介護施設で「スキマバイト」が急速に拡大…実際にバイトとして潜入した記者が覚えた「大きな戸惑い」

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介護現場を救うマッチングサービス

東京都港区に構える、さる高級特別養護老人ホーム(特養)内の食堂。5人の入居者がくつろぐ室内には、テレビから流れるバラエティ番組の笑い声だけが響き続けていた。

夕食の後片付けをしている本誌記者の後ろには、高齢女性がひとりいる。車いすに深く沈み込み、眠りについたかのように目をつむったままだ。それから数秒後、想定外の事態が起きてしまう。

「ヴウゥゥ……」

後方から唸り声が響き渡り、背中に強烈な圧力がかかる。

車いすの女性が痩せ細った腕で記者の体を摑み、声を振り絞って立とうとしたのだ。その足元はおぼつかない。支えを失えば、次の瞬間には硬い床へ叩きつけられるだろう。

対応を間違えれば、命にかかわる大事故になるかもしれない。その重圧に身をすくませた刹那、颯爽と現れた職員が「ダメでしょ〜」と腕を離し、彼女を椅子へ押し戻した―。

現在、介護現場は出口の見えない慢性的な人手不足で疲弊している。厚生労働省の推計によれば、不足している介護職員数は約25万人に上る。

この絶望的な状況を背景に、ある「救世主」が急速に勢力を広げている。

それが、スキマ時間で働きたい個人と介護施設をマッチングするサービスだ。数年前から複数の事業者が立ち上げていて、介護の素人が、すぐに特養などで働けるという。

そこで実態を探るべく、介護系マッチングサービスを使い、介護現場へと潜入した。

部外者でも「書類と面接は不要」

どのサービスも手順は同じだ。名前と生年月日、電話番号を打ち込んで身分証の写真を送付するだけ。登録が完了したら、スポットで働き手を募集している介護施設に応募。複数回メッセージをやり取りすれば即日で働ける。介護に関する資格は不要で、清掃や配膳などの単純作業を任される仕組みだ。たいていの勤務時間は2〜3時間で、書類や面接もいらない。

冒頭とは別の日に、記者はマッチングが成立した渋谷区の特養に向かった。

施設長に「スキマバイト」の者だと伝えると、さっそく清掃の仕事を頼まれた。一部屋ずつ回ってシーツの交換である。そして職員からはひとつだけ指示を伝えられる。

「入居者の個室に入るときはいちおう大きめのノックをして入ってくださいね。まあ、もし返事がなければ入ってしまっても大丈夫です」

実際に業務を始めてみたところ、ノックをして返事が返ってくることは滅多にない。何回も声掛けをした上で入室すると、熟睡していたりテレビを観ていたりする。個室内のトイレのドアを全開にしたまま用を足す入居者もいた。

普段から密にコミュニケーションを取っているスタッフならいざ知らず、自分のような外部の人間がずかずかと居室に入り込んでいいものなのか……と戸惑ってしまう。

【後編を読む】介護施設に「スキマバイト」として潜入して痛感…現場の「強烈な人手不足」と「セキュリティ対策の杜撰さ」

「週刊現代」2026年6月8日号より

【つづきを読む】 介護施設に「スキマバイト」として潜入して痛感…現場の「強烈な人手不足」と「セキュリティ対策の杜撰