大人になっても急に「食物アレルギー」になる?

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執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ

食べ物が原因で免疫システムに異常をきたし、さまざまな症状をもたらすものを「食物アレルギー」といいます。

子どものときになるものと思われがちですが、大人になってから症状が出ることがあります。

今回は、この「大人の食物アレルギー」について解説したいと思います。

成人でも発症する食物アレルギー

「食物アレルギーの診療の手引き2014」によると、日本における食物アレルギーの有病率は推定1〜2%です。さらに、有病率を年齢別にみると、乳児はおよそ10%、3歳児はおよそ5%、保育所児は5.1%、学童以降は1.3〜4.5%とされていて、年齢が上がるほど有病率は低くなる傾向にあります。

しかし、中には大人になってから急に発症する人もいます。

しかも、子どもの食物アレルギーと大人のアレルギーには原因になりやすい食物や症状の現れ方に違いがあり、大人の方が子どもに比べて症状が落ち着きにくいという特徴もあります。

そこで、大人のアレルギーにはどのような特徴があるのか、詳しく見ていきましょう。

大人の食物アレルギー、原因となる食物

食物アレルギーの原因と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、鶏卵や牛乳、小麦などではないでしょうか?

実際、これらの食品は食物アレルギーを引き起こしやすいもので、とくに有病率が比較的高い0〜3歳までの即時型食物アレルギー(原因となる食物を摂取してから2時間以内にアレルギー症状が出るもの)の原因のうち、上位3位を占めています。

中でも鶏卵が原因で症状が現れる割合は高く、0歳児の56.5%、1歳児の43.7%が鶏卵を原因とする食物アレルギーです。

一方、20歳以降の原因を見てみると、以下のような結果になっています。


・1位:小麦(36.4%)

・2位:甲殻類(13.9%)

・3位:魚類(11.3%)

・4位:果物類(7.9%)

・5位:ソバ(6.0%)


この結果から子どもの食物アレルギーとは原因となる食物に大きな違いがあることがわかります。

※出典:『食物アレルギーの診療の手引き2014』

大人の食物アレルギー、症状

食物アレルギーになると、皮膚のかゆみや赤みなどの皮膚症状、くしゃみや鼻水、目の充血などの粘膜症状、腹痛やおう吐・下痢などの消化器症状、喉頭の絞扼感(こうやくかん;締めつけらる感じ)や喘息などの呼吸器症状、頻脈や意識障害などの全身症状など、さまざまな症状が現れます。


ただし、これも年齢よって現れやすい症状に違いがあります。

たとえば、新生児や乳児に見られる「新生児・乳児消化管アレルギー」では、おもに牛乳などが原因で下痢やおう吐などの症状が出ます。また、新生児期には食物アレルギーが関係してアトピー性皮膚炎の症状が出ることもあります。

一方、大人の食物アレルギーの特徴として、次のものが現れやすいといわれています。

食物依存性運動誘発アナフィラキシー

原因となる食物を摂取した後に運動をすることでアナフィラキシー(複数の臓器にアレルギー症状が現れること)を起こします。

非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)や一部の食品添加物、アルコール、入浴などが悪化させる因子になると考えられています。

口腔アレルギー症候群

唇や口腔内の粘膜に果物や野菜などが接触することで、じんましんの症状が現れるもの。

花粉症やラテックス(ゴム)アレルギーがある場合に特定の食物を摂取すると、それぞれの抗原(アレルギーの原因となる物質)が反応を起こして症状が出ることがあります。

鶏卵や牛乳、小麦などによって発症する子どもの食物アレルギーの場合、徐々に免疫ができていき、高い確率で症状が寛解(落ち着く)していきます。

ところが、大人の食物アレルギーは、原因となる甲殻類や魚類に対して耐性を作ることが難しく、寛解する可能性は低いと考えられています。そのためにも、大人になってからの発症は防ぎたいもの。では、予防する手立てはあるのでしょうか?

食物アレルギーの予防

現在、食物アレルギーの予防法についてさまざまな研究が行われていますが、今のところ完全に予防する方法は確立されていません。

そのため、まだ発症していないうちは、過度に食事を制限する必要はありません。栄養が偏り免疫力が低下すると、かえって発症しやすくなりますから、バランスの良い食事を心がけるようにしましょう。

また、免疫力を高めるためには運動も不可欠ですが、先に述べたように原因となる食物を摂取した後に運動することで、症状が出ることもあります。

ですから、食後に運動してアレルギー症状が出た場合は、食物アレルギーの可能性を疑い、受診するようにしましょう。食物依存性運動誘発アナフィラキシーの場合は、食後2時間以内(できれば4時間以内)の運動を避けるなどで、症状を回避させられる可能性もあります。


このほか、スキンケア製品など皮膚に触れるものにも注意をしましょう。


以前、小麦を使ったスキンケア製品が原因で食物アレルギーを発症したケースがニュースになりましたが、これまでの研究で、原因となる食物に皮膚が触れることでも食物アレルギーを発症することのあることが分かってきました。

そのため、皮膚に触れるものが原因で食物アレルギーを発症することがあると頭に入れておき、もし、スキンケア製品を変えた後にアレルギー症状が出た場合は、使用を中止して医療機関を受診しましょう。

なお、食物アレルギーは全身に症状が出て、ひどい場合には意識障害などを起こす可能性があるため(アナフィラキシーショック)、食物アレルギーが疑われる場合、必ず医療機関を受診し、検査を受けるようにしてください。


【参考】
・厚生労働省『食物アレルギーの診療の手引き2014』(http://www.foodallergy.jp/manual2014.pdf)

<執筆者プロフィール>
吉村 佑奈(よしむら・ゆうな)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。某病院での看護業務を経て、現在は産業保健(働く人の健康管理)を担当

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供