鳥栖の川井監督が追求する“究極のバランス”。リーダーの存在も重視。「子どものヤンチャな部分は持ち、時には誰かが親代わりに」
クラブの立ち位置的に、どうしても主力の流出が毎年のように話題になる。このオフにも主力からは昨年9得点のFW小野裕二がアルビレックス新潟、サイドの主翼だった岩崎悠人がアビスパ福岡に移籍。また昨夏に、ガンバ大阪に期限付き移籍していたDF中野伸哉が完全移籍となるなど、今後チームの中心的な存在になることを期待された選手との別れもあった。
「もっとこういうものを作りたいという意味では、素材の部分は間違いなく必要で、強化部がしっかり仕事をしてくれましたので。あとは料理人の腕次第かなと思っています」
昨シーズンは序盤戦に怪我人が多発し、新戦力として期待された横山歩夢や富樫敬真といったタレントも、長期の怪我でシーズンを通じ満足に稼働できなかったことも痛かった。
そういった部分では、中盤でブレイクしたMF河原創やセンターバックの主力に成長したDF山粼浩介など、ベースとなる選手が屋台骨を支えて、中原や二人の外国人FWが爆発力を加えることができれば、昨シーズンより強いチームになっていく期待は高まる。
鳥栖で2年目となる横山も、昨年は開幕してすぐにU-20代表の遠征があり、チーム復帰後にすぐ怪我をしてしまったことで、描いていた青写真が狂ってしまったところはある。
それでもジョーカーとして相手の脅威になっていたところから、スタメンに定着するために「前線からのプレスというのは言われていたので。そこを修正して、あとは自分の良さをどんどん出していければ」と意気込む。
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昨年の総得点は43で、J1で5位タイとそれほど悲観的な数字ではない。川井監督はそれを踏まえて「もっともっと取れる自信があります」と語るが、たとえば同じ43得点ながら5位でフィニッシュした鹿島アントラーズが34失点で、得失点差は+9だった。
さらに言えば、3位のサンフレッチェ広島と浦和レッズはともに42得点だったが、失点は広島が28、浦和がJ1最少の27。一方の鳥栖は47だ。
川井監督は「失点は多かったが、ズタズタにやられたわけではない。そこのバランスのところをしっかりと今シーズンは取っていきたい。ただ、バランスというのはあんまり好きじゃないんですけど、究極のバランスを取りたいなと思っています」と語る。
つまりは失点を減らすために、チームのスタイルを守備的に振るというより、しっかりと相手陣内に攻め込む形を取りながら、中盤から後ろの選手たちがいかに良い準備で攻守の切り替わりに備えていけるかということになる。
また横山が個人の課題に挙げたように、アタッカーであってもプレッシャーをかけに行くところの守備は持続的に高い強度が必要になるし、攻め込まれればプレスバックも必要になってくる。
鳥栖というと、短い時間で密度の濃いトレーニングという傾向にあるが、26日の午前練習では1時間半にわたり、主に守備の共有を目的としたトレーニングを行なっていたのは印象的だった。
攻撃も守備も戦術的にそこまで大きく変えることはなさそうだが、川井監督の言う“究極のバランス”のところを突き詰める作業が、開幕戦に向けたキーポイントになるだろう。
その観点で見ると、チーム全体の半数ぐらいのインアウトが発生しているが、小野と岩崎、そして蔚山現代に移籍したDFファン・ソッコを除けば、主力が残っているのは大きい。
“ズタズタにやられたわけではない”と川井監督は主張したが、2年前からの課題だった残り15分の失点は減っておらず、それが結局は接戦で勝点を落とすことにつながった。
前半と後半で分けると22失点、25失点と大きく崩れているわけではないが、オウンゴールで敗れた最終節の川崎フロンターレ戦、2−2の同点から終盤に決勝点を奪われた第28節のFC東京戦のように、ラスト15分の勝負でやられてしまうケースが多すぎるのだ。
そのことを指摘すると、川井監督は「その通りです」と認めながら、そのラスト15分の失点が全体の3割以上を占める理由について「じゃあ運動量不足かというと、そうは捉えていない」と前置きしたうえで、見解を語ってくれた。
「なかなか目に見えづらい雰囲気とか流れ。そう言うところでチームが一体となって何を共有するかというところでは、メンタル面のリーダーシップと言いますか、誰が引っ張るかとか。そこが少し足りなかったかもしれない」
つまり終盤で最低でも勝点1を確保しながら、抜け目なく決勝点を狙っていくべき流れで、中途半端なボールロストから、逆に失点を喫してしまうような試合が多い。川井監督も「昨シーズンのもほとんど1点差負けが多かった」と認める。
ただ、スタートからゲームコントロールばかり意識していたら、チームとしてスケールダウンしてしまう部分もある。その意味で、川井監督は90分の中で、そうした接戦を勝点にできるリーダーの存在を重視している。
「大人になりすぎても、フットボールは面白くないものは面白くない。子どものヤンチャな部分は持ちながらも、時には誰かが親の代わりになる。そういう部分はリーダー的なものをもう1つ、このチームに植え付けられるようになればいい」
守護神の朴一圭は引き続き頼りになる存在だが、やはりセンターバックの山粼や中盤の河原、手塚康平といった中軸の選手たちが担う役割は大きい。攻撃的な選手の中では、長沼洋一や堀米勇輝だろう。
逆に新戦力の中原やマルセロ・ヒアン、20歳の横山などは守備のタスクは精力的にこなしつつ、あまりバランスを気にせず、良い意味で川井監督の言う“ヤンチャな部分”を出していくべきだろう。
現時点の戦力評価としては、“料理人”である川井監督や現場スタッフの仕事がうまく噛み合えば、十分に上位を目ざせる。ただし、客観的に見てライバルを圧倒できる戦力ではなく、スリリングな試合が多くなることは容易に想像できる。
そこで勝負の際は局面、局面で出るが、90分の中で現象として現われるそれらは結局、日頃のトレーニングや準備の結果に過ぎない。その紙一重のところを自分たちの方に、どれだけ手繰り寄せることができるか。
もちろんベースになる攻撃的なフットボールに期待しつつ、今年はラスト15分で出てくる勝負の際のところに、より注目していきたい。
取材・文●河治良幸
