行政処分、配当停止、集団訴訟、終わらない混乱…「みんなで大家さん」が大問題化した《本当の理由》
不動産投資の小口化商品として知られる「みんなで大家さん」をめぐる問題が、いまなお収束の見えない泥沼の様相を呈している。
事態が決定的に表面化したのは、2025年夏のことだ。主力商品の分配金支払いが突如として停止。これを契機に出資者による集団訴訟が相次ぎ、返還請求額は200億円を超える規模にまで膨れ上がった。
朝日新聞などの報道によれば、退職金や老後資金といった「人生の全財産」ともいえる資金を投じた高齢の個人投資家も少なくない。
被害の深刻さは、投資の失敗という枠を越え、深刻な社会問題へと発展しているのだ。ネットやSNS上では、「年利7%なんて怪しいに決まっている」「欲をかいた自己責任だ」といった冷ややかな声も散見される。
確かに、リスクを承知で高利回り商品に投じた以上、出資者側の判断が問われる側面は否定できない。しかし、果たして「個人の不注意」だけで片付けてよい問題なのだろうか。
総額1560億円規模の巨大プロジェクトに、なぜこれほど多くの個人マネーが吸い込まれてしまったのか。そこには、単純な欲望だけでは説明しきれない、巧妙かつ“不自然な仕組み”があった。
なぜ多くの個人が「大丈夫そうだ」と感じたのか
今回は、不動産投資家であり、マンション開発なども手がける不動産鑑定士の小原正徳氏に、この案件の本質と、なぜここまで事態が悪化したのかを詳しく聞いた。
「今回、一番の火種になっているのは、千葉県の成田空港近くで巨大な商業施設やホテルを開発するという名目の『成田プロジェクト』です。東京ドーム約10個分という壮大な土地を開発する計画を掲げ、約1560億円もの募集規模を誇りました。
ところが、2024年6月に行政処分が出て解約が殺到し、耐えきれなくなった翌2025年7月末に予定されていた分配金の支払いが遅れた。そこから混乱が一気に拡大しました」(小原氏、以下「」も)
この問題を「最初から詐欺だった」と断じるのは容易だが、当時の投資環境を振り返る必要がある。銀行預金は長く超低金利が続き、一般的なJ-REIT(不動産投資信託)の利回りも4%前後だった。
その中で、「不動産という目に見える実物」があり、しかも「年利7%相当の分配金が2カ月ごとに支払われる」といった提案は、一般の個人投資家にとって極めて魅力的に映ったはずだ。
「高すぎて一目で警戒される数字ではない。かといって、低すぎて物足りなさを感じる水準でもない。この『7%』という絶妙なラインが、かえって多くの日本人の警戒心を緩めてしまった面はあるでしょう」
開発が進まない土地で、なぜ配当を出せたのか
しかし、小原氏をはじめとする専門家が現地を視察した際に目にしたのは、耳を疑うような光景だった。
「『7%ならあり得るかもしれない』と思わせるラインでしたが、実態は違いました。事業が順調に進んでいるならまだしも、現地は野山やさら地のまま。大規模な重機が動くこともなく、建物もほとんど建っていない。
つまり、テナントからの賃料収入など1円も発生していない状態だったのです。それにもかかわらず、数年にわたり出資者には分配金が支払われ続けていました。ここに、この案件の不自然さがあります」
通常、不動産投資は物件が稼働し、賃料が発生して初めて分配金の原資が生まれる。開発も終わっていない原野から、どのようにして7%ものキャッシュを生み出していたのか。資金の流れをみていくと、グループ内で完結する不透明な「円環構造」が浮かび上がった。
「スキームを見ると、ファンドが土地を取得し、それをグループ内の開発業者に貸し付けて『地代』を受け取る形になっています。一見するとまともに見えますが、実は外部の第三者から賃料が入っているのではなく、身内の中でお金を回しているに過ぎません。
外からの収益が見えない中で分配金が続いていた事実は、新たに集めた出資金が、以前からの出資者への分配金に回っていたのではないか。そう疑われても不思議ではない構造だったのです」
1560億円はどこへ消えたのか…「身内取引」の実態
さらに問題視されているのが、成田プロジェクトで集めた巨額資金の使い道だ。集めた資金は約1560億円にのぼる一方で、取得した不動産の価値がそれに見合っていないのではないか、という指摘が相次いでいる。
「地主から約34億円で買い取ったとみられる土地を、ファンドには1560億円規模という非常に大きな金額で売却していたのではないか、との指摘があります。会社側は『購入資金やコンサルティング費用に充てた』と説明していますが、金額の開きがあまりにも大きすぎます。実勢価格の数十倍という過大な評価です」
仮に、間に入った身内の会社で利益を抜き、その資金を分配金に回すことで「順調に運営されているように見せていた」のだとすれば、投資家から集めた資金のかなりの部分が、すでに本来の開発以外に流れていた可能性もある。
表向きには不動産開発事業に見えても、実際にはグループ内の取引によって「数字」が作られていたのではないか、という疑いが指摘されているのだ。
資金の流れが止まったことで、事態はさらに悪化している。返金を受けられない出資者が相次ぎ、弁護団による集団訴訟も始まった。だが、問題は民事上の争いだけにとどまらず、公権力の介入へと移行している。
「分配金の停止によって資金繰りの限界が露呈したわけですが、それ以上に決定的な打撃となったのが、行政や債権者による差し押さえでした。国税局による法人税の滞納処分に加え、各自治体からも固定資産税の滞納を理由に不動産の差し押さえを受けています。ここまで来ると、税金の支払いすら難しくなっていた、つまり事業の継続性そのものが揺らいでいたと言わざるを得ません」
1400億円集めて、口座残高660万円の衝撃
実際、成田関連の19の銀行口座が差し押さえられた際、残高をすべて合わせても約660万円しかなかったと報じられている。累計で1400億円以上の出資金を集めたプロジェクトの口座としては、あまりにも虚無的な数字である。
追い打ちをかけるように、地主である成田国際空港株式会社(NAA)からも借地契約の更新を拒否された。
開発の前提そのものが崩れた今、残された不動産資産を売却して現金化する清算手続きに入ったとしても、少なくとも現時点では、投じた元本がそのまま戻ると見るのはかなり厳しい状況だ…。
後編『「みんなで大家さん」はなぜ《危ない投資》に見えなかったのか…老後資金を入れた人が見落とした《安心材料の正体》』では、なぜこれほど脆い商品が「手堅い運用先」として選ばれてしまったのか、老後資金を入れた人々が見落とした“安心材料の正体”について、小原氏にさらに深く切り込んでもらう。
