左上から時計回りで、松波、宮本、明神、藤ヶ谷、森下、山口の各氏。現在のガンバには総勢14名のOBが籍を置いている。(C)SOCCER DIGEST

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 何年かぶりに、懐かしい顔と再会した。

 柏レイソル、ガンバ大阪、名古屋グランパスと渡り歩き、昨年末、AC長野パルセイロで現役生活にピリオドを打った明神智和である。42歳とは思えない清々しい笑顔を見せ、新しいチャレンジに胸を躍らせている様子だった。今季から古巣ガンバに舞い戻り、指導者としてのキャリアをスタート。いきなり名門ジュニアユースのコーチに抜擢登用されたのだ。

 指導者ライセンスはすでにB級まで有しているが、実際のコーチ経験は皆無に等しい。そんな明神が、中学1年生のチームを担当する。関西全域のジュニア年代でお山の大将だった少年たちが、晴れて正式にJリーグ下部組織の一員となる難しいタイミング。Jリーグで確固たるキャリアを築き、日本代表としても奮闘した名ボランチは、まさにピッチ内外でプロの鑑だった。その人間性こそが、U-13チームの指導者に問われる不可欠な資質なのだという。2015年に宮本恒靖がガンバに帰ってきた際も、まずはU-13の指導を託された。

 かつてガンバのトップチームで名を刻んだOBたちが、次から次へと帰還を果たしている。今季は前述の明神が吹田に到着し、昨季はJクラブでの監督経験が豊富な森下仁志がU-23監督に、高木和道がユースコーチに就任した。現在クラブに籍を置く、トップ経験のあるOBは14名にのぼる。その顔ぶれと役回りは以下の通りだ。

和田昌裕(55歳/強化アカデミー担当参与)
島田貴裕(55歳/ユース監督)
森下仁志(47歳/U-23監督)
松波正信(45歳/強化アカデミー部長)
松代直樹(45歳/トップGKコーチ)
宮本恒靖(43歳/トップ監督)
明神智和(42歳/Jrユースコーチ)
山口 智(41歳/トップヘッドコーチ)
高木和道(39歳/ユースコーチ)
藤ヶ谷陽介(39歳/JrユースGKコーチ)
児玉 新(37歳/トップコーチ)
青木良太(35歳/強化アカデミー部スカウト担当)
中山悟志(38歳/強化アカデミー部スカウト担当)
大塚翔平(29歳/ジュニアコーチ)

 
 町中大輔や與貴行、安本真哉らトップ昇格を果たせなかった下部組織経験者を含めば、その総数はゆうに20名を超える。昨季はFCティアモ枚方(関西1部リーグ)に籍を置くOBコンビ、二川孝広と岡本英也もジュニアスクールで指導にあたった。

 鹿島アントラーズや浦和レッズなどもOBが多いクラブだが、チーム強化の中枢にこれだけの数のOBを据えているのは、なかなかレアなケースだ。
 どちらかと言えば、ガンバはOBに対して冷たいクラブだった。数年前までクラブ内で仕事に従事するOB(プロ経験者)は数人程度で、そもそもそこに重要性を見出してもいない。引退や退団のセレモニーは実施しても、鹿島のようにテストモニアル(引退記念試合)などは開催されなかった。

 流れが変わったのは、やはり生え抜きでアイコンだった宮本の帰還だろう。2000年代まで隆盛を極めていたアカデミーを改革すべく、クラブとしてのDNAを受け継ぐOB──とりわけ下部組織出身の生え抜き──の存在がクローズアップされるようになる。OB採用を推進したのが、現在トップチームとアカデミー部門の強化を司る松波正信GMだ。同じく2018年1月に、5年ぶりの復帰を遂げていた。

 元ミスターガンバは「あえて(OBを)獲りに行っている」と豪語する。復帰早々に「ガンバOB会」を設立。盟友・木場昌雄の協力を得ながらOB間の交流を活発化させ、つぶさに個々の状況をチェックしている。昨年に18年ぶりのガンバ復帰を果たした森下は、「根気よく(松波が)誘ってくれた。僕が住んでいる九州まで口説きに来てくれて、やっぱり嬉しかったですよ」と回顧する。