスで行われたG7で、中国によるレアアースの対日輸出規制に懸念を示した高市早苗首相に対して中国外務省が反発しました。日中関係が悪化していますが、中国は高市政権をどう見ているのでしょうか。

【富坂】習近平氏は、高市首相に“戸惑い”を感じているでしょうね。その戸惑いとは、言い換えれば、理解不能な薄気味悪さです。

中国政府は当初、高市首相に対し抑制的でした。就任に際して送られる祝電もあり、政権の意図を反映している新華社の報道も「パワーバランスに配慮し、保守的な色彩が強い内閣」と控えめに評していました。だからこそ、2025年10月には、韓国で両首脳は会談し、握手をしている。

ある種、中国からの歩み寄りとも取れる姿勢は、2025年11月7日の「存立危機事態」発言で吹き飛びました。

従来の台湾有事の明示を避けてきた日本政府の「戦略的曖昧性」を変更した、そして中国にとって「核心の中の核心」と言える台湾問題で、よりによって武力行使と絡めて踏み込んだのです。

それでいながら、高市首相は、当日の答弁で台湾を「国」ではなく、「地域」と言い直して中国に配慮を示したり、答弁が問題化したあとには「従来の政府の立場を超えて答弁したように受け止められたことを反省点としてとらえている」と火消しを試みたような発言をしました。

■「台湾有事発言」後の謎の行動

中国は、利益に忠実で合理的な国です。そんな国からすると、高市首相の言動には一貫性がなく、一体何をしたいのか、理解できないのではないかと思います。

国の要人の言動には利益の獲得がともないます。ですが、中国には高市首相の「存立危機事態」答弁で日本が何を得たのかがわからない。この発言で、中国人観光客は減り、レアアースの交渉も頓挫したわけです。にもかかわらず、「反中」の姿勢をとり続けている。

ましてや、高市首相が接近するトランプ大統領は、中間選挙に向けて中国との関係改善を図っている。そんなときに中国を怒らせ、一方でアメリカに助けを求めている。

中国政府は、非合理的でよくわからない高市政権は相手にしないほうがいいと、距離を置いているのではないでしょうか。

撮影=プレジデントオンライン編集部
中国が日本と距離を置いているのは「台湾有事発言」だけではないと富坂さんは話す。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

――「存立危機事態」答弁は、高市首相を支持する人たちに支持されました。

そこも、中国が恐れる点です。日本だけではなく、アメリカや台湾もそうですが、政権を維持するためなら、利益に反することでもやってしまう西側諸国特有の社会の空気は、彼らには理解しがたいところでしょう。

現実に日本では「反中」が、支持率の追い風になっています。いま中国は、政権が代わったとしてもその状況は変わらないと受け止めています。要するに、「反中」は高市首相個人の問題を超えた日本社会の空気と考えている。だから、日本を無視して、アメリカとの関係構築だけに注力しているのです。

■反中の感情は冷戦の残滓

――なぜ、日本にここまで「反中」が広まっているのでしょうか。

冷戦の残滓ともいえる中国に対する「ゼロサム思考」が定着しているからです。一方がへこむと、もう一方が伸びる。政治も経済も、実態はそんなにシンプルではないですが、中国が落ち込むと日本が伸びると感じる意識が植えつけられている。

きっかけの一つは冷戦です。東西冷戦ではソ連の防波堤として西側諸国では日本の存在が重要視されました。実際に朝鮮戦争が起きると後方支援基地の役割を果たし、経済発展のきっかけになった。日本の深層心理には「陣営対立」への安心感があるのではないかと考えています。

日本にとって、中国はかつての東側に代わる敵陣営。その敵が失敗すれば日本は利を得る。そんな実態とは異なる、潜在的な「反中」があるのです。

潮目の変化が少しだけ見えたのが、第二次安倍政権下です。安倍首相は2020年に習近平を国賓として迎える計画を立てました。当時の政権は中国に反発しても得るものはないと判断したのではないでしょうか。ただ、コロナ禍でそれが中止となり、世界的に「感染症を引き起こした中国は迷惑な国」という機運が高まったことで日中関係改善の機運は潰え、国内で再び「反中」が燃え上がりました。

こうした潜在的な意識を醸成したのには、メディアの責任が大きいと思います。日本の主要メディアは、中国側の発する強いメッセージばかりを報じてきました。

■右も左も中国の「平和」を信じたくない

例えば、台湾問題に関する中国政府のスタンスは、「台湾の平和的な統一」です。これは1950年以降続いています。もし武力を使えば両岸関係は破滅的になりますし、中国自身の経済発展にも深刻なダメージとなります。中国としては、できれば避けたい選択です。

2025年12月に中国人民解放軍による大規模軍事演習「正義使命―2025」で軍が掲げたポスターには、「我々は戦いたくない。だが戦う準備はできている。演習は台湾同胞に向けられたものではない。しかし分裂の動きに対しては容赦しない」と書かれていました。

この「戦いたくない」に違和感を持つ方も多いのではないでしょうか。中国が台湾統一のためには「武力行使も辞さず」「手段を選ばない」という印象を持っている人がほとんどかと思います。

それは、日本の主要メディアが、中国側の発する強いメッセージばかりを報じ、中国が一貫して平和統一の道を探ってきた歴史を無視してきたからだと考えます。

写真=iStock.com/masterSergeant
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masterSergeant

2021年10月9日、辛亥革命110周年の記念式典の際の報道がわかりやすいので欧米メディアの報じ方と比べてみましょう。

例えば朝日新聞は、【習氏「中台統一必ず実現」】、読売新聞は【習氏「祖国の完全統一を必ず実現」】としています。

しかし欧米メディアの論調は異なります。例えばCNNは【台湾との「再統一」、平和的な手段で追求」、ロイターは【習氏、台湾「統一」を平和的に実現と強調】と“平和”という言葉を強調しているのです。

■今の日本と似ている台湾

本来は記事の作り手がリテラシーを持つべきなのですが、商業ジャーナリズムの場合は正しさを決めるのは市場です。誰も読まない記事ばかりを出していたら、新聞社や出版社、テレビ局が潰れてしまいます。その結果、23年の日本の「言論NPO」と中国国際伝播集団の調査によれば、日本は国民の9割以上が中国に悪印象を持つ社会になってしまいました。

台湾の状況も日本と重なります。

台湾の現与党・民進党を救ったのも「中国の脅威」でした。

2019年の香港民主化デモをきっかけに、中国への警戒感を強めた台湾市民は少なくありません。内政で迷走して支持率が落ちていた蔡英文時代の民進党は、「中国統治に対する脅威」を訴えたことで、再び支持を獲得しました。

そして現在の頼清徳総統は、前総統の蔡英文と同じことをやっていては、支持層が離れてしまうという危機感から、さらに中国を刺激しています。中国を「境外敵対勢力」と呼び、野党の国民党に「親中派」のレッテルを貼って敵意を煽るやり方です。

■トランプの中国に対する本音

――そうした状況を台湾市民はどう受け止めているのでしょう。

調査によれば、台湾市民の約8割が現状維持を望んでいます。ほとんどの台湾市民が現状の「ぬるま湯」を求めていることがわかります。対して、頼清徳総統の支持率は約40%。その支持者の一部が強く独立を求める勢力です。

「台湾総統直接選挙および台湾民主化20周年」で共に登壇する蔡英文第14〜15期総統と李登輝第7〜9期総統(写真=総統府/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

とはいえ、現実として、台湾だけで中国を相手にすることはできません。独立には、日本とアメリカを巻き込むことが前提になっています。

そこで問題となるのが、アメリカです。いまのアメリカが本気で中国と雌雄を決しようとするでしょうか。

トランプ大統領にとっては、中国との対決そのものよりも、中間選挙で民主党に負けられないという思いのほうが強い。トランプ政権にとって「中国に勝つ」とは、中国との勝敗ではなく、民主党に勝つための材料を中国から引き出すことを意味しています。やはりトランプ大統領も国内世論を意識しているのです。

逆に、アメリカが中国の弱体化を図る際に、利用されやすいのが、反中感情の強い台湾、日本、フィリピンの3カ国です。特定の国への反感が強まると、それが国際政治の中で利用されてしまうリスクがあるのです。

――日本、台湾以外はどうでしょうか。

世界的に見れば状況は変化しています。26年5月にはトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談が行われました。オーストラリアやカナダ、イギリスも新首相就任を機に中国との関係修復に動いています。

25年12月にフランスのマクロン大統領が、26年2月にドイツのメルツ首相が訪中を果たしました。いずれも自国の経済人を大勢引き連れて訪中したのです。

■国際社会の唯一の大人は中国

――変化の背景には何があるのですか?

富坂聰『おそるべき「中国一強」時代』(小学館新書)

中国と対立するデメリットを自覚したからだと思います。

またトランプ大統領がベネズエラを攻撃したあと、その隣国コロンビアに「次はお前だ」と圧力をかけ、イスラエルとともにイランへの大規模攻撃も行いました。さらに、NATO加盟国デンマークの自治領であるグリーンランドの取得をめぐって武力行使まで示唆しています。

そうしたなかで、「現在の国際社会に残された唯一の『大人』は中国だ」という声まで聞かれるようになりました。トランプ政権の予測不能な外交姿勢が各国の不安を高めた結果、国際的には、中国が「安心してビジネスができる相手」と評価されはじめています。

日本人は「好き」「嫌い」、「良い」「悪い」という感情で判断しがちですが、大局を見ながら自国の利益を守るしたたかな外交を展開していく必要があるのです。

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山川 徹(やまかわ・とおる)
ノンフィクションライター
1977年、山形県生まれ。東北学院大学法学部法律学科卒業後、國學院大学二部文学部史学科に編入。大学在学中からフリーライターとして活動。『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)で第30回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。著書に『カルピスをつくった男 三島海雲』(小学館)、『最期の声 ドキュメント災害関連死』(KADOKAWA)などがある。最新刊に商業捕鯨再起への軌跡を辿った『鯨鯢の鰓にかく 商業捕鯨再起への航跡』(小学館)。
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富坂 聰(とみさか・さとし)
拓殖大学海外事情研究所教授、ジャーナリスト
1964年愛知県生まれ。北京大学中文系中退。週刊誌記者を経て、フリーに。北京中枢の内部情報から在日中国人犯罪まで、現代中国問題に精通する。1994年に『「龍の伝人」たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞を受賞。『潜入 在日中国人の犯罪』『中国の地下経済』『「反中」亡国論』など、日中問題に関する著作多数。一方で、深刻な“中日問題”に取り組んだ小学館新書『人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた』も話題。
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(ノンフィクションライター 山川 徹、拓殖大学海外事情研究所教授、ジャーナリスト 富坂 聰)