日本郵船(中国)・伊藤氏:日本初の海外航路は神戸経由の上海行きだったのです
【張文芝の国際人探訪】
こんにちは、神戸市上海事務所の張文芝です。このコーナーでは毎回、私が世界の舞台で活躍する魅力的な国際人を訪問します。今回は、神戸や上海の港に縁の深い日本郵船を訪ね、その中国総代表の伊藤隆夫さんにお話を伺いました。
産業シフトで中国比率高まる
張文芝: 実は御社とはご縁があります。神戸大学の学生時代、鉄鋼大手の宝鋼集団の通訳として、御社の施設を訪問しました。宝鋼が川崎重工業から購入した精密機械を御社の船で上海まで運ぶことになり、機械梱包の様子などを見学させていただきました。御社は日本を代表する船会社ですが、その魅力は何でしょうか?
伊藤隆夫さん: 外航海運を手がけているため、国際性があり、世界事情に通じて仕事ができることでしょうか。実際に私自身、若い頃に米国の鉄道会社へ研修で派遣されたのを皮切りに、英国ロンドンに4年半、シンガポールに6年駐在し、中国は4カ国目となります。もうひとつの魅力は、様々な業務を経験できることでしょう。若い内にローテーション制で多くの部署を経験し、営業などを通じ幅広い業界の方々とお付き合いして、視野の広い見方ができるようになります。
――御社は歴史的に中国との縁が深いと伺っています。
弊社のルーツをたどっていくと、昨年の大河ドラマ「龍馬伝」に登場した岩崎弥太郎に行き当たります。岩崎は1873年に三菱商会を創設、75年に日本初の海外航路を開設し、社名を郵便汽船三菱と改称します。その航路というのが、横浜を起点に神戸、下関、長崎を経由して上海に向かうルートだったのです。郵便汽船三菱は1885年に共同運輸と合併し、日本郵船が成立して現在に至ります。戦前はバンドの旧英国領事館の隣、現在の上海半島酒店の敷地内に上海支店があったのですよ。
――日本初に神戸も上海も入っているのはすごい縁ですね!御社の中国ビジネスの現状についても教えてください。
弊社の業務において、中国比率が高まっていることは確かです。これは産業構造のシフトと軌を一にしています。世界のコンテナ取扱港の推移で見た場合、1980年の世界コンテナ取扱量のトップテンには中国大陸地区の港は1カ所もランクインしていませんでしたが、09年には上海、深セン、広州、寧波、青島と5カ所も入っています。特に上海は昨年の速報値でシンガポールを抜き、ついに世界一となったようです。中国はトップダウンの意思決定が早く、すぐに実行されるところがすごい。空港や高速鉄道などのインフラ整備が急ピッチで進んでいますが、港湾でも上海洋山港や最近の天津港の発展には目を見張るものがあります。天津の東彊港区には船の形をした巨大な客船ターミナルが昨年、完成しています。
――天津と神戸は1973年に姉妹都市を締結し、港同士も80年に姉妹港となりました。天津は私の生まれ故郷ですが、その発展ぶりは本当に驚くばかりです。
弊社は自動車業界にも注目しており、上海と天津、大連、広州(南沙)の4カ所で自動車専用船ターミナルに投資しています。現在、高級車の輸入がすごい勢いで伸びており、今後は自動車の国内輸送や輸出も増えていくものと思います。
文化の共有が経済的な繋がりに
――中国でのお仕事にはご苦労もおありかと思いますが、どんな点に気をつけておられますか?
世界中どこへ行っても同じことですが、ビジネスは人と人との付き合いがベースになります。そのため、相手の立場に立って考えることが必要です。一方的な“ギブ”や“テイク”だけではなく、お互いが納得できるようにバランスを取ることが大切なのです。
――おっしゃる通りです。中国では知識教育が重視されていますが、成功を収める上ではコミュニケーション力がより重要といいます。私生活ではどのように中国と関わっていらっしゃいますか?
中華ポップスが大好きで、周傑倫や王力宏、梁静茹といった若い歌手の曲をよく聴いています。海外生活に馴染むのに、音楽は格好のきっかけだと思います。歌詞でボキャブラリーが増えますし、カラオケで歌えば若い人と仲良くなれます。ストレス発散とボケ防止にもなるので一石三鳥です(笑)。以前は広東語で歌っていた香港地区の歌手も、最近は普通話で歌うことが多くなっています。これら普通話の歌は海外の華僑もよく知っています。東南アジアを含む大中華圏はこのように文化を共有しており、これが経済上の特別な結び付きに繋がっているのだと実感するようになりました。
神戸港が戦略港湾として再出発
――今年(2011年)は御社にとってどんな年となりそうですか?
昨年上期は景気の急激な回復が追い風となりましたが、今年は難しい年になると思います。中国市場が従来の“トップギア”で走り続けるのか、それとも“巡航速度”に落ち着いていくのか、中国政府が諸問題をどう解決しようとしているのか、その中で弊社がどう商売していくべきかを見極めなければなりません。
――神戸港は昨年8月、大阪港とともに「阪神港」として、国土交通省から国際コンテナ戦略港湾の指定を受けました。今年4月には、神戸港埠頭公社を民営化して再出発します。御社は神戸港にとって最も大事な顧客ですが、神戸港の発展に向けてアドバイスをいただけないでしょうか?
「これが神戸だ!他とは違うんだ!」という特色をどんどん打ち出していただきたいと思います。弊社としても、魅力ある港湾であれば積極的に利用したいわけです。世界的な流れを見ながら、神戸に何ができるかを考えるとよいのではないでしょうか。例えば、神戸には今、医療目的で訪れる外国人も多いと聞いています。そこで、病院船を走らせたら面白いかも知れません。クルーズ中に健康診断や治療を受けられ、船を降りたらそのまま神戸観光ができるツアーを組んだらどうでしょう。
――素晴らしいアイデアです!神戸は観光資源も豊富ですから、客船を誘致したら相乗効果が見込めるかも知れませんね。今日は貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました。(情報提供:ウェネバー/ビズチャイナ/ビズプレッソ 取材担当:岩下祐一 編集担当:水野陽子)
==================================================================プロフィール: 伊藤隆夫(いとう・たかお)
1977年、一橋大学経済学部卒業後、日本郵船入社。米国、英国、シンガポールで通算12年の海外駐在を経て、06年4月、日本郵船散貨運輸(中国)有限公司董事長に就任し、中国駐在を開始。08年9月、日本郵船経営委員・中国総代表、日本郵船(中国)有限公司董事長、日郵物流(中国)有限公司董事長に就任し、現在に至る。
