映画『ちいかわ』の“ランダム特典8種”に、SNSで「売り手の良心が欠けてる」「転売すごそう」の批判と「コンプ前提の人がおかしい」「自己責任」の対立が…全種コンプは“鑑賞22回”必要? 喜べないファンがいる理由
映画「ちいかわ」の入場者特典が物議。批判の背景にある「過去の事例」
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』の入場者特典第1弾として発表されたのは、8種のチャームキーホルダーです。
「絶対に手に入れたい」と熱狂するファンが多い一方で、なぜこれほどまでに強い警戒感や拒否感が示されているのでしょうか。
その背景には、ファンが抱く「過去の争奪戦」があります。記憶に新しいのが、過去に実施されたマクドナルドの「ハッピーセット」とのコラボレーション騒動です。
当時、ハッピーセットのおまけであった「ちいかわ」のフィギュアを求めて大人が店舗に殺到し、発売直後から各地で即完売が相次ぎました。中にはおまけだけを目的にハッピーセットを大量購入しメインのバーガーを破棄、フリマアプリへ高額で大量出品する「転売ヤー」の横行が社会問題化しました。
こういった記憶が、今回の映画特典に対する批判に直結しているといえるでしょう。
全8種コンプリートにはいくらかかる? 確率を計算してみた
では、今回の「全8種のランダム特典」を自力でコンプリートしようとした場合、ファンにはどれほどの経済的負担がかかるのでしょうか。これをマネーの視点からロジカルに説明できるのが、確率論における「クーポンコレクター問題」です。
これは、「すべての種類が等確率でランダムに手に入るとき、全種類をそろえるために必要な平均回数(期待値)」を導き出す計算式です。今回の「全8種」のケースをこの法則に当てはめると、ストレートにそろわなかった場合、コンプリートまでに必要な平均鑑賞回数は「約22回」となります。
現在の映画の一般鑑賞料金を1回2000円とすると、必要な金額は単純計算で「約4万4000円」。気軽にコンプリートできる金額でないことは明らかです。
また、この確率論が示す恐ろしい特徴は、「後半になればなるほど、未獲得のものを引く確率が極端に下がる」という点にあります。
・最初の1種類目:何が出ても新しいので、必要な回数は1回。
・最後の8種類目:最後のピンポイントの1種を狙うため、確率を考慮するとその1マスのためだけに「平均8回(約1万6000円分)」映画を見る必要があります。
「あと1種類でコンプリートなのに!」という状態になると、人間は「ここまでお金を使ったのだから、いまやめたら損だ」という心理が働きます。しかし、確率のわなによって最後の最後でドツボにハマりやすく、財布に大きなダメージを与える仕組みになっています。
さらに、コンプリートするためには複数回映画を見る必要もありますから、時間のロスも含めるとこの過酷な現実が、「あこぎ」と批判される一因と言えるでしょう。
「昔からある手法」「自制できないのは自己責任」との冷静な声も
その一方で、この販売手法に対して客観的、あるいは擁護派の視点を持つ人も少なくありません。
そもそも、映画の入場者特典にランダム形式を採用することは、アニメやアイドル映画、特撮作品などにおいて何十年も前から行われてきた「定番の手法」です。そのため、「ちいかわだけが特別あこぎなわけではない」という指摘はもっともです。
また、SNSでは以下のような冷静な意見も多く見られます。
・そもそもファン全員がコンプリート目的で何回も映画館に行くわけではない
・大半の人は「何が出ても記念になる」「自分の推しが出たらラッキー」くらいのスタンスで楽しんでいるはず
・どうしても欲しいからと何度通うかは個人の自由(選択)であり、お金を使いすぎてしまうのは自己責任
コンプリートに執着して経済的に困窮するか、あるいは「1回限りの運試し」として楽しむかは、あくまで消費者個人のマネーリテラシーや自制心の問題であるという見方です。
まとめ
『ちいかわ』というコンテンツの市場規模が巨大になりすぎたがゆえに、一般的なランダム特典であっても、転売問題やファンの熱量と相まってギスギスした議論に発展しやすいのが現状です。過去の苦い経験から、純粋にイベントを喜べないファンがいるのも無理はないでしょう。
今後、企業側には受注生産の導入やシークレット仕様の配慮など、転売対策やファンファーストの工夫がより一層求められるでしょう。
同時に、消費者側も「コンプリートの呪縛」から一歩引き、「自分の予算内で、楽しむ娯楽として割り切る」という心の余裕(自制心)を持つことが、精神的にも経済的にも大切な自衛手段となります。
大好きなキャラクターのイベントだからこそ、誰もが疲弊せず、心の底から余裕を持って楽しめる環境になることを願います。
執筆者 : 宇野源一
AFP

