<売春をそそのかした容疑でホスト逮捕>ホストクラブ代で借金地獄に陥る女性が急増中。客もホストも苦しめる「売掛」の問題点とは

「金に困ってるなら立ちんぼ(売春)してみなよ」などと女性客をそそのかしたとして、警視庁は4月27日、東京・歌舞伎町のホストクラブ従業員を売春防止法違反の教唆容疑で逮捕したと発表した。昨今、ホストクラブ業界では飲食代などをツケ(後払い)にし、払える目途が立たなければ客を風俗店で働かせるという物騒な事件が増えている。いわゆる「売掛」と呼ばれるこの独特の文化の問題点を、ホスト業界最大手「gd(グループダンディ、通称グルダン)」のディレクターが指摘した集英社オンラインの記事を再配信する。(初出:2023年3月10日)

ホストクラブが風俗店のスカウトマンを抱えているケースも

ホストクラブ用語としてよく耳にする「売掛」とは、ホストクラブでかかった飲食代や、入れたボトル代などをツケ(後払い)にすること、またはその代金のことを指す。締日までに客がツケを支払えなければ、担当のホストが店に立て替えなくてはいけないため、ホストも売掛の回収には血眼になる。

ヤクザや闇金などの映画では、もし客がツケを払える目途が立たなければ、その代金を稼がせるために“客をソープに沈める”なんて物騒な表現を使うこともある。しかし、いちホストクラブの従業員が本当に女性客を性風俗店で働かせるケースがあるのか。ホストクラブ専門誌に10年以上携わるライターの内村あきこ氏が解説する。

「売掛を払うために女性客が自ら風俗店を探して働くケースはよくありますし、女性客からホストに『稼げる仕事はないか』と聞き、働き口を紹介してもらうパターンもあります。担当ホストに限らず、店経由での紹介ルートもあり、なんならホストクラブが風俗店のスカウトマンを抱えていることもあると聞きます。

スカウトマンからホストに、またはホストからスカウトマンに転身する人は多いので、ホストクラブと風俗店はかなり密接した関係にあるのは確かでしょう」

都内の某ホストクラブ

今回、明るみになった事件以外にも、ホストと女性客の間での売掛は、様々な問題を孕んでいる。グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士によれば、その相談件数は年々増えているそうだ。

「売掛金の相談は以前からありましたが、ホストクラブに行く人が増えたため、売掛金のトラブルも増加している印象です。女性側とホスト側、両者から1日に数件の問い合わせがあります。ホスト側の主張は『女性が売掛を払ってくれない』『お店との売掛トラブル』といったものが中心。

一方で、女性側からは『売掛を払えずにいたら暴力的な言葉で脅してくる』『売掛が払えないから交渉してほしい』『知らない間に売掛が増えていた』といった内容です」

パパ活の流行でホストクラブの客層も低年齢化

ホストクラブでは昔からあった売掛文化。その問題が表面化してきているのはホストクラブの利用客増加だけではないようだ。その現状について業界最大手「gd(グループダンディ)」のグループ店「カラーズ」でディレクターを務める、ゆうは氏はこう話す。

「僕が現役だった20年以上前から売掛はありましたが、現在のように、売掛金が数百万円から数千万円のお客様がザラにいるような状況ではありませんでした。今と違って売掛は若干、恥ずかしいという風潮があったんです。

しかし、2016~17年頃から変わり始めました。それまでのホストクラブのお客様といえば風俗嬢や富裕層などでしたが、パパ活などで若い子が数百万円単位のお金を簡単に稼げるようになって、そういう子が続々とホストクラブに来るようになった。そこから売掛をするお客様が一気に増えた印象です」(ゆうは氏)

確かに、ネットで「パパ活で稼ぐ」という言葉が普及し始めたのは2016年頃だ。それでお金を持て余した女性たちがホストクラブに流れ着いたということだろうか。

ゆうは氏は続ける。

歌舞伎町の至る所で見られる「億越え」ホストの看板

「パパ活女子は20代前半が中心で、ホストクラブの客層の低年齢化に大きく関係している。

また、ホストがSNSで情報を発信するのが当たり前になってきて、それを見た普通の女の子たちがアイドルを見に行くかのような感覚でホストクラブに来たりするので、客層はかなり広がりました。

そうやって普通の女の子がホストにハマり、使うお金が大きくなっていって風俗店で働いたり、パパ活をするようになる……そんな構図ができたんだと思います」

実際にこの取材中、かつては昼間の職業をしていたもののホストにハマったことをきっかけに自ら風俗店で働くようになった女性と遭遇した。

彼女の稼ぎは多い時で1日10万~15万円。相当な収入だが、貯金は300万円ほどしかない。

ホストからの強い希望で500万円のボトルを入れたこともあるそうで、そんな生活をしていればお金は貯まらないだろう。

彼女は高額なボトルを入れる際、例えばそれが500万円だとすれば、そのうち300万円をその日のうちに支払い、残りを締日までに払うか、間に合わなければホストに立て替えてもらっているのだという。

「担当(ホスト)には何度も『無理だ』と言った。でも『イケるよ』とか『2人の夢を叶えよう』という言葉をかけられて押し切られた」と話す。

ホストにとって売上を増やすには売掛が手っ取り早い

前出のライターの内村あきこ氏も言う。

「客の女性たちもこの売掛制度に慣れてしまい、『稼いでから飲む』から『飲んでから稼ぐ』と考える方が増えてきている印象です。

売掛があるから、パパ活や風俗で好きでもないおじさんたちに抱かれることを受け入れるような状況で、それだとなんのためにホストクラブに行っているのか、わかりませんよね……」

「僕が現役だった時代のホストは、しっかりとお客様をエスコートして、自分を認めてもらってお金を使ってもらっていた。それが今は大きく変化している」と、ゆうは氏は言う。

「今はホストのアイドル化が顕著。お客様は推しアイドルのためにグッズを買う感覚で、お酒を入れて売上ランキングの上位に入れるように応援したり、支える傾向が強い。

ホストだって売れたい、有名になりたい、人生を一発逆転したい、と思っていますから、そのためには売掛で売上を増やすのが一番手っ取り早いんです。

ある店では支払いの50%が売掛などを含めて入金されれば、全額がそのホストの売上として反映される。例えば、500万円の支払いのうち、250万円がお客様から入金されれば、500万円売り上げたことになります」

前出の内村氏もこれに付け加えるように解説する。

「見込みでも売上が増えれば“1億円プレーヤー”の道も近づくし、そうなればラッピングカー(繁華街を爆音で音楽を流しながら走る広告トラック)などの広告メディアに大々的に『1億円プレイヤー』と謳えて知名度も上がる。ホストにとっても売掛はメリットが大きいんです」

繁華街に溢れるホストクラブの看板

さらに、売掛に前のめりなのは現場のホストだけではないという。

「店の代表や取締役、幹部といった運営側も、プレイヤーの売上が増加すれば自身の給料も上がる。だから利益優先でホストたちの虚栄心を煽って、売掛にどんどん突入させる店もあるんです」(ゆうは氏)

“1000万プレイヤー”でも実際の収入は10分の1ということも

売掛は、かつて店側に立て替えてもらうケースが多かった。だが、あまりにも売掛を踏み倒す客が多かったため、いつからか店の損害を避けるために担当ホストと客の貸し借りに変化していったという。

このシステム自体に違法性はないのだろうか。

「現状、売掛自体は法律上に問題はなく、当事者の合意があればそれを尊重すべきとされています。

しかし、売掛したもののお客様とホストでケンカになったり、女性が体調不良で風俗で働けなくなったという問題が発生した場合、売掛を飛ばすお客様やホストが現れる。

弁護士や警察にも双方からの相談は絶えないと聞きますので、僕はなんらかの形で法的な規制がされるべきだとは思います」(ゆうは氏)

しかし、法整備の前にホストクラブを運営する側の意識が変わらないと意味がないのではないか。

「『gd』では、毎月必ず売掛ミーティングをして、顧客リストを元にお客様の売掛状況や、これまでの入金実績なども確認しています。また、そのホストが立て替えできる能力があるのかどうかも把握しています。

それと、ホストたちの早く売れたいという気持ちを理解しながらも、ホストの月収に応じて段階的に売掛上限を決めて、過度な売掛をしないような制度ももうけました。

これが正解かはわかりませんが、まず大手の僕たちから対策をして、業界が変わっていけばいいと思っています」(ゆうは氏)

ゆうは氏の関わる「カラーズ」では、ミーティング時に行き過ぎた売掛を行わないよう厳しく指導が行われている

ライターの内村氏も言う。

「売上1000万プレイヤーだと言われてるホストでも、売掛のせいで実際の給料は100万円に満たないことはよくあります。

見せかけの売上競争に欠かせない売掛は、ホストたちの虚栄心をくすぐる制度になってしまっている。これを変えるにはなんらかの規制が必要なのだと思います。

ホストクラブは女性が男性と同じように夜遊びできる場所。だからこそ、分別のある大人が楽しめる飲み屋として原点に立ち返ってほしいです」

健全な居酒屋も夜のお店も、お酒は自分に見合った飲み方をするもの。

ホスト業界でもそれが常識となる日がいつか来るのだろうか。

取材・文/河合桃子

集英社オンライン編集部ニュース班