日本語をスムーズに英語に変換するにはどうすればいいか。語学コーチのタカサカモトさんは「すべてを正確に英訳しようとすると、言葉が出てこず詰まってしまう。そういう場面で有効なのが、日本語の時点で簡単な文章にしてしまうことだ。語彙が足りなくても機転を効かせれば言いたいことは伝えられる」という――。

※本稿は、タカサカモト『日本育ちが世界で戦うためのアスリート流英語習得術』(大和書房)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/masa44
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masa44

■言いたいことを日本語→英語変換するときの壁

一般に英会話と言えば、やはり誰でも理想としてめざしたいのは、日本語をまったく介さず英語で発想して、英語で話せるようになることですよね。この考え方自体は英語学習の方向性として至極真っ当ですし、私自身もそれを目指してやってきて、実際にある段階から英語の頭らしきものを使って考えたり話したりできるようになった一人です。

それでも、やはり一定レベルに達するまでは言いたいことが最初に日本語で浮かんでしまって、それを英語に変換する必要がありましたし、それが私に限らず多くの英語学習者の実情だと思います。

このとき、浮かべた日本語の文に対応する英語の単語や表現を知らないと、そこで頭がフリーズして言葉が出なくなってしまいます。

でも、ここで少し発想を変えて、その日本語のフレーズ自体を、もっとシンプルで簡単に英訳可能な別の日本語に変換することができれば、その状況を何とか切り抜けることができます。

たとえば、次の例文を見てみてください。

昨日、姪っ子の成人のお祝いに尾頭付きの鯛をご馳走したんです。

まあ、ちょっと古風な例かもしれませんが、それでも日本語ネイティブなら語彙も文脈もたいして難しくない、わりと普通に頭に浮かぶし理解もできる文だと思います。

■「鯛」の英語を覚えるべきなのか

ところが、この日本語ならとくに難しくも何ともない一文が、いざ英語にするとなると急に難しくなってきます。具体的には「成人」「尾頭付き」「鯛」「ご馳走」です。それぞれ日本語から発想しても英訳するのは困難な単語ばかりです。

そもそも直接対応する単語があるのかどうかも怪しいですし、英語圏のみなさんが鯛という魚を知らない可能性だってあります。あとは「姪っ子(niece)」も意外と難しいですよね。家族に関する英単語を覚えるとき、だいたいあと回しになりがちな単語ですし、甥っ子(nephew)も同じ「n」から始まるせいで、どっちがどっちだったか分からなくなったりします。

もっと言えば、「お祝いに」も微妙です。仮に「祝う=celebrate」という動詞は浮かんだとしても、「お祝いに」という微妙な日本語の活用が発生しているせいで、これをパッと英訳するスムーズな方法が一瞬浮かばなくなることもありそうです。

ちなみに実際の話、英語圏では一般に、日本のような自治体レベルでの大々的な「成人式」は行われず、鯛という魚も決して馴染みがある存在ではないようです。まして鯛が祝いの席で食べられる特別な魚であるという理解は、鯛の見た目に高級感を感じる日本的感性や、「めでタイ」という日本語のダジャレの知識がないと成立しません。「尾頭付き」の持つ高級感と特別感についても同様です。

■正確に訳しても英語ネイティブはピンと来ない

仮にこういった文化的背景も踏まえて、元の日本語の文をそのまま英語にしようとすると、たとえばこういう訳し方になります。

Yesterday, we celebrated my niece's coming of age with a traditional Japanese sea bream dish served whole - head and tail included, as a symbol of good fortune and completeness.

もうパッと見ただけで、すぐには出てこなそうですよね。まず明らかに日本語のときと長さが違います。これはそのまま訳しても伝わらない文化的な情報を補足しているからですが、実はリアルな話をすると、仮にこうやって英語でわりときちんと説明できたところで、それを聞いたネイティブ話者の反応としては、どのみちピンとはこないと思ったほうが無難です。

たとえばcoming of ageは「年齢に達すること」すなわち成人を意味する言葉ですが、前述のように日本のあの成人式のイメージまでは伴わないため、なかなかその重みまでは伝わりません。続く「尾頭付き」を説明するくだりなんて、文化講義でもないのに説明的過ぎますよね。試しにこの英文を日本語に訳し直してみましょう。

昨日、私たちは伝統的な鯛料理とともに姪の成人を祝いました。鯛は全身、つまり頭から尾まで含まれる形で供されるのですが、これは幸運と完全性を象徴しています。

相手から尋ねられたならまだしも、こちらから唐突に言い出すような内容としては、さすがにちょっと不自然ですね。

■日本語の時点で発想を変えてしまう

というわけで、この日本語の文をそのまま英語で伝えようとしても、そもそも単語も表現も難しいうえ、仮に単語を知っていたとしてもそのリアルな雰囲気やニュアンスまでは容易に伝わらないわけです。

こういうときに意外とオススメなのが、英会話の一歩手前、すなわち日本語の時点で発想を変えてしまうことです。改めて最初の文を確認すると、

昨日、姪っ子の成人のお祝いに尾頭付きの鯛をご馳走したんです。

でしたね。改めて眺めてみても、英訳は難しそうです。

そこで、良い意味でサッサとあきらめて、別の日本語に変換してみるわけです。たとえば次のように言い換えてみましょう。

昨日、姪の18歳のお祝いに魚を一緒に食べた。

いかがでしょう? 一気にシンプルになったと思いませんか? この場合、英語に直すのはもう少し簡単になります。たとえばこんな感じです。

Yesterday, we had a fish dinner to celebrate my niece's 18th birthday.

これで少なくとも、誰が何のために何をしたのかはひとまず正確に伝わります。ただ、さすがに簡素化し過ぎて、鯛を尾頭付きで食べる特別感そのものも消えてしまっています。

そこで単語を1つだけ足して特別感を出してみることにします。

Yesterday, we had a special fish dinner to celebrate my niece's 18th birthday.

そうです、そのまんまspecialを入れただけですが、限られた英語の語彙の中では、ひとまずこれで十分です。

日本食といえば寿司や刺身ということは英語圏の人でも知っていますから、「詳しくは分からんけど特別な日に特別な魚料理を食べるのね、確かに何だか日本人ぽいな」くらいの感覚で、ひとまず違和感なく聞ける話になるからです。

■「姪」は“my brother/sister's daughter”でいい

「いや、あくまで成人式のタイミングの話だからbirthdayじゃないんだよなー」という場合には、先ほど紹介したcoming of ageを使って

Yesterday, we had a special fish dinner to celebrate my niece's coming of age.

のように言えばOKです。前述のように、必ずしも日本のあの成人式のイメージは伝わらないかもしれませんが、少なくとも「家族で祝う特別なこと」ではあるのだと自然に理解してもらえます。

coming of ageがパッと出てこなければ、とりあえずbecoming an adult(大人になる)のような言い方でも最低限の意味は伝わりますし、続けてI mean, she is now 18.などとつけ加えれば、年齢的な意味で「大人になる」ことを言いたかったのだということも補足できます。

Yesterday, we had a special fish dinner to celebrate my niece's becoming an adult. I mean, she is now 18.

あるいは肝心の「姪」がどうしても思い出せなければ、要は「自分のきょうだいの娘」のことですから、

Yesterday, we had a special fish dinner to celebrate my brother/sister's daughter's coming of age.

と言ってしまえばよいでしょう。

というように、実は必ずしも英語の語彙や表現力が十分でなくても、母語である日本語の範囲内で機転と想像力を働かせることで、英語への変換がある程度スムーズになることもあるのです。

写真=iStock.com/Sandwish
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■伝えたい事の本質を見極めて言語化する

一般に言語化といえば、語彙力や表現力が重要であることは言うまでもありませんが、その内実については、どれだけの単語や言い回しを知っているかという知識量の問題、手持ちの表現とどう組み合わせるかという足し算の問題として捉えてしまいがちです。

タカサカモト『日本育ちが世界で戦うためのアスリート流英語習得術』(大和書房)

しかし、上に挙げた例でもお分かりのように、ここでは少し異なるニュアンスで言語化や語彙力についてお伝えしています。

私が言語化という部分で重視しているのは知識量そのもの以上に、機転と想像力です。

もちろん、豊富な語彙の大切さは今さら強調するまでもありません。しかし一方で、どれだけ言葉を知っていても、状況や文脈に合わせて機転を利かせ、まさに相手の靴を履いて想像を働かせなければ、それを実際のコミュニケーションの場で存分に活かすことはできません。

場面に応じて相手の立場に立って、何を言うかでなく、何を言わないでおくかという引き算の発想も大切です。先ほどの成人した姪の例で言えば、「鯛」「尾頭付き」「自分がご馳走した」「成人=成人式」といった部分は引き算してしまったことになります。

自分が実のところ何を伝えようとしているのか、少なくとも何を言えば伝わるのか、その本質部分を過不足なく理解したうえで、言語化する部分としない部分を適切に選択できることもまた、言語化という営みの重要な一部になるのです。

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タカサカモ(たかさかもと)
語学コーチ・通訳・著作家
1985年鳥取市生まれ。東京大学文学部卒業。20代で英語・スペイン語・ポルトガル語を習得し、32歳でフットリンガルを創業。国際舞台に挑む日本人アスリートの語学習得や異文化適応をサポートするほか、海外アスリートの通訳なども務める。著書に『東大8年生 自分時間の歩き方』『PLMメソッド ファンを増やしてプロ野球の景色を変える!』(ともに徳間書店)。
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(語学コーチ・通訳・著作家 タカサカモト)