橋から飛び込む「川ガキ」たち 高さ12メートルからのダイブも…令和の時代、文化と安全はどう両立?
連日、全国各地で最高気温40度以上が観測され、今年から気象庁が新たに設定した「酷暑日」のニュースを耳にする日は多い。この時期は川や海などでの水遊びが定番だが、水難事故防止の観点から、遊泳禁止などの措置が取られる河川も少なくない。そんなご時世にあって、水面から数メートル、場所によっては十数メートルの高さの橋から川へ飛び込む文化が、今も残る地域が存在する。大人たちはノスタルジーに浸れるかもしれないが、令和の世に、そんな遊びはアリか、ナシか――。
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“日本最後の清流”四万十川の沈下橋から
高知県西部を流れ、太平洋に注ぐ四国最長の一級河川、四万十川。四季折々でさまざまな顔を見せるこの川に架かる多くの「沈下橋」は、四万十を彩る風景のひとつだ。沈下橋とは、欄干がなく、増水時には水面下に沈む橋を指す。車が通れなかったり、すれ違えないほど幅が狭い橋も多く、主に地元の人々が使用する橋だ。

「県が生活文化遺産として保存する沈下橋は管理者がはっきりしているものだけでも四万十川に48本架かっており、それ以外にも大小の沈下橋があります。今は(沈下橋ではない)大きな橋が架かっているところも多くありますが、それ以前から地域の方々の生活のために使われてきました。大きな橋ができたことによってすでに取り壊された沈下橋もあります。夏の時期は毎日のように、子どもたちが沈下橋から四万十川に飛び込んでいる姿が見られます」
こう話すのは、高知県と四万十市や四万十町など川の流域にある5市町の共同出資で2000年に設立された公益財団法人「四万十川財団」の担当者である。川に飛び込む橋としてよく選ばれるのは、中上流域にある一斗俵沈下橋(四万十町)。1935年に造られた古い沈下橋だ。他にも長生沈下橋(四万十市)や高樋沈下橋(中土佐町)などが「比較的飛び込んでも安全な橋」として財団のホームページに挙げられている。
とはいえ、3〜5メートルの高さから飛び込むことになる。当然ながら安全対策も重要だ。
「財団としては、ライフジャケットのほか、川の苔で滑らないようにするためのリバーシューズ、それにラッシュガードを着用し、きちんと対策をした上で水遊びをしてほしいと思っています」(同)
四万十市役所では7〜9月の間、数に限りはあるものの、ライフジャケットを無料で貸し出している。
危険な沈下橋も 深さや水の流れを知らない人が……
そうした安全策を講じてもなお、飛び込みなどには不向きな危険な沈下橋もある。下流域にある勝間沈下橋(四万十市)が最たる例で、飛び込みは禁止されている。
「1983年のテレビ番組で、四万十川が『日本最後の清流』と紹介されてから多くの観光客の方が訪れるようになったのですが、地元の人と違って、川の深さや流れをご存じない方もいる。勝間沈下橋もそうで、増水した際に下に引き込まれるような水の流れが発生することもあり、過去には死亡事故が起きました」(同)
2019年9月には関西方面からやってきていた大学生のグループのうち、男女2人が勝間沈下橋から飛び込んで流され、その後遺体で発見された。これ以前にも、程度の差はあれど事故は多く発生していたといい、2009年には四万十川の旧名である“渡川”を冠した「渡川水系水難事故等防止連絡会」が、県内の自治体や警察・消防などによって設置されている。四万十市役所防災まちづくり課の担当者は次のように話す。
「2010年度より、勝間沈下橋からの飛び込み禁止の看板を設置しています。言葉は厳しくなりますが、四万十川の深さを甘く見た結果、事故を招いているのではないでしょうか。川岸近くは割と浅いものの、淵になって深いところでは水深が20メートル近くあります。ゴーグルをつけていても川底が見えないほどです」
勝間沈下橋の近くに住む40代の男性は「まだ私が中高生の頃には禁止もされておらず、普通に仲間と飛び込みに行っていた」と話す。危険と隣り合わせの川遊びの文化は、地元にきっちり根付いているようだ。
高さ12メートル! かつてはコンテストも
だが、四万十川の沈下橋よりも高いところから飛び込める川がある。岐阜県の中央部に位置する郡上市。7月21日に今年初の「酷暑日」を記録したこの地の街中を流れる吉田川では、街の中心部に近い新橋から12メートル下の吉田川に飛び込む姿が見られる。四万十川の沈下橋の高さは3〜5メートルだから、倍以上の高さだ。
ただし、新橋には「警告」と赤字で書かれた警告板が設置され、「この橋からの飛び込みで重大な事故が発生しています」「不慣れな方等の無謀な飛び込みは厳に自粛されるよう」などと呼びかけられている。
「郡上市としては、警告板に書いてある通りです。当然、飛び込みは推奨していません。かつてはジャンプコンテストなども行われていたのですが、観光客の方が事故を起こすケースなどもあったので、市として明確に禁止しているわけではありませんが、自粛を呼び掛けています」(郡上市観光課担当者)
1990年代から「清流吉田川変装ジャンプコンテスト」といったイベントが行われており、当時の街の風物詩のひとつとなっていた。だが2000年代に入ると、他県からの観光客などが飛び込んで亡くなる事故も起きており、安全性の観点から、コンテストは2006年を最後に開催されていない。
それでも地元では、子どもらが吉田川へ飛び込む文化は残っているようだ。ただし、最初から高さ12メートルの新橋からダイブ……とはさすがにいかないようで、
「新橋から数百メートル上流に行くと、八幡小学校の近くに通称『学校橋』と呼ばれる橋があり、そのたもとには、これも通称ですが『三角岩』と呼ばれるそれなりの高さの岩があります。子どもは上級生に教わりながら、最初はこのぐらいの高さの岩から始め、だんだんと高さを上げて川遊びや飛び込みを教えていく。そんな文化が以前からありました。今でも新橋からは中学生らが飛び込む姿を見かけることがちょくちょくあります。決して市としては推奨していませんが」(同)
川ガキが育つ
新橋が架かる郡上市・旧八幡町出身の50歳男性は「私も昔は飛び込んでいた」として、こう述懐する。
「ジャンプイベントが行われるようになったのは、私が大人になってからだけれど、飛び込みは昔からあって、上級生から下の子たちに受け継がれていた。そもそも夏休みには学校のプールなんて行かずに、川へ遊びに行っていて、そういう子どもたちは『川ガキ』と呼ばれていたね。水もきれいだし、子どもの度胸試しという部分もあって、一種の文化的側面はあるよね」
実は「川ガキ」という言葉は、先に紹介した四万十川財団のホームページにも登場し、四万十川周辺でも使われている言葉のようだ。財団によると、平成初頭あたりから川ガキは減ったというが、
「四万十川が清流で有り続けるためには、人々が川に関心を寄せ続けることが最低限必要であり、川ガキはその原点」(財団)
とも指摘する。
「川で遊ぶことで、川を好きになり、好きな川を守っていこうという意識が芽生えます。川遊びは川と関わる暮らしの導入でもあるため、川ガキは四万十川に欠かせない文化です」
安易な川遊びや飛び込みが事故につながりかねないことは論を俟たない。一方、規制だらけの世の中で、こうした飛び込みなどの遊びの文化を受け継ぐ重要性を考えてみる価値は、あるかもしれない。
デイリー新潮編集部
