殺害された宝島龍太郎さんと妻・幸子さん

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「マネキンが燃えている」

 一昨年の4月16日朝。栃木県那須町内にある河原で煙が立ち上っているとの通報を受けた警察官が現場に向かうと、燃えていたのはマネキンではなく人間だった。川からバケツで水を汲み、火を消し止めたのち、殺人・死体遺棄事件として捜査を開始した警察はすぐにこう見立てた。

“地元住民が容易に発見できるような、道路のそばの河川敷で遺体を焼却した犯行は、土地勘のない者によるもの”

 この見立て通り、遺体は東京・上野で複数の飲食店を経営していた50代夫妻であり、事件の首謀者は夫妻の長女の内縁夫だった。

 6月22日、指示役や仲介役として関与したとされ、殺人と死体遺棄・損壊の罪に問われている佐々木光被告(30)と平山綾拳(りょうけん)被告(27)の裁判員裁判初公判が東京地裁(中川正隆裁判長)で開かれた。同事件を巡っては計7名が逮捕、起訴されているが、公判が開かれるのは、これが初めてのことである。指示役の佐々木被告は公訴事実を認め、仲介役の平山被告は認めながらも「指示されたことによるもので、ほう助だと思っている」と主張した。初公判では、事件に関わった者たちの役割分担や報酬、そしてどのように夫妻が殺害されたかが明らかになった。

殺害された宝島龍太郎さんと妻・幸子さん

【前後編の前編】
【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

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経営をめぐる内紛

 双方の冒頭陳述や、初公判で明らかにされた証拠によれば、被害者の宝島龍太郎さん(当時55)と妻の幸子さん(同56)は栃木県で焼死したのではなかった。殺害現場は夫妻に縁のある東京・上野ではなく、品川区東五反田の空き家。首謀者は、被害者夫妻長女の内縁の夫である関根誠端(せいは)被告(34)。夫妻の会社「サンエイ商事」の経営をめぐる内紛が発端だ。事件では佐々木・平山両被告や関根被告を含む7名が殺人などの罪で起訴されている。

 関根被告は同社のナンバー3として数店舗の経営を任されていた。しかし2023年7月頃から宝島夫妻は、関根被告が管理していた店舗の売上管理や従業員の給与支払いに介入し始め、関根が開店準備に携わった店を関根ではなく別のスタッフに任せようとするといった出来事もあり、対立が深まっていったという(検察官冒頭陳述より)。

トラブルメーカーだった被害者夫妻

 宝島夫妻を知る従業員は供述調書で「(幸子さんは)私が知っている限りでもトラブルメーカーで、隣の店の看板が数センチでも店側に出ていれば、隣の店の店員に発狂しているレベルの大声で叫んで文句を言い、その店の店長やオーナーなども出てきて口論になることがよくあり、警察が来るということもありました」「社長(=龍太郎さん)は隣の焼肉店とのトラブルでどつき合いをするような喧嘩になり、救急車が来るようなトラブルになった」と、夫妻の人柄を語っている。

 深まる対立を受け、夫妻の長女である宝島真奈美被告(33)と関根被告は、宝島夫妻の殺害と経営陣からの排除を計画。関根被告は「上野界隈で『顔役』として振る舞っており、上野で客引きをしていた佐々木とは、関根を目上とする付き合いがあった」(検察官冒頭陳述より)ことから、佐々木被告に“実行役探し”を依頼。これを受けて佐々木被告は、事件の前年末に共通の知人を介して知り合ったという平山被告に話をもちかけた。「佐々木被告が暴力団関係者だと知っていたため断ることができなかった」(弁護側冒頭陳述より)という平山被告から実行役を頼まれ、引き受けたのが「ケンカっ早く揉め事が起きても動じなそうな」(同)姜光紀(カン・グァンギ、20=逮捕当時)と、かつて子役俳優としてテレビ出演していた過去もある若山耀人(きらと、20=同)である。2人は事件前年末に共通の知人を介して平山と知り合っていた。

ずさんな計画

 姜の供述調書によれば、当初の依頼は“遺体の運搬”のみだったという。

「24年4月上旬に綾拳くんから『人を運んでほしい』と言われました。その後また綾拳くんから連絡があり『もしかしたら生きてるかもしれない、そっちもやってほしい』と言われました」(姜の調書より)

“そっち”……殺害も請け負うことで、報酬は実行役ひとりあたり200万円から、250万円に増額。こちらも合わせて姜ら2名が実行することが決まったものの、計画はずさんだった。関根被告と共に現場の下見を行った佐々木被告を介して「上野の路上で被害者夫妻の殺害を実行するよう指示された」(検察側冒頭陳述より)平山被告は、姜・若山被告らとともに2日連続で上野に集合したが、人通りが多く断念。佐々木被告に対し「完全な密室」の準備が必要だと伝えた。ここから、関根と親交があり、夫妻とも不動産仲介を通じて関係のあった前田亮(36=逮捕当時)が暗躍する。

睡眠導入剤で眠らせた後…

 24年4月15日夜。前田は「五反田の物件紹介」を口実に宝島夫妻と上野で合流。レンタカーのステップワゴンに乗せた。夫妻のためにコンビニのアイスコーヒーを準備していたが、これは移動時に息抜きをしてもらうためのものではなかった。殺害するために睡眠導入剤を混ぜてあったのだ。このアイスコーヒーを飲んだ夫妻は、空き物件に到着する頃には抗拒不能の状態となっていた。

 物件に到着後、ガレージ内に車を停めて前田が立ち去ると、平山被告所有のプリウスに乗った実行役の2人が到着しガレージ内へ。プリウスはこの直前に同区内のコンビニで待ち合わせた平山被告から貸し与えられていたもので、車内には平山被告があらかじめ埼玉県内のホームセンターで買い揃えたガソリンや着火剤、ロープ代わりの延長コード、ガムテープ、結束バンドが積んであった。

 日付が変わった4月16日の未明、ステップワゴンの車内で殺害が実行される。姜は、まず眠っている龍太郎さんの後ろに回り込んで延長コードで首を絞めて殺害したのち、遺体を車内から引きずり下ろす。その後、幸子さんに対しても同様の方法を採ったが、途中で声をあげられたことから「急いで女性を車から引きずり下ろし、プリウスに乗せられていたハンマーを使って、女性の頭部を数回殴りました」(姜の調書より)という。姜はこのように詳細に調書で語っているが、一方で、もう一人の実行役・若山の調書は本公判の証拠として採用されておらず、殺害にどれほど関与したのかは現時点で不明である。

【後編】では、殺害によって実行犯たちが得た衝撃の報酬額と、佐々木、平山両被告が法廷で述べた“驚きの弁明”について詳述する。

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高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部