アパレルの大敵「家計の防衛意識」

新型コロナウイルスによる自粛の影響で、2020年3月から店舗での販売が軒並み厳しい状況になってきた。各社の発表を見ると20年3月の売り上げは前年比5割減、20年4月は8割減、といった企業が多くあったようだ。

「EC(電子商取引)が増えているのではないか」と思われるかもしれない。確かにワールドやアダストリアでは20年5月のEC売り上げが前年比4〜5割増といった状況なのだが、減収を補えるほどにはなっていない。

ワークマンや西松屋など、ユニフォームや日用雑貨品といった生活必需品も扱い、かつ郊外型店舗を主力としてきた企業は、意外と自粛の影響を受けておらず、コロナ禍においても前年同月比で伸長している。一方でファッション性が高くトレンドに合った商品=嗜好品を展開し都市型店舗を主力としてきた「アパレルど真ん中」といえるような企業は大苦戦している。

東日本大震災やリーマンショックのときも家計の防衛意識の高まりから消費支出が抑制される傾向で、いわば需要サイドの減退による影響があった。今回、コロナ禍で多くの店舗が休業状態になってしまった。需要サイドに加えて、供給サイドの縮小も重なったことが震災やリーマン以上の打撃となった所以である。今回の場合、百貨店や駅ビル自体が休業したため、中にある店舗が営業を続けるかどうかの意思決定をアパレル企業側が主導することもできない状況となった一方で、郊外の直営の店舗であれば感染リスクを抑制可能であると判断して営業継続の意思決定ができた。

郊外のロードサイドは店舗や駐車場が広いので3密を避けやすい。そのため「旅行はできないが、どこか安全なところに出かけたい」という人が集まりやすい、という傾向もあったようだ。

■構造改革に本格的に向き合わなくてはならなくなる

アパレル業界の「たくさん店舗を持ち、たくさん在庫を持つ」というスタイルは、いわばハイリスクハイリターン型のビジネスでありアパレル市場の成熟に伴い見直しの必要性が迫られていた。大量生産販売型モデルは市場が伸びているときには大きな利益が出るが、現在は基本的に国内市場がシュリンクしており、目標とする売り上げを達成できず固定費のインパクトが大きくなり結果的に資金繰りがショートして倒産する企業が増えてきている。業界構造的に手を打つのが難しいため各社が問題を先送りしてきたが、コロナをきっかけに、構造改革に本格的に向き合わなくてはならなくなるだろう。

すでに動き出している企業もある。例えばワールドは今回の決算で「プラットフォームを外部企業へオープン化する外販にも注力する」「ファッション業界における“総合サービス企業グループ”へと進化を図る」といったメッセージを出しており、実際にOEMや店舗内デザインの設計コンサルティングなどを手掛けている。これまでやってこなかったBtoBサービスに手を広げるのは葛藤もあったと思うが、自分たちの持っているリソースを生かす新たな方向を模索する姿勢は評価したい。

震災の際は嗜好品全体が沈んだが、今はものによって回復している。旅行が落ち込む代わりにアパレルにお金が行く、といったこともありうるので、そういった需要をしっかり摑めるかが重要になるだろう。

(野村総合研究所 ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 主任コンサルタント 土橋 和成 構成=吉田洋平)