中日8人、巨人7人が視察も…甲子園に届かなかった公立校から出てきた「3人の逸材」
8月5日に開幕する夏の甲子園では、優勝候補の筆頭に挙がる横浜と前年度王者の沖縄尚学が、初戦から激突する。両校のエースは、プロ注目の織田翔希(横浜)と末吉良丞(沖縄尚学)。両投手にとって今回が春夏通算4度目の甲子園となり、同世代を代表する投手同士の対決に高い関心が寄せられている。
華やかな全国舞台に立つ選手だけが、ドラフト候補ではない。甲子園出場経験のない公立高校に、プロのスカウトが追い続ける逸材がいる。【西尾典文/野球ライター】
【写真】甲子園出場経験のない公立高校からプロ入りの可能性が出てきた香里丘・岡本翔斗選手と沼津商・後藤幸樹選手の姿
NPB全12球団、計40人のスカウトが
香里丘の岡本翔斗、新宮の藤井悠貴、沼津商の後藤幸樹。3人は地方大会で姿を消したが、最後の夏まで評価を高め、複数球団の調査対象となった。今回は、公立高校からプロ入りを狙う注目選手を紹介する。

筆頭に挙げたいのは、岡本翔斗(香里丘)だ。
香里丘は1980年創立の大阪府立高校。大阪が南北に分かれた2018年の第100回大会と、コロナ禍で甲子園大会が中止された2020年の大阪府独自大会で準々決勝に進んだ。これが最高成績で、甲子園はもちろん、近畿大会への出場経験はない。
岡本は1年夏から投手陣の一角に定着。昨夏の大阪大会では、全国屈指の強豪・履正社を相手に5回まで1失点と好投し、府内で広く知られる存在となった。
最後の夏は3回戦で関大北陽に1対3で競り負けた。岡本は8回を投げ、7安打3失点(自責点2)、11奪三振。敗戦の中で実力を十分に示した。
筆者は現地で投球を見たが、驚かされたのはスカウトの人数だった。中日は8人、巨人は7人で視察。確認できただけでNPB全12球団、計40人に達していた。
近畿地区担当のスカウトは、岡本の魅力を次のように語る。
「腕の振りと下半身の使い方に柔らかさがあります。まだ体つきは細いですが、バランス良く腕が振れ、指のかかりも良い。質の高いストレートで空振りを奪える点が長所です。しっかり鍛えて筋力と瞬発力がつけば、驚くようなボールを投げるようになりそうです」
ストレートは筆者のスピードガンで最速147キロを計測した。力を入れた際のボールには、表示以上の速さがあった。別のスカウトからは「育成では獲れなさそうですね」との声が聞かれ、支配下での指名が現実味を帯びている。
球速の上積みを期待
藤井悠貴(新宮)は見逃せない右腕だ。
福岡県立新宮高校は、地元の九州大をはじめ、難関大学へ多くの合格者を送り出す進学校として知られる。野球部に目立った実績はなく、藤井自身は中学時代、地元の軟式野球部でプレーしていた無名の選手だった。
高校入学後に急成長し、最後の夏には多くのスカウトが視察に訪れるまでになった。
最大の魅力は197cmの長身にある。入学当時は90kgに満たなかった体重が、現在は105kgまで増加。マウンド上の立ち姿には、高校生離れした迫力がある。
福岡大会初戦では、過去に2度の甲子園出場を誇る自由ケ丘を相手に15奪三振で、2失点完投勝利を収めた。九州地区担当のスカウトは、藤井をこう評している。
「まだ制球はアバウトで、良いボールとそうでないボールの差は大きいですが、これほど長身の選手はなかなかいません。意外に器用で、変化球を投げる感覚も悪くありません。良い環境でしっかり鍛えれば、面白い投手になると思います」
ストレートは現在、140キロ前後が平均。197cmの長身を、まだ投球に生かし切れていない。筋力や投球技術が向上すれば、球速の上積みを期待できる。進路は未定だが、プロ志望届を提出すれば、多くの球団が本格的な調査に乗り出しそうだ。
見落としてはならない逸材
野手では、後藤幸樹(沼津商)が興味深い。
沼津商は1898年創立の静岡県立高校で、長い歴史を持つ。甲子園出場はないが、昨秋から多くの球団が後藤の視察に訪れていた。
181cm、86kgの堂々とした体格に、強肩と高い運動能力を備える。捕手に欠かせない体の強さに加え、走塁面では積極性が光る。
東海地区担当のスカウトは、次のように評価している。
「立派な体格でありながら、よく動ける点が魅力です。守備では足がよく動き、走塁にも積極性があります。打撃には粗さが残りますが、飛ばす力があり、体勢を崩されても簡単には空振りしません。鍛えがいのある選手だと思います」
筆者は6月、市ケ尾との練習試合に足を運んだ。球団幹部が視察に訪れており、後藤への関心の高さが伝わってきた。
市ケ尾は今夏の神奈川大会でベスト8に進出。エースの大塚遼(3年)と、主に抑えを任された中山優太朗(3年)は、いずれも最速140キロを超える好投手だった。後藤は両投手から1本ずつ安打を放っている。
静岡大会は初戦敗退に終わったが、後藤は適時三塁打と適時二塁打を含む2安打4打点。チームの全得点をたたき出し、打力を改めて証明した。
本人はプロ入りを強く希望している。強肩強打に走力まで兼ね備えた捕手は貴重であり、若手捕手の層が薄い球団にとって魅力的な候補となる。
昨年のドラフトでは、小宮悠瞳(川崎総合科学→ヤクルト育成1位)、浜岡蒼太(川和→西武育成4位)が、甲子園出場経験のない公立高校から指名を受けた。
近年はチーム練習に加え、個人でトレーナーの指導を受け、能力を伸ばす高校生が増えている。所属校の実績や知名度だけでは、選手の将来性を測れない時代になった。
岡本、藤井、後藤の3人は、甲子園に出場していないだけで見落としてはならない逸材である。秋のドラフト会議で名前を呼ばれても、驚きはない。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
