今だけ"動く"「重要文化財の現存天守」が1位…歴史評論家が選ぶ「2026年の夏に訪れるべき日本のお城ランキング」
■淡路島にある秀吉恩顧の武将が建てた総石垣
今年はNHK大河ドラマが「豊臣兄弟!」だし、時間がある夏には城を訪れたい、という人が例年以上に多いことだろう。一方、この夏はひどい猛暑も話題になっている。炎天下を何時間も歩くのは避けたい、と考えるのも当然だ。
では、どうする? まず山城を避け、平地や台地に築かれた城を訪れるのがいい。そんななかに、この夏にこそ見ておきたい城、暑くても涼みながら歩ける城、子供連れでも絶対に退屈しない城が、案外見つかるのだ。とっておきの6城を紹介する。
第6位は洲本城(兵庫県洲本市)。淡路島にあるこの城からは、洲本の街並みとその前に広がる青い海を、潮風に吹かれながら一望できる。廃城になったのは早く、城主の脇坂氏が大洲城(愛媛県大洲市)に移った慶長14年(1609)のこと。しかし、天正13年(1585)に入城した賤ヶ岳七本槍のひとり、脇坂安治の手になる総石垣の城の威容が、いまも保たれている。

また、改修前にこの地にはじめて城を築いたのは、淡路水軍を率いた安宅氏で、その年は大永6年(1526)。今年はちょうど500周年にあたる。洲本市淡路文化史料館では、「洲本城500年のあゆみ」と題した特別展が9月6日まで開催され、貴重な文化財の数々が展示されている。
また、本丸内には令和6年(2024)秋から「046cafe(おしろカフェ)」がオープンしており(火、水曜は定休)、涼みながら城歩きができるのがいい。
■5位は愛知県にある最古の天守
第5位は犬山城(愛知県犬山市)。この城の天守は、現存12天守のなかでもとくに貴重な「国宝5城」だが、なかでも特別であったことが令和3年(2021)に発表された。

犬山市教育委員会が専門家に依頼し、天守の木材を「年輪年代法」で調査すると、1、2階の通し柱は天正13年(1585)、4階の床を支える梁は天正16年(1588)に切り出されたことが判明したのだ。4階の部材も床板や梁など複数が、天正13〜16年の伐採だったという。
ということは、豊臣秀吉の天下統一前、すなわち羽柴秀長の存命中に築かれた、日本最古の天守ということになる。広島大学名誉教授の三浦正幸氏は、その木材を使って美濃金山城(岐阜県可児市)に建てられた天守が犬山城に移築された、という説を唱えるが、それでも最古であることには変わりない。
貴重な天守をじっくり鑑賞するだけでもいいが、8月1日から10日までは毎日(木曽川の増水時などは中止)、20時ごろから約10分間、「日本ライン夏まつりロングラン花火」が開催される。川に浮かべた船から300発が打ち上げられ、夜空を彩る花火と最古の天守の見事なコラボレーションを楽しめる。
■日本一充実した「天守内部の展示」
続いて岡山城(岡山市北区)を第4位に推す。「豊臣兄弟!」との関係で説明すると、この城を天正18年(1580)から慶長2年(1597)にかけて大規模に整備したのは、秀吉が養子同様に寵愛した宇喜多秀家だった。その象徴は、平面が東西に長い不当辺五角形の石垣上に築かれた天守で、織田信長の安土城天主や秀吉の大坂城天守の面影をとどめた、とても複雑かつ華麗な姿をしていた。

残念ながら、昭和20年(1945)6月29日未明の空襲で焼失したが、昭和41年(1966)に鉄筋コンクリート造で外観復元された。戦前の姿と異なる箇所があるなど問題がないではないが、令和4年(2022)秋に「令和の大改修」が終わり、外観等が鮮やかになっただけでなく、内部の展示が非常に充実した。
展示を監修したのは岡山出身の歴史学者、磯田道史氏。冷房が効いたなか、城や城主の歴史が、映像や立体的な展示によってよく理解できるほか、刀や鉄砲の重さを実感したり、武将や大名姿を体験したりする場もある。だから子供もみな楽しそうだ。筆者が知るかぎり、天守の内部の展示としては圧倒的に日本一の充実ぶりである。
それに8月中は「夏の烏城灯源郷」が開催され、天守だけでなくその周辺も、提灯や燈籠、ろうそくなどの明かりで彩られ、夏の日本ならではの風情が味わえる。対岸にある日本三名園のひとつ後楽園でも、ライトアップのイベント「夏の幻想庭園」が開催され、暑さを忘れるひと時が楽しめそうだ。
■2028年以降に内部に入れなくなる国宝城
第3位は、やはり「国宝5城」のひとつの松本城(長野県松本市)。この城の天守は、大天守を中心に、北に乾小天守が、南東に渡櫓、辰巳付櫓、月見櫓が連結され、黒い鳥が翼を広げたようで美しく壮観だ。

建築年代は、大天守と乾小天守は文禄2〜3年(1593〜94)ごろ、辰巳付櫓と月見櫓は寛永10〜11年(1633〜34)ごろの増築、というのが市の公式見解だったが、もっとあたらしいという主張もあった。そこで、令和4〜6年(2022〜24)に「年輪年代法」による調査が行われ、月見櫓以外は、文禄3年(1594)から慶長2年(1597)に建てられたことが明らかになった。月見櫓の建築年代も、寛永3年(1626)から2年程度とわかり、考えられていたよりも古かった。
いずれにせよ、現存天守では2番目に古く、もし犬山城が移築であれば、最初からその場に建てられた天守としては最古ということになる。
この天守だが、現在、耐震補強の工事が予定されている。大天守以下5棟をすべて鉄骨補強するという大がかりなもので、はじまると数年間は天守の内部に入れなくなる。着工予定は令和10年(2028)年以降とされており、いまのうちにじっくり見ておくに越したことはない。
■「デコポンかき氷」が絶品
第2位には鹿児島城(鹿児島県鹿児島市)を挙げる。この城の最大のみどころは、令和2年(2020)に復元された御楼門で、櫓門としては全国最大級の規模を誇るものだった。「たかが門」ではない。この門は事実上、鹿児島城の天守に相当する建築だった。

慶長5年(1600)の関ヶ原合戦後に島津家久が築いたこの城には、天守も重層櫓もなく、石垣もさほど高くなくて水堀も狭かった。77万石の大大名にしては、防備が手薄だったようにも見える。だが、江戸時代も薩摩藩だけは、各地に武士団が集住する形態が残され、本城の鹿児島城だけを鉄壁の要害にする必要はなかった。だから、室町時代の守護の館のような形態が保たれたのだが、城のシンボルは必要だ。それが御楼門だったのである。
発掘調査および古写真の解析などの結果を活かし、文化7年(1810)に木造の橋から架け替えられて現存する石橋の前に、伝統工法により史実に忠実に復元された。
また、この城は本丸に建つ鹿児島県歴史・美術センター黎明館がすこぶる充実している。展示されている史料が膨大で、しかも展示方法がわかりやすく、城に絡んだ博物館としては全国屈指の充実度を誇る。しっかり見ようとすれば、丸1日を要するほどの内容である。
しかも、特別展として8月23日まで「大恐竜展2026」が、8月31日までは「動き出す妖怪展 KAGOSHIMA」が開催されているので、子供も大よろこびすること請け合いだ。レストランも充実し、暑さにもしっかり対応している。筆者は「デコポンかき氷」を食べたが絶品だった。

■天守の曳戻しを見られる唯一の機会
いよいよ第1位だが、弘前城(青森県弘前市)を挙げたい。この城の3重3階の天守も現存12天守のひとつで、文化8年(1811)に竣工したものだ。
ただ、長きにわたって天守の重みを支えていた石垣がゆがんで倒壊の危険性も生じたため、平成27年(2015)、曳家(建物を解体せずそのままの状態で移動させる伝統的な方法)によって天守を本丸内側に設置した仮の天守台に移動し、石垣の積み直し工事(基礎耐震補強工事)が行われてきた。それがようやく完成し、7月から「曳戻し」が行われている。11月までにもとの天守台に戻るという。

それを記念して、8月21日から28日まで弘前城天守曳戻しイベント「ひっぱれ! けっぱれ! 弘前城」が開催され、22日から26日には一般の人の参加を募っての「天守曳戻し体験」も行われる(体験への参加申し込みは終了)。天守が動くなんて、さすがにこの夏だけの光景なので、自分が曳戻しに参加しなくても、見るだけで価値がある。
天守台に戻ったあとは、ずっとその姿を眺められるのかというと、そうではない。令和10年(2028)夏ごろから同14年いっぱいまで保存修理工事が予定され、その間は天守全体が覆われる。つまり、4年以上もまったく見えなくなってしまうのである。その意味でも、この夏こそ行っておきたい城のナンバーワンだといえる。
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香原 斗志(かはら・とし)
歴史評論家、音楽評論家
神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に『お城の値打ち』(新潮新書)、 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。
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(歴史評論家、音楽評論家 香原 斗志)
