ダルビッシュも指摘したセ・パのフィジカル差。巨人の罰走に意味ある?
特集『セ・パの実力格差を多角的に考える』
第2回 トレーニング意識の違い
プロ野球では2010年代に入ってデータ活用や科学、テクノロジーの浸透が進み、パフォーマンスや勝敗を分ける要素が明らかに変わってきた。
それが顕著に表れたのが、昨年の日本シリーズだった。ソフトバンクが巨人に2年連続で4連勝。これで2010年以降はパ・リーグがセ・リーグに10勝1敗となり、セ・パの格差があらためて指摘されている。

昨年の日本シリーズでソフトバンクに完敗を喫した巨人
各メディアでさまざまな点から掘り下げられるなか、昨年12月、注目を集めたのがダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)のツイートだ。
「才能ある選手も多いけど、とにかくフィジカル差は感じます。試合見たら感じると思いますが、フィジカルが一定のレベルを超えると技術では抑えきれなくなります」(原文ママ)
188cm、96kgの主砲・柳田悠岐が豪快なホームランを突き刺し、ブレイク候補と期待される193cm、95kgの右腕・杉山一樹が最速157kmの速球で圧倒する。昨年の日本シリーズでソフトバンクが巨人に見せつけたのは"規格の違い"だった。
「エビデンスはないですけど、フィジカルが野球のパフォーマンスに及ぼす影響は8割くらいのイメージじゃないですか。フィジカルがないと、話にならない時代になってきています」
そう語るのは、広島で「Mac's Trainer Room」を運営する高島誠トレーナーだ。高島氏は2001年から2004年までオリックスでトレーナーとして働き、渡米してワシントン・ナショナルズへ。日米で数々のトップ選手を見てきた。
もともと鍼灸師の高島氏だが、活動の幅を増すきっかけになったのが、2002年に短期留学したアリゾナ・フォールリーグ(シーズンオフに行なわれる教育リーグ)だ。
のちにメジャーで本塁打、打点の二冠に輝くマーク・テシェイラ(元ニューヨーク・ヤンキース)や、4度のゴールドグラブ賞に選出されるシェーン・ビクトリーノ(元フィラデルフィア・フィリーズ)など有望株が多数いるチームに配属されると、いずれもトレーニングを熱心に行なっていた。彼らの身体は生まれつき大きいわけではなく、高校時代からトレーニングに励んで作り上げたものだった。
そうした取り組みと最先端の理論に感銘を受けた高島氏は自学を重ね、現在は「野球パフォーマンスアップスペシャリスト」を名乗るまでに。広島のジムはラプソード(トラッキングシステム)やモータス(投球解析ウェアラブルデバイス)など最新機器を備え、トレーニングと野球のパフォーマンスをつなげる指導は多くのプロ選手から信頼を得ている。
「うちに来る選手はパ・リーグばかりです。パの選手たちはトレーニングするのも当たり前だし、自分にフィットした身体にしようという認識がある。セの選手はちょこちょこ来て、というパターンが多いですね」
パ・リーグではオリックスの山岡泰輔や榊原翼、K-鈴木、杉本裕太郎、ソフトバンクの高橋礼や松本裕樹、楽天の森原康平や太田光、セ・リーグでは昨年ソフトバンクからヤクルトに移籍した左腕投手の長谷川宙輝、地元広島の正隨優弥や羽月隆太郎らが自主トレに励んでいる。
高島氏が2004年までオリックスに在籍していた頃、球界でトレーニングはさほど重視されていなかったという。「他球団と話すな」という時代で、相手の事情も不透明だった。
それが海を渡る日本人選手が増えていくと、人の交流が生まれ、アメリカから届く情報も多くなっていく。スマホが普及し出したのも、この頃だ。
情報が増えて進化するためのアプローチ法も多彩になっていくなか、いち早くフィジカルの強化に力を注いだのがソフトバンクだった。成果は見事に表れ、2010年代の日本シリーズでは現在の4連覇を含め7度制している。
ソフトバンクが栄華を極めた2010年代、球界全体で加速したのが「パワー野球」だ。
投手の平均球速は145km近くまで達し、"フライボール革命"の到来で打者は打球速度や打球角度への意識を強めた。トレーニングで身体を作り上げ、その操作性を高めて出力を増やしていく。そうした「パワー野球」がとりわけパ・リーグで根づいた。
フィジカルを高めるメリットについて、高島氏はこう説明する。
「ピッチャーは球が速くなると、空振りを取りやすくなります。バッターは打球が速くなるとヒットが出やすくなり、長打の確率も上がります。フィジカルの強化をチーム全体でやると、勝つ確率が高まります。将棋で言えば"飛車、角"が増えた状態で指せる。他のチームは"歩"ばかりだと、差は歴然です」
昨年の日本シリーズでは柳田、グラシアル、デスパイネがパワーを見せつけ、千賀滉大、石川柊太、モイネロが150km超の豪球でねじ伏せた。9番打者の甲斐拓也は170cmの小柄だが、"マンブリ"で2本の本塁打を突き刺した。
「一昨年、自主トレに来たソフトバンクの選手とサウナに行っていろいろ話しました。トレーニングに熱心な選手が多いという印象ですね。チームとして、ベースとして身体をしっかり作るという大前提があるのかな。パ・リーグの中にもやり切れていないチームはありますし、差があるように感じます」(高島氏)
球団がトレーニングしやすい環境を整えることも大事な一方、個人事業主の選手たちは各自で取り組むことも求められる。高島氏が高校時代から見ているオリックスの山岡は、そうした意識が強いひとりだ。
一般的には筋肉量が多ければ出力も高まりやすいなか、172cm、68kgの体躯から最速152kmを投げる山岡は「特殊タイプ」だと高島氏は言う。
「柔らかさもあるし、身体操作の精度が高い。垂直跳びでは余裕で80cmを飛びますからね。あの身体でありながら、もう少し球の強さを上げていきたいと取り組んでいるところです」
大事なのは自分の特性を認識し、その上でフィジカルを作り上げていくことだ。2019年に12勝を挙げて新人王を獲得したソフトバンクの高橋は、同年1月から高島氏とともにレベルアップを図っている。
「普通のアンダースロー投手はフィジカルがないように思われますが、高橋投手は瞬発力がある。アンダースローでも150kmを目指せる選手だと思います。それにはもう少し柔らかさと、強さがほしいですね」
柳田のようにフィジカルで頭抜けたタイプでなくとも、山岡やオリックスの主砲・吉田正尚のように、たとえ大柄でなくともパワーを発揮する選手が近年台頭している。その裏にある一因が、トラックマンやラプソードというテクノロジーの進化だ。選手たちはパフォーマンスを可視化できるようになり、上達の仕方も変わってきた。
指導にラプソードを駆使する高島氏は、「技術に踏み込めるテクノロジー」と説明する。
「たとえば、打者があるコースを苦手だとします。ラプソードの数値を見れば、打球角度はいいけど打球スピードが遅いからとか、その原因がわかります。
今はこういう状態になっていて、理想的なスイングができていないのは、胸郭が固いからなのか。そもそも出力が弱すぎるために、ボールを捉えているけど飛ばないだけなのか。理由がわかれば、どんなトレーニングをすればいいのか見えてきます。選手たちはゲームの話から入ったほうがわかりやすいと思うので、トレーナーの自分も分析をできる必要があるんです」
同様のアプローチ法に力を入れ、成果につなげているのがソフトバンクだ。
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対して、セ・リーグではいまだに古い価値観が根強い。たとえば昨年話題になったのが、巨人の阿部慎之助二軍監督が強いた"罰走"だ。プロアマ交流戦で早稲田大学に敗れた際、罰として1時間のランニングを指示したが、高島氏は合理性の観点から反対する。
「罰どころか、ただのマイナスです。選手が痩せてしまう罰だから、やめたほうがいい。それによって『なんとかしなきゃ』という意識は生まれるかもしれないけど、勝つ可能性はどんどん減ります」
負けた罰として走らせ、体重減を招けば出力が低下する。その悪影響は選手本人ばかりか、チームにも及ぶ。野球界で当たり前のように行なわれてきた罰走は、誰も得をしないものだ。
こうした旧来的な体質を改め、いかに合理的な環境を整えていけるか。それこそ、セ・リーグの巻き返しに必要だと高島氏は見ている。
「去年はコロナの影響もありましたけど、セ・リーグは相手の球場でトレーニングルームを借りられないらしいです。相手に貸さないと、自分らも貸してもらえないですよね。遠征に出たときに、トレーニングできないのは厳しいです。まずは環境をしっかり作ること。"グラウンドでボールを扱っていることが練習"と指導者は考えがちですが、"トレーニング=しっかりした練習"という認識を持つべきです」
過去の常識にとらわれず、いかに明るい未来を見据えて変わっていけるか。フィジカルで上回るパ・リーグがセ・リーグを圧倒している裏には、常に自身をアップデートさせようという姿勢がある。
