障がい者プロレスへようこそ!
健常者レスラーが手加減なしで殴り、蹴り、技をかける。相手は障がい者レスラーである。この対戦には明らかにハンディキャップがあるのだが、健常者レスラーに抗う障がい者レスラーの姿勢は真剣そのもの。客席で対戦を見ていると、いま、この会場に、障がい者がいる、という単純だが重要な事実に気づく。
障がい者プロレスをご存じであろうか。雑誌「実話ナックルズ」(ミリオン出版)の12月号で、プロレス団体「ドッグレッグス」が紹介されている。「肉体や知能にハンディを抱えた障がい者たちが、リングの上で不自由に四肢をよじらせながらありのままの姿を晒け出して闘う」(同)。それがドッグレッグスの興行内容だ。
「ハンディを抱えているけれど、彼らはこんなにひたむきに、一生懸命頑張っていますーー」(同)。こうした世間が抱く障がい者の印象に疑問を持ったボランティア団体「ドッグレッグス」の代表・北島行徳さんが、1991年に立ちあげたのが同名のプロレス団体である。北島さん自身が「アンチテーゼ北島」のリングネームで、「障がい者をボコる健常者」としてリングに立ってきた。
例えば、ドッグレッグスの試合は、このように始まる。
「第1試合、ミラクルヘビー級3分5Rを行います!」
照明を落とした場内、ロープの張られたリングへと続く花道にスポットライトが当たる。入場テーマ曲が流れる中、姿を現すのは、介助者に抱きかかえられた重度の脳性マヒの男。入場コールに応えて振り上げて見せる細く折れ曲がった手足。彼をマットに降ろす介助者のほうがよほどプロレスラーのような体格に見える。(入倉多恵子「月刊ノーマライゼーション」1999年8月号)興行を開始した当初は、障がい者団体から「抗議」の声があがったり、利用を申し込んだ会場に断られたりしたようだ。しかし、障がい者レスラーたちが身をもってその存在感をアピールしてきた結果、そんな抗議もなくなり、会場の確保もできるようになった。彼らの20年にわたる活動は、伊達や酔狂ではない。ドッグレッグスの存在意義は、以下のコメントに集約されている。「不自由な生身の体を駆使し、時として血を流しながら闘う姿。それを見守る観客は、障がい者を単に社会的弱者として見ることへの疑問を、また同時に、障害をもって生きていくことの困難さに何ら目を向けることなく『障害もひとつの個性』と言ってすませてしまうことの危うさを、感じ取ることでしょう」(同)。人は、「見たくない」現実からは目を背けがちになる。そんな思いがタブーを生みだし、実態を知らぬままに「かわいそう」だとか「気持ち悪い」という、健常者の障がい者に対する意識を作りだしている。そこに障がい者がいるのに、「見たくない」からという理由でいないように思ったり振る舞ったりすることは、障がい者にとっても健常者にとっても不健全なことだと筆者は考える。機会があったら、ぜひドッグレッグスの興行を見にいってほしい。そこには、健常者と障がい者が入り乱れて真剣に勝負する姿があり、ユーモアがあり、涙がある。そして、興行を見る前に、北島さんの著書『無敵のハンディキャップ』(文春文庫)を一読いただくことをお勧めする。(谷川 茂)
