離婚しても縁が切れない…専門家が見た「後悔するペアローン」4つの特徴 “綺麗に別れられない”夫婦が急増する?

20〜30代の若い夫婦では、「ペアローン」で住宅を購入することが一般的になってきている。実際、20代では約半数がペアローンで住宅を購入しているとのデータもある。その背景にあるのはもちろん、住宅価格の高騰である。しかし、住宅コンサルタントの寺岡孝氏は、「ペアローンで家を買うと、離婚のハードルがグッと上がる」と指摘する。特に揉めやすいケースをパターン別に解説してもらった。
(前後編の後編)
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【写真を見る】20代の約半数がペアローンで、借入中央値は? 最新版「単独ローン」vs「ペアローン」比較表
ペアローンの不動産がある場合の問題点
ペアローンで購入した不動産は、離婚時の財産分与をより複雑にします。特に以下のようなケースで問題が起こりがちです。

(1)名義が共有で、ローン契約が分離されているケース
たとえ「夫が住み、妻が出ていく」と決まっても、妻のローンが残っていれば妻の返済義務は消えません。元夫が住んでいる家のローンの一部を、別れた妻が返済し続けるという格好になります。
(2)持ち分割合と実際の返済割合が一致しないケース
たとえば名義が夫婦1/2ずつでも、実際の返済は夫が7割、妻が3割など、等分でない場合、後々の交渉や分与時に揉める原因になります。
(3)双方で売却の同意がまとまらないケース
不動産を売って精算したくても、どちらかが売却を拒否すれば物件は売れません。基本的には所有者全員の同意が必要です。中にはどちらかが自分の持ち分だけを第三者に売却してしまい、その後に全体の売却が思うように進まず、残った持ち分を安価で売却せざるを得なかった事例もあります。
このように、ペアローンという制度は「協力して家を持つ」という性格上、離婚時には高いハードルを伴う仕組みとなっているのです。
離婚時の財産分与で起きる“4つの落とし穴”
離婚に際して、婚姻期間中に築いた共有財産は、「原則2分の1ずつ分ける」という「財産分与」が発生します。ペアローンで購入したマンションもこの対象となるわけですが、次のような問題がよく起こります。
(1)不動産の「時価」とローン残債のギャップ
売却時に市場価格よりもローンの残高が多い“オーバーローン”状態となると、売却してもローンを完済できず、分け合う資産が残りません。
(2)名義変更やローン引き継ぎが困難
借入先の金融機関は安易に名義変更を認めません。審査や担保価値、収入条件などをクリアしなければ、片方が2名分のローンを引き継ぐこともできません。例えば、夫のみの単独名義に変更するには、妻の借入金に対する返済を負担できる収入がないと、名義変更は難しいのです。
(3)居住権と支払い義務のねじれ
「妻が住み続け、夫がローンを払う」といった取り決めは、契約上はなんの保証もありません。ローンの未払いが起きた場合、連帯保証人の妻に請求が及びます。ペアローンは夫婦それぞれの債務に対して、双方が連帯保証人となっているため、その意味をよく理解しておく必要があります。
(4)感情が先走り、現実的な交渉ができない
家に思い入れがある、子どもを転校させたくない――などの感情が冷静な判断を妨げ、解決を長期化させる要因になりがちです。
専門家が勧める“現実的な選択肢”とは?
では、こうした状況に陥った場合、どのように対処するのが現実的なのでしょうか。
私が実際にコンサルティングの現場で勧めているのは、以下の「3ステップ」です。
(ステップ1)早期に家の「時価評価」と「ローン残債」を整理する
売却は可能なのか。残債がいくらかになるのか。“数値”で現実を見つめ直す。
(ステップ2)売却して現金化し、ローンを完済して清算する
これができれば、最もトラブルが少なく、縁もきれいに切ることができます。
(ステップ3)どちらかが住み続ける場合は、済む側が代償金を支払い単独名義に
特にお子さんがいる場合など、なるべく引っ越しを避けたいと考える人も多いです。金融機関の承認と、住み続ける側の安定収入が条件ですが、事前調整によりクリアできたケースもあります。
感情ではなく、数字と契約で決めていく。これが「資産」としての家と向き合う方法です。
“家は人生の味方”であるために
2024年のマンション市場は依然として価格高騰の傾向が続いています。不動産経済研究所の「首都圏新築マンション市場動向(2024年2月)」によると、首都圏では新築マンションの平均価格が約7000万円に達し、東京23区では1億円を超える物件も珍しくありません。
中古マンションも上昇傾向が続いており、東京カンテイの「月例中古マンション価格(2024年2月号)」によれば、首都圏の中古マンション平均価格(70平米換算)は2024年2月時点で4800万円を超え、前年比で約5〜6%の上昇となっています。
現在の不動産市場では、価格の高騰により多くの購入希望者がペアローンを利用せざるを得ない状況にあります。特に都市部では、単独ローンでは希望する物件の購入が難しいケースが増えています。
ペアローンの利用者は、共働き夫婦が多く、収入を合算することで借入可能額を増やし、希望の物件を手に入れています。また、住宅ローン控除を夫婦それぞれが受けられるなどのメリットもあります。
「万が一の際にはどうやって手放すか」を想像すべき
しかし、ペアローンにはリスクも伴います。例えば、離婚や収入の変化があった場合、ローンの返済や物件の処分が複雑になることがあります。また、将来的な資産価値の下落や市場の変動によって、含み益を得るどころか損失を被る可能性もあります。
そのため、ペアローンを利用する際は、将来のライフプランやリスクを十分に考慮し、無理のない返済計画を立てることが重要です。
家は、人生に寄り添ってくれる存在であるべきです。 しかし、無計画に手に入れた家は、時にあなたの人生を縛る“重石”になります。
ペアローンという制度そのものが悪いわけではありません。むしろ、夫婦で力を合わせて住まいを手に入れる方法として、うまく使えば有効です。
ただ、実際に購入する前には「万が一の際にはどうやって手放すか」を想像しておくことが重要です。“出口”までをある程度は設計したうえで住宅ローンを組むのです。
それができて初めて、家は“味方”になってくれるのです。今まさに家を買おうとしているあなたに、何かの気づきとなっていただければと思います。
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この記事の前編では、ペアローンとの向き合い方について、同じく住宅コンサルタントの寺岡孝氏が、メリットとデメリットとに分けて解説している。
寺岡孝(てらおか・たかし)
住宅コンサルタント。1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行っている。これまでに2000件以上の相談を受けている。NHK名古屋「ほっとイブニング」「おはよう東海」などTV出演。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローンや不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』『不動産投資の曲がり角で、どうする?』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)がある。
デイリー新潮編集部