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カフェで授乳ケープを使って授乳していたら、店員から「たくさんの人がいますので…」と注意されてしまった──。こんな体験談が大きな議論を呼んでいます。

SNSでは「ケープを使っているのだから配慮は十分ではないか」「授乳室を使うべきだ」と賛否が分かれています。

この騒動を受けて、育児用品メーカー「雪印ビーンスターク」は公式Xで「カフェでケープで授乳しているのは、赤ちゃんにとっての小さなカフェ」と発信し、共感の声が広がりました。

では、そもそも公共の場で「授乳する権利」は法律で守られているのでしょうか。飲食店は授乳を断っていいのでしょうか。

●店は授乳を「お断り」できるのか

民法は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができると定めています(521条)。「契約自由の原則」といいます。

飲食店などの民間施設は、この「契約自由の原則」に基づき、利用者へのサービス提供の条件を定めることができます。

したがって、「店内での授乳はご遠慮ください」と求めることが直ちに違法になることはありません。

ただし、授乳は乳児の栄養補給や健康維持に欠かせない行為です。

授乳ケープで肌の露出を抑えた利用者まで、「他の客への配慮」を理由に一律に断ることが合理的な対応といえるかには議論の余地があります。

また、授乳中の利用者を常に排除するような対応は、子育て世代への配慮を欠くとして、社会的な批判を招く可能性もあります。

●授乳行為そのものは違法になるか

また、公共の場で授乳すること自体が犯罪にあたることはないでしょう。

授乳は、乳児の生命や健康を守るための養育行為であり、その目的や態様から考えて、現行の刑罰法規が処罰対象として想定するものではありません。

授乳ケープを着用した状態での授乳が刑事罰の対象となる可能性は、現実的にはないと考えられます。

確認する限り、各迷惑防止条例でも、授乳そのものを規制する規定はないようです。

他の客が不快感を覚えたとしても、それだけで授乳した側が法的責任を負うことにはならないでしょう。

●「授乳する権利」を守る法律はない

一方で、現行法には、公共の場で授乳する権利を明示的に保障した法律はありません。

母子保健法は、母性や乳幼児の健康を守ることを目的としており、次世代育成支援対策推進法も、子どもを安心して育てられる環境づくりを掲げています。

しかし、いずれも「公共の場で授乳できる権利」を具体的に保障したり、授乳を妨げることを禁じたりする規定までは設けていません。

厚生労働省も、保健医療従事者向けの「授乳・離乳の支援ガイド」を示し、母乳育児を支援する考え方を示していますが、法的拘束力のあるルールではありません。

●授乳できる「場所」の整備は進む

一方で、授乳できる環境づくりは行政の指針として進められています。

国土交通省の「建築設計標準」や「バリアフリー整備ガイドライン」では、授乳・搾乳できる個室や、おむつ交換台、給湯設備などを配置することが「望ましい」とされています。

つまり、日本では「公共の場で授乳する権利」を直接保護する制度よりも、「安心して授乳できる場所」を整備する方向で環境づくりが進められてきたといえます。

●今回の議論が問いかけたもの

今回の議論で浮かび上がったのは、公共の場での授乳についてさまざまな意見があるということです。

授乳そのものは違法ではない。一方で、店側がどこまで制限できるのかについても明確なルールはない──。

現状は、店側の判断や利用者同士の理解に委ねられる部分が大きいといえます。あなたはどう考えますか。

(監修:寺林智栄弁護士)

【取材協力弁護士】
寺林 智栄(てらばやし・ともえ)弁護士
2007年弁護士登録。札幌弁護士会所属。法テラス愛知法律事務所、法テラス東京法律事務所、琥珀法律事務所(東京都渋谷区恵比寿)、ともえ法律事務所(東京都中央区日本橋箱崎町)、弁護士法人北千住パブリック法律事務所(東京都足立区千住)、NTS総合弁護士法人札幌事務所を経て、2025年12月からてらばやし法律事務所。離婚事件、相続事件などを得意としています。
事務所名:てらばやし法律事務所
事務所URL:https://www.attorneyterabayashi.com/