今の中学生は「明石家さんま」を本当に知らない…脳科学者が「50代はそんな若者を先生にしろ」と話す意外な理由
※本稿は、茂木健一郎『50歳からの「一生使える脳」のつくり方』(三笠書房・知的生きかた文庫)の一部を再編集したものです。

■「明石家さんまって、誰?」
先日、ある中学生と話していたら、衝撃的なことを耳にしてしまいました。
「明石家さんまって、誰?」
なんと、今の中学生たちはお笑い界の大御所である明石家さんまさんを知らないというのです。
あまりに衝撃だったこの事実を、私は「地上波テレビ、衝撃の凋落。」というタイトルでブログにもアップしたのですが、これが何を物語っているのかといえば、今の若い世代たちの一部はテレビを一切見ないということです。
これだけではありません。さらに別のある中高一貫校を訪問したときのことです。全校生徒に向けて、私はこんなことを尋ねたのです。
「NHKの大河ドラマ『西郷どん』を見ている人は手を挙げて!」
すると、その結果があまりにも衝撃的でした。
なんと、全校生徒2000人中、たった1人しか見ていなかったのです。
さて、ここからが本題です。
そんな若者たちが世の中の話題や流行に遅れているのかといえば、それもまた違うのです。
彼らはネットや同世代から得ることができる独特の情報文化をしっかり確立していて、彼らなりに明確な情報収集をしているのです。
■「スマホ片手でサボっている」は大間違い
よく、若い人がずっとスマホ片手に何かやっていると、ついおじさん世代やシニア世代は「あいつ、またサボっているな」と思いがちですが、こうした考え方が既にもう世代のギャップになっています。
若い世代がスマホで何をやっているかといえば千差万別で、それこそゲームをやっている若者もいる一方で世界のトレンドをチェックしていたり、論文を読んだり、音楽をつくったり、プログラムをやったりしているのです。

逆をいえば、そうした若者たちが得ている最新かつ有益な情報やネット文化の取り組みを想像できていないのが、50代の皆さんのほうなのかもしれません。
好奇心を持って脳を活性化させるためには「情報収集の浦島太郎」になってはいけません。
一般的にテレビや新聞、あるいは一部の限られたネットニュースなどから情報を得ている50代というのは、もはや別の世界に住んでいるのと同じくらい世の中から隔離されてしまっているわけです。
■鮮度があって深みのある情報を収集する
では、そのような情報収集の浦島太郎から抜け出すメリットとは、いったい何でしょうか。
私は、そうした時代の最先端や若い世代の流行を追いかけるための情報源こそが新しい教養の種に繋がっていくと考えています。
これが、脳を活性化させる大きな武器となるのです。
なぜ、子どもたちや若い世代にはたくさんの好奇心が生まれるのかといえば、彼らには自分の魂を揺さぶる情報が頻繁に入ってくるからです。
そうした好奇心が脳を興奮させ、活性化させるということです。
何も情報を手にしていない、あるいは自分の興味関心を深掘りできるような情報を手にできていない人に、好奇心は生まれないのです。
50代で脳を活性化できていない人たちというのは、おそらくそうした自分の魂を揺さぶる情報を手にしていないのではないでしょうか。
それでは好奇心が芽生えることはないので、脳を活性化させることはできません。
ですから、私自身は今、小学生や中学生くらいの気持ちでさまざまなところから、鮮度があって深みのある情報を収集しています。
もちろん、昔から変わらない「人間としてどう生きるか?」「人生の目的は何か?」といった大きな問題はネットには答えはありませんが、光のような速さで進んでいるトレンドや時事経済的な情報をキャッチできるスピード感は持っていて損はありません。
■若い人たちの「生徒」になると脳が若返る
ここまで述べたとおり、若い世代とのいわば教養のエクスチェンジによる脳科学的なメリットもあります。
その1つが、「脳の若返り」です。
皆さんは、脳科学用語の「ミラーニューロン」という言葉をご存じでしょうか。
1996年にイタリアの脳科学者ジャコモ・リゾラッティらによって発見された前頭葉にある神経細胞で、その名前が示唆するように、自分の行為と相手の行為を鏡に映し合うのです。
たとえば、相手が喜んでいると自分まで楽しい気分になってくる。あるいは相手が悲しんでいる様子を見ると、なんだか自分まで気分が落ち込んでくる。
誰もがこのような経験をしたことがあるはずです。
これは、脳の中で相手の行動や感覚を自分の脳に映し込んで認識するミラーニューロンが働いている証拠なのです。
つまり、若い人たちの「生徒」になって、いろいろな教養や相手の気持ちに共感することで、自分がその年齢だった若いときのことを思い出すわけです。
すると、脳の回想療法で脳が若返るという効果があるのです。

■新聞社で働く2種類の人間
私たちの記憶というのは、年代別になっています。
つまり、自分が若かった昔の記憶を思い出すと、そのときの関連情報が脳の引き出しから呼び出されて出てきます。
すると、脳が若いモードに変換されることで、感情も若いときの気持ちを思い出す。これが脳の感情システムです。
ところが、同時代的な教養を身につけるための若い世代との教養のエクスチェンジができない人というのは、どうしても「時代遅れ感」を拭うことができません。
「もう私は前の時代の人間だから」
「今の時代のことがさっぱりわからない」
このような考え方は、脳が老化の一途を辿る兆候だと認識してください。
私の周りにも、こうした考え方の人たちがいます。
たとえば、新聞社の人と話をしていると、面白いように2種類の人間に分かれます。
一方は「もう紙の新聞の成長は厳しい。だから次のビジネスを考えよう」というタイプの人です。
もう片方は「やっぱり紙の新聞は大事ですよね。紙の新聞を教育の中で使いましょう」などという人。つまり、新聞1つとっても進歩派と守旧派があって、その守旧派の方というのは一定の役割は果たしているのですが、やはり前の時代にしがみついている感じが拭えないわけです。
■自分たちの当たり前を正当化しない
それは、テレビ業界の人と話をしていても同じです。

たとえば、先に述べたような「今の小中学生はテレビを一切観ないんですよ」「今の子どもたちって明石家さんまさんを知らないんですよ」といった話題になると、守旧派の人は「いや、だけどユーチューブでみんなテレビを観ているんでしょう?」などと言って、テレビを正当化しようとするわけです。
そんな中で私の知っているテレビマンは、若い世代のテレビのあり方についてしっかり考えているようで、「視聴率なんか無視しろ!」と言っていたのがとても印象的でした。
それがどういうことかと詳しく訊ねると、テレビ番組にとって小中学生が観てくれないとなると、どこかで崩壊するときが必ず来るわけです。
だからこそ、ネットやSNSなど若い世代のフィールドに合わせた番組づくりをメインに見据えることで、視聴率至上主義からの脱却を図ることにシフトしたそうです。
それによって、そのテレビマンは小学生から大人まで広い世代に受け入れられている大ヒット番組を生み出したのです。
これはまさに、同時代的な教養を身につけるための若い世代との教養のエクスチェンジができたからこそなせる術だというわけです。
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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎)
