障害や病歴はセンシティブな情報だが…(Peak River / PIXTA)※写真はイメージ

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発達障害であることを暴露され、解雇された」

障害福祉サービスを提供するX社で、ヘルパーとして約3年間勤務していたAさん。ある日、業務上の相談の中で社長に自身の発達障害を打ち明けたところ、その事実を他の従業員に暴露された上、「採用時のアンケートに虚偽記載があった」として解雇を言い渡された。

Aさんはこれを不服として提訴。裁判所は、この解雇と暴露のいずれも違法と判断し、X社に合計80万円の支払いを命じた。

以下、実際の裁判例をもとに事件を解説する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

X社は、障害福祉サービスを提供しており、居宅介護や介護施設へのヘルパー派遣などを行っていた。Aさんは、ヘルパーとして登録しており、重度訪問介護のヘルパーとして働いていた。

■ 雇用契約時のアンケート
Aさんは、採用面接を受けた際、社長からアンケートへの回答を求められた。アンケートには「得病・障害等について」という設問があり、下記の記載があった。

「得病・障害等のある方は、その内容について出来るだけ具体的にお書きください(病気、障害の種類・症状・ウイルス性の病気など・仕事をお願いする上でこちらが注意すべき事、など)

これは、介護(ホームヘルパー)という仕事の性質上採用する側としてあらかじめ把握しておきたい事です。得病や障害があったら即不採用、というわけではありませんので、ご理解ご協力いただけますよう宜しくお願い致します」

Aさんは、発達障害の1つである某症状を有していたが、業務と無関係な障害について会社に告知する必要はないと考え、「タバコが苦手です。それ以外は特にありません。」とだけ記載し、発達障害については記載しなかった。

■ 会社の知るところとなる
約3年後、Aさんは、シフトを巡って社長と会話する中で、自身が発達障害を有していることを社長に伝えた。以下の会話は、判決文から抜粋したものだ。

Aさん
「体力的に、160時間、他の人みたいにということも、やっぱりクリアするのは難しい」
「それはやっぱり私が健常者ではない、障害者であるということもかかわってきます」

社長
「何の障害者。」

Aさん
「●●発達障害っていうやつですね。」

■ 他の従業員への暴露
その翌日、社長は社員4名に対して、前日のAさんとの話し合いの概要を伝えた上で、Aさんが発達障害であることを暴露した。そして、彼らに対して「虚偽の申告をされていたことが明確になったので、即時解雇をと思いますが、3か月の猶予を設けて辞めて頂くか、受入れてもらえない場合は、今月か来月から、シフトを組まないことを考えています」と伝えた。

■ 解雇
その1週間後、X社はAさんを解雇した。解雇の理由は“不実記載”だ。下記の就業規則に基づく解雇である。

「登録ホームヘルパーは、日常業務を遂行するについて、虚偽の報告又は申告をしてはならない」

これを受け、解雇に納得できないAさんが損害賠償を求めて提訴した。さらにAさんは、「発達障害であることを暴露された」ことについても違法であるとして損害賠償を請求した。

裁判所の判断

Aさんの勝訴だ。裁判所は、X社に対して、暴露については「慰謝料30万円」、解雇については「慰謝料50万円」を支払うよう命じた。以下、順に解説する。

■ 暴露の違法性について
社長の反論は以下のとおりだ。

「Aさんの解雇を決定する意思決定過程として、社員4名に伝える必要があった。彼らはサービス提供責任者であって、かつ、Aさんに関わる者であったからだ。したがって、暴露は違法ではない」

しかし、裁判所は次の点に着目し、この反論を認めなかった。

社長は、Aさんに発達障害があることを社員4名に伝えるメールにおいて、“即時解雇をと思います”と記載している 伝えられた社員の1人は、法廷で、解雇は社長が決めることであって、Aさんの解雇に関して協議をしたことはなかったと供述している このような事実に照らせば、Aさんに発達障害があることを、社長が社員4名に開示したことは、意思決定の過程とはいえない

さらに裁判所は、「Aさんを解雇することをサービス提供責任者に伝える必要があったとしても、その理由としてAさんが発達障害者であると伝える必要があったとはおよそ考え難い」と判示している。

そして、「この暴露は、Aさんの人格権を侵害する違法なものである」として、慰謝料を30万円と算定した。

■ 解雇の違法性について
社長の反論は以下のとおりだ。

「就職時のアンケートにおいて、Aさんが自身の発達障害を記載しなかった。不実記載を理由に解雇した。Aさんに発達障害があることを理由に解雇したのではない」

裁判所はまず、次の事実を認定した。

たとえば、就職時に料理できるというスキルがある旨を申告していたのに、実際にはそのスキルを持っていなかったという者も少なからずいたが、その不実申告を理由として解雇した例はなかった 本件解雇は、本件アンケートへの不実記載それ自体が問題とされたとはいえない。また、Aさんは約3年勤めており、その間、X社はAさんの就労状況に関し具体的な問題を指摘していなかった 社長は、Aさんに発達障害があることを知った翌日には解雇を決めていた

上記の事実を踏まえて、裁判所は「このような経緯からすれば、解雇の理由はAさんが発達障害者であることを理由とするものとしか考えられない」と判断した。

そして、本件解雇は、「Aさんが発達障害者であることを理由としてなされた差別的なものであり、Aさんの人格権を侵害する違法なもの」として、X社に対して慰謝料50万円の支払いを命じた。

なお、解雇は労働組合と会社との団体交渉の結果、3か月余りで撤回されており、その間の賃金は支払われている。

最後に

障害や病歴は、センシティブな情報である。会社がこれを知ったとしても、必要性なしに他の従業員に共有することは許されない。

本件でX社は、解雇理由をアンケートへの「不実記載」だと主張した。しかし裁判所は、社長がAさんの障害を知った直後に解雇を決定していることなどから、実質的には障害を理由とする差別的な解雇だと見抜いた。また、社員らへの暴露が解雇の意思決定に必要な情報共有だったという主張も、すでに解雇の方針が固まっていたことなどから退けられている。

企業が従業員の病歴や障害に関する情報を扱う際は、取得・共有・利用の各段階で、業務上の必要性を慎重に吟味し、本人のプライバシー保護を徹底する必要がある。表面的な理由を取り繕っても、実態が伴わなければ法的なリスクを免れないことを、この事件は示している。参考になれば幸いだ。