角栓ニュルッ、歯茎グラグラ…“不快な広告”苦情が急増 「マジでやめて」の声も“法規制”難しいワケ【弁護士解説】
毛穴からニュルッと出る角栓、グラグラと歯が抜けそうな歯茎、水虫にかかってボロボロになった足の爪、ブヨブヨにたるんだ目元――。
スマホの画面をスクロールするたびに目に飛び込んでくる、過度に強調された身体の悩みや、生理的な嫌悪感を煽る写真やイラスト、GIFアニメ。これら「気持ち悪い」「汚い」と感じさせるインターネット広告に対し、「生理的に無理すぎる」「マジでやめてくんねーかな」「本気で消えろ」など、SNS上でも拒絶反応を示す声が散見される。
こうした不満を裏付けるように、日本広告審査機構(JARO)が先月下旬に発表した2025年度の広告苦情受付状況によれば、同年度に寄せられた苦情は1万2589件に達し、設立以来の過去最多を記録した。これは、外出自粛によりネット利用が急増したコロナ禍の2020年度をも上回る数字である。
特筆すべきは、インターネット広告に関する苦情の激増だ。初めて全体の6割を占めるに至り、その内容は単なる「嘘・大げさ」といった表示への疑義だけでなく、表現そのものに対する「不快感」へとシフトしている。こうした不快な広告は、法律で規制できないのか。
「気持ち悪い」「鬱陶しい」広告表現に関する苦情が1.8倍にJAROの報告によれば、2025年度は広告表現に関する苦情が前年比で約1.8倍と著しく増加しており、特にネット広告を中心に「不快」「気持ち悪い」「怖い」といった声が急増した。
具体的な事例を見ると、2025年度にもっとも多くの苦情を集めたのは、医薬部外品などをECで扱う事業者で、1社に対して実に737件もの声が寄せられた。その主な内容は、腸や膀胱、耳の内部を描いたイラスト、あるいは執拗に繰り返されるGIFアニメが「気持ち悪い」「鬱陶しい」といった、生理的な拒絶反応に起因するものだった。
また、電子コミックやオンラインゲームにおいても、性行為の示唆や、人が殺害されるようなグロテスクな場面が「気持ち悪い」「怖い」といった苦情につながっている。こうした「不快表現」への反発は、特定のメディアに限られたものではなく、デジタル空間における広告全般への不信感へと広がりつつある。
「不快」という主観と法規制の壁これほど多くの消費者が拒絶反応を示しているにもかかわらず、なぜこれらの広告は野放しにされているのか。広告規制に詳しい杉山大介弁護士によれば、日本の法律における「表現の自由」と「規制の根拠」の難しさがその背景にあるという。
法的観点から見た場合、角栓や水虫、あるいは内臓の図解といった「気持ち悪い・汚い」と受け止められる表現であっても、直ちに違法として規制することは困難だ。
その根拠として、杉山弁護士は、過去に電車内での広告放送が違法だと主張された「囚われの聴衆事件」という裁判例を挙げる(最高裁昭和63年(1988年)12月20日判決)。
この判決は「列車内における商業宣伝放送を違法ということはできない」として原告の請求を認めなかった。著名な憲法学者でもある伊藤正己裁判官の補足意見が付されており、人には嫌なものを聞かない自由があるかもしれないが、電車という公共の場所でそれを主張するには限界がある、という趣旨の判断が示されている。
この考え方を現在のネット広告に当てはめると、さらに複雑になる。杉山弁護士は、企業にも憲法で保障された「表現の自由」があり、一方でその情報を必要としている受け手も存在する可能性があることを指摘する。そのような状況下で、個人の「見たくない」という主観的な感情を、法律によって他者の自由よりも絶対的に優先させることは極めて困難なのだ。
「法律というものは、権利や自由の優劣を絶対的に決定づける強力な力。それを行使するには、感情的な不快感を超えた、相当に強い理由が必要なのです」と、杉山弁護士は法介入のハードルの高さを強調し、「わいせつ表現、差別表現など、憲法上の価値が劣後すると評価されている表現の場合の規制は認められてくるが、こちらは個人の主観的な感情が理由とされているわけではないのがポイントである」とも説明する。
また、批判の声が高まることで企業が自発的に広告の手法を変えるなどの変化が生じるのは表現の自由による作用そのもので望ましいことであり、そこへ法が積極的に介入すべきではないというのが、現在の法律サイドの認識だという。
広告規制が「不当」とするものの本質では、医薬品などの広告で、「気持ち悪い・汚い」と受け止められる表現が薬機法や景品表示法に抵触する可能性はないのだろうか。これについて杉山弁護士は、結論から言えば、単に「気持ち悪い・汚い」という理由だけで広告規制法違反になることはまずないと断言する。
一応、公序良俗に反する広告を控えるようガイドラインに定められている法律もあるが、それはあくまで補助的な位置づけにすぎない。杉山弁護士は、「広告においてもっとも問題視されるのは、見た人を勘違いさせ、騙すことになるような内容です」と、規制の本質はあくまで消費者の誤認防止にあると解説する。
特に薬や医療のような、生命や身体に関わる分野では、仮に内容に根拠があっても、特定の許可や資格を伴わない表示は厳格に制限される。たとえば、美容医療において「10か月分0円」とうたいながら実際には高額な契約が前提となっているケースなどは、景品表示法の「有利誤認」などに該当し、JAROからも厳重警告が出されている。
つまり、表現がどれほど不快であっても、その内容が事実に即しており、かつ消費者を誤認させるものでなければ、法的な処罰の対象にはなりにくいのが実情だ。
不快な広告から“身を守る”には法的な強制力が及びにくい以上、消費者が不快な広告から身を守るには、現状では個別の対応に頼らざるを得ない。その有力な手段の一つが「広告ブロッカー」だが、これを利用することに違法性がないか心配している人もいるかもしれない。
しかし、杉山弁護士は次のように見解を示す。
「日本の法律上、ユーザーが広告をブロックすることを直接的に問題視する根拠はありません。これはあくまで、閲覧しているサイト運営者との契約、つまり利用規約という内部規制の問題です」
たとえば、YouTubeのように広告非表示の有料プランを設けているプラットフォームでは、外部ツールによるブロックを規約で禁止している場合がある。杉山弁護士は、規約違反を理由にアカウント制限措置が取られた事例については詳しく承知していないとしつつも、現在は法的な是非よりも技術的な攻防が主眼になっていると指摘する。
最近では、こうしたツールを検知すると動画の視聴自体を制限するような対抗策も強化されており、ユーザーにとっては利便性とリスクのバランスをどう取るかという、自己責任の側面が強い。
一方で、広告の「表現」そのものを改めていくための、より本質的な自衛策も存在する。杉山弁護士が前述した「批判の声によって企業が手法を変えることは差し支えない」という視点に立てば、適切な窓口への意思表示こそが、不快な広告を減らす近道となり得る。
①プラットフォームへの通報
SNSや検索エンジン上の通報機能で「不快」「不適切」を選択する。これは配信システムのアルゴリズムや審査に影響を与え、特定のクリエイティブの露出を減らす直接的な一歩となる。
②JAROへの申告
JAROは寄せられた苦情を統計的にまとめ、広告主や業界団体へ改善を促すフィードバックを行っている。実際に2025年度も、不快な広告が集中した特定の事業者や業界団体へ情報提供を行い、自主的な改善を促した実績がある。
③消費生活センター(188)への相談
単なる不快感を超え、虚偽の表示によって金銭的な被害や契約トラブルが生じた場合には、公的な窓口への相談が不可欠だ。
JAROは報告書の結びに、不快な広告の放置が「広告全体に対する忌避感や不信感、ひいては広告を遠ざける消費者の増加」へとつながっていく予兆であると強い懸念を示している。広告主やプラットフォーマーが「法に触れないから」と生理的な嫌悪感を煽り続けることは、自ら市場の信頼を破壊する行為に等しい。
消費者が適切な形で「NO」の声を積み重ねることは、広告主側に社会的責任を自覚させ、健全な広告環境を取り戻すためのもっとも強力な抑止力となるだろう。

