【小林 雅一】AI時代に恐れるべきは「失業」ではなかった…米国の最新レポートから見えた「本当に取り残される人」の特徴
生成AIの急速な普及に伴い、世界中の経済や労働市場にどんな影響が出るかについて激しい議論が続いている。一般的には「AIが人間の仕事を奪い、大量の失業者が発生するのではないか」という懸念の方が優勢だ。
しかし、その一方で「AIを積極的に導入している企業ほど、皮肉にも従来より多くの人員を雇用している」という一見矛盾した調査結果も報告されている。
【前編】→AIが仕事を奪うはウソだった…米国の有力研究所が明らかにした「AI導入企業は雇用が拡大」驚きの実態
労働者が本当に恐れるべきは「雇用破壊」ではない
これらから言えることは「(AI導入による)タスクの自動化」は必ずしも「人員の解雇」につながるわけではない、ということだ。
確かにAIは労働者が行う特定のタスクを自働化するが、それによって企業の生産性が向上し、開発費をはじめ諸々のコストが低下すると、企業の製品・サービスに対する市場の需要が拡大する。結果的に、AIと共同で働く人間の労働需要は職種を問わず全社的に高まる。同調査レポートではこれを「スケールアップ効果」と呼んでいる。
これにより、AI格差の主戦場は今見られる産業間ではなく今後は企業間の競争にシフトするという。つまりAIを使いこなして高速で成長する「高強度AI導入企業」と、AIの導入をためらう、あるいはそれを使いこなせない「AI未導入企業・低強度AI導入企業」との間で、生産性と雇用に関する二極化が進む、と予想している。
従って、これからの労働者が本当に恐れるべきは「自分の仕事がAIに奪われる」ことではなく、むしろ「AIを使いこなす高成長企業に就職・転職できない」ことだという。
私達が直視すべき現実とは
同レポートはまた、「AIの現実」や「私達労働者が直面する真の課題」等も示唆している。
多くの専門家やメディアは「AIが人間の仕事を奪うのではないか」という雇用喪失の恐怖を煽り、私達はともすれば、そうしたセンセーショナルな議論に目を奪われがちだ。
しかし私達が本当に目を向けるべき現実は、そうした「仕事の消滅か、否か」という単純な二元論ではない。むしろ「(AIの導入がもたらす)労働の質や企業体質の変化」を率直に受けとめることにある。この調査レポートを深く読み込むと、それこそが共同執筆者らが本当に言いたいことだ、と伝わってくる。
AIは既に私達の日常的な業務を圧倒的に効率化している。複雑なコンピュータ・プログラム(コード)の開発、膨大なデータの要約、あるいは外国語の翻訳や各種文章の執筆に至るまで、従来であれば人間が数日〜数週間、数か月を費やしていた作業が、AIによって僅か数秒〜数分で処理されるようになった。
この驚異的な生産性の向上は紛れもない事実であり、私達労働者や雇用主はこれを素直に受け入れ、的確に対応する必要がある。もしもそこから目を逸らしてAIを拒否すれば、いずれ市場から淘汰されてしまうだろう。
人間の強みと勇気を活かす職場に
と同時に、そこに見られるもう一つの側面は「(プログラミングなど)特定の専門知識を持たない一般的な労働者でも、AIを使うことで高度なアウトプットを瞬時に出力できるようになった」ということだ。
これは一見、「個人的な能力」の拡張にも思えるが、一方では「これまでの専門知識・技能の価値が相対的に低下する」という皮肉な現象も引き起こしている。今のところ、これらの悲哀を心底味わっているのは、恐らくプログラマーをはじめとするソフトウエア開発者であろう。が、いずれあらゆる産業界の労働者もそれを痛感することになるだろう。
つまり専門的な知識や技能の希少性が失われる中、私達は単に「何かを知っていること」や「早くこなせること」以上の存在価値を証明しなくてはならない時代に入ったのである。
これについて多くの有識者は「人間はよりクリエイティブ(創造的)な仕事にシフトすべきだ」と主張するが、これは「言うは易く行うは難し」の典型だ。つまり誰でもできることではないし、一概に言えることでもない。
一方、労働者を雇用している企業など組織側に対しては、より確固たる提言が可能だろう。
私達人間による創造的な挑戦には必ず失敗が伴う。マニュアル通りの完璧な処理はAIの得意とするところだから、人間が担うべき領域は必然的に「たとえ打率が低くとも当たれば大きい不確実な領域」になる。
となると、企業などの組織は従来のような減点方式の評価制度を改め、労働者(人間)による果敢な挑戦とそこからの学びを評価する文化、いわゆる「心理的安全性」を中心とする企業文化へと生まれ変わる必要があるだろう。
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