【安蔵 靖志】ドンキやニトリも参入…「大手の独擅場」はもう古い「ジェネリック家電」のカラクリ
大手メーカーに比べて圧倒的に安く、それでいて必要十分な機能を備えた「ジェネリック家電」。かつてはナショナルやソニー、東芝、日立といった大手の独擅場だったはずの家電市場に、なぜ今、ニトリ、ドン・キホーテといった小売企業までもが続々と参入できるのか。IT・家電ジャーナリストで、著書に『家電ビジネス』がある安蔵靖志氏が解説する。
誰でも家電メーカーになれる時代に
かつて、家電といえばナショナル(現・パナソニック)やソニー、東芝、日立といった大手メーカーの独擅場でした。
しかし現在、家電量販店やネット通販、さらにはディスカウントストアの店頭を眺めると、聞いたことのないブランドや、家具店・小売店が展開する家電があふれています。
大手ブランドに比べて圧倒的に安く、それでいて必要十分な機能を備えたこれらの製品は「ジェネリック家電」などと呼ばれ、急速に市場を拡大しています。なぜ今、これほどまでに家電メーカーが続々と誕生しているのでしょうか。
家電メーカーを立ち上げるには、かつては莫大な費用を投じて研究所や工場を設立・維持する必要がありました。しかし現在の家電づくりの拠点は、中国の深センや台湾、香港といったアジアの巨大な製造エコシステムへと移っています。
ここには、家電を製造できる工場だけでなく、基板の回路設計や外装デザインを専門に行う企業が数多く存在します。
彼らはすでに「標準的な冷蔵庫」や「一般的な炊飯器」のベースとなるモデルを無数に持っています。そのため、自社に技術者がいなくても、こうした企業にアイデアさえ提示すれば、誰でも「メーカー」として製品を世に送り出せるのです。
独自の進化を遂げたアイリスオーヤマ
さらに手軽な手法もあります。
世界最大級の家電見本市である「香港エレクトロニクス・フェア」などの展示会では、香港近郊の工場やメーカーが自社製品を展示しています。
バイヤーは、展示されている製品の中から売れそうなものを選び、「本体の色を白に変えて、我が社のロゴを入れてほしい。まずは5000台発注する」――これだけで、実態は「商社(買い付け)」であっても、立場は「自社ブランドを持つメーカー」へと変わります。
デザインの微調整やパッケージの指定を行うだけで、あたかも自社で開発したかのように製品を発売できるのです。
一方で独自の進化を遂げたのがアイリスオーヤマです。日本の大手家電メーカーが早期退職者を募った際、アイリスオーヤマはその熟練技術者たちを積極的に採用しました。シャープやパナソニックなどで長年培われた高い技術やノウハウと、同社のスピード感のある経営を融合させたのです。
その結果、単なる安物ではない、「なるほど」と思わせる便利な機能を備えた独自の家電を次々と開発し、ジェネリック家電の域を超えた存在へと成長しました。
メーカー化するニトリとドン・キホーテ
さらに近年では、ニトリやドン・キホーテといった「小売・流通企業」がメーカー化する現象が加速しています。
これらの企業には、日々何百万人もの顧客が訪れ、「何が不満か」「いくらなら買うか」という膨大なデータが蓄積されています。彼らは、他社の家電を仕入れて売るよりも、自分たちで工場と直接交渉して作ったほうが、利益率が高く、顧客のニーズにも合致することに気付きました。
「情熱価格」を掲げるドン・キホーテの4Kテレビや、一人暮らしのトータルコーディネートを提案するニトリの家電シリーズは、もはや家電専業メーカーにとって無視できない脅威となっています。
彼らは「売り場」という最強の武器を持っているため、広告宣伝費をかけずに新製品を浸透させることができるのです。
ジェネリック家電メーカーが続々と増えている謎。その答えは、家電の価値が純粋な「技術力の高さ」から、「企画力とライフスタイルへの提案力」へとシフトしたことにあります。
多くの家電において基本機能はすでに飽和状態にあるため、消費者が求めるのは「最高スペック」ではなく、「自分の生活にちょうどいい機能と価格」です。
工場を持たずに技術をアウトソーシングし、ユーザーに近い場所でアイデアを形にする。そんな身軽なメーカーが、伝統的メーカーがカバーしきれなかったすき間を埋めているのです。
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