チャンピオンズリーグ(CL)は、2018-19シーズンからDAZNが日本での放映権を保持していた。それまでスカパーが持っていたものを奪取した格好だった。「CLの放映権を獲得しました!」と、DAZNはその時、はしゃぐように宣伝した。

 スカパーの前、1997-98シーズンから2002-03シーズンまで6年間放映権を持っていたのはWOWOWだった。スカパーはCLの放映権を奪取すると、10数年後のDAZN同様「CLの放映権を獲得しました!」と、はしゃぐように宣伝した。

 スカパーが2年前、CLの放映権をDAZNに持っていかれたとき、契約者である視聴者に対して、事の顛末をどれほど説明したか、筆者には記憶がない。その前のWOWOWも、その放映権をスカパーに持って行かれたとき、契約者に向けてどれほど説明したかについても、同様に記憶がない。

 ただ、それを怠ったとしても、次に放映権を獲得した放送局(通信事業体)が、「獲得しました!」と、雄叫びを上げたので、CLを引き続き観戦したければ、WOWOWからスカパーへ、スカパーからDAZNへ、移行の手続きを速やかに行えばよかった。

 CLは日常的に行われている欧州サッカーの中では最高峰に君臨する一大イベントだ。「獲得しました!」と、はしゃぎたくなる気持ちは分かる。しかし、視聴者にとってそれは、特段、歓迎すべき話ではない。むしろ、視聴にあたり、設備を整える必要が生じるかもしれない。煩わしい加入手続きも強いられる。聞き慣れたアナウンス、解説が聞けなくなる可能性もある。視聴料が大幅に下がらなければ、迷惑な話になる。

 だが今回は、これまでとは比較にならないほど迷惑な話に発展している。DAZNは次なる通信事業体に放映権を奪われたわけではない。単純に放棄した格好だ。日本で視聴できるのはUEFAの公式動画無料配信サービス=UEFA.tvのみ。視聴は毎節16試合中4試合(各日2試合)に限られる。しかもUEFA側が独自にセレクトした4試合だ。こちらの希望は通らない。無料サービスなので当然といえば当然だが、視聴環境は過去最低レベルを示している。

 WOWOWの前にCLの放映権を持っていたのはスポーツアイESPNで、生中継はなかったと記憶するが、トータルな視聴環境では、UEFA.tvで2試合しか見られない現在より上だった。いまは、四半世紀以上前に逆戻りした状態にある。

 事件と言わずして何と言おう。サッカー協会に文句を言っても、埒が明かないまさに解決不能な話であることも、問題を大きくしている。

 サッカー界におけるCLのステイタスは、W杯の次に位置するビッグイベントだ。4年に1度のW杯に対して、日常的に開催されているW杯と言う位置づけになる。出場選手のレベルはW杯と遜色ない。国対国で争われるW杯に出場した選手を、街対街の対抗戦に振り分け直した戦いになる。サッカーそのものの質では、W杯を凌ぐレベルにある。

 いま現在、世界のトップはどのレベルにあるのか。どんなサッカーをしているのか。4年に1度のW杯でベスト8入りを狙おうとしている日本にとっては、CLは文字通り必見のイベントになる。

 CLの放映権を持っている通信事業体は、そうした認識と自覚及び責任感を備えていなくてはならない。キチンと大真面目に伝えるべく、社会的責務を授かったことになる。そうした背景を知れば、身震いはしても「獲ったぞー!」と、はしゃぎたくなる気持ちは抑えられるはずだ。自分たちの都合だけで考えるなと言いたくなる。放映権を失った場合は、その経緯や事情を詳らかにすることが、この世界に生きるものにとっての礼儀ではないのか。

 DAZNは今回、そうした責務を怠った。最後の最後まで、何も発しなかった。「獲ったぞー!」とはしゃぎ人を惹きつけておきながら、放映権を失うと沈黙。契約者への報告義務を怠った。UEFA.tvという特殊な媒体からしか視聴できなくなったにもかかわらず。これでは契約者のみならず、一般のファンからも信頼を失う。DAZNこそCLの偉大さが分かっていない張本人になる。

 CLが満足に視聴できない日が訪れようとは、驚きである。

 いつかもこの欄で述べたが、日本はCLの視聴者の数が少ない国だ。CLへの関心は他国に比べ、けっして高くない。たとえばアジアでは、東南アジアや中国に大きく劣っている。日本におけるDAZNの加入者は100万に届いていない。その中でサッカーファンは何割いるのか。3割いたとしても30万弱。CLの視聴者に限るとその数はさらに減る。DAZNは確かに最新式の視聴方法かもしれないが、世の中的には圧倒的にマイナーだ。

 CLは、知る人ぞ知るコンテンツに過ぎなかったのだ。W杯に次ぐビッグイベントであるにもかかわらず。これではファンの目は肥えない。サッカーのレベルは上がらない。より多くの人に見てもらうための方策について、考えるべき時を迎えていると思っていたら、今季の視聴環境がよりいっそう悪化することになった。この状態はあくまでも一時的であって欲しい。そうでないと日本のサッカーのレベルは停滞あるいは後退する。CLを満足に視聴できない国が、W杯でベスト8に進む可能性は限りなくゼロに近いのだ。