(※写真はイメージです/PIXTA)

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NISA貧乏」という言葉をご存じでしょうか。将来への不安からNISAの非課税枠をめいっぱい活用しようと、趣味や交際費だけでなく、生活費さえ切り詰める人のことを指し、2026年3月、国会でも取り上げられ話題になりました。そんな彼らを横目に、バブル崩壊後の株価停滞期を生きてきた遠山さん(仮名/53歳)は「理解できん」とバカにしますが、実はNISA貧乏の彼らと似た者同士であることに気づいていませんでした――。

部下がランチに来なくなった“意外な理由”

食品メーカーの本社に勤務する遠山さんは、ここ最近のランチタイムにちょっとした変化を感じていました。会社近くの蕎麦屋でテーブルを挟む相手が、決まって40代後半の課長だけになっていたのです。かつては20〜30代の若手社員数人も交えて賑やかにテーブルを囲むのが日常でしたが、最近はパタリと若手がついてこなくなりました。

「最近、ランチはいつも君と二人だな」「みんな手弁当を休憩室で食べるようになりましたからね……」

コロナ禍以降飲み会が減ってから、ランチタイムは若手とコミュニケーションをとる貴重な機会でしたが、遠山さんは部下から避けられているのかと不安になり、課長にそれとなく探ってもらうことに。しかし、理由は別のところにあったようです。

「どうも、NISA投資するために節約しているようですよ」

たしかに若手がランチに付き合わなくなった時期と、NISAが流行りはじめた時期は重なっています。課長によれば、彼らは外食を控えるだけなく、お金のかかる趣味をやめたり、デートや遊びに行く回数を減らしたりして投資資金を捻出しているとのことでした。

遠山さんは彼らの思考回路が理解できません。「NISAって投資だろ? 節約してまで金をつぎ込むのか?」

「日本の将来や年金制度に不安を感じているらしく、その対策としてNISAを始めたんだそうです。NISAの平均投資額は5〜6万円程度ですが、部下のなかには月10万円以上投資する奴もいるみたいですよ」。課長の説明を聞き、遠山さんは唖然としました。

部下とは対照的に、投資に懐疑的なミドルシニア世代

「将来が不安なのはわかるが、いまの生活を楽しまなくていいのか? そもそも投資なんて値下がりリスクもあるし、バブルやリーマンショックのように暴落したら目も当てられないぞ」

平成不況と呼ばれる停滞期を生き延びた遠山さんと課長は、投資に懐疑的でNISAもやっていません。遠山さんも課長も、不安に駆られた若い世代の極端な投資行動が腑に落ちませんでした。

「将来のために我慢して貧しい生活をするなんて……バカみたいな話だな」

その言葉に頷く課長を見ながら、遠山さんには若い部下たちが滑稽で情けなく感じられ、鼻で笑わずにいられませんでした。

同じ穴のムジナ…若者の「NISA貧乏」を笑えない理由

こうして、若い世代の「NISA貧乏」を笑う遠山さんですが、実は彼もまた将来不安から、別の「貧乏」になっていることに気がついていません。その貧乏とは、「保険貧乏」。最近登場したNISA貧乏よりはるかに長い歴史を持ちます。

保険投資とは異なる金融商品ですが、NISAが長生きリスクに備えたものとすれば、保険はもしものことがあったときの不安を解消するためのもの。どちらも「不安を解消し安心を買う」という意味では、似た性質を持ちます。日本人は世界有数の保険好きで知られており、30〜40%程度といわれている投資人口に対し、世帯別の民間保険加入率は90%と倍以上です。また、一世帯あたりの平均加入金額は月額で3万円を超えています。

遠山さんも、そんな「保険好き」の一人。年収が高く二人の子どもを持つ彼は、保険会社に勤める知人から勧められるがまま、多くの種類の保険に加入しています。終身保険、定期保険、医療保険、傷害保険にガン保険……。それぞれに各種特約をつけた掛け金は、平均の倍近以上の7万円。これはNISAの平均投資額を超える金額です。

一方で、遠山さんの月々の小遣いは4万円で、サラリーマンの平均金額とほぼ同じ。物価高が進むなか、決して余裕のある金額とはいえません。保険の掛け金のほうがはるかに多く、若者のNISA貧乏をまったく笑えない状態です。

つまり中高年の遠山さんも、若い世代の部下も、ともに不安解消と安心のために、あえて貧乏になる道を選んでいるといえます。遠山さんは「俺も同じ穴のムジナだったのか」と失笑しました。

アフラックのお得意様…不安を感じやすい日本人

ガン保険で有名な米国の保険会社アフラックが、売り上げの半分以上を日本で稼ぎ出しているのは有名な話です。また、フランスに本社を置き、世界50ヵ国以上で事業を展開するアクサ生命も、売り上げの6%程度を日本が占めています。日本は世界の保険会社にとって、お得意様なのです。

一方で、日本の公的保険制度は、WHO(世界保健機関)などから「他国と比較しても非常に優れたセーフティネット」だとして高い評価を受けています。にもかかわらず、なぜ多くの日本人は民間保険に積極的に加入するのでしょうか。

その理由のひとつに、「不安遺伝子」の存在があるといわれています。はるか昔から自然災害の絶えない日本列島に住む祖先から受け継いだこの遺伝子は、欧米人などと比べて日本人が持つ割合が突出して高く、これが将来のリスクに敏感になりやすくさせているそうです。

加えて、現代では保険会社や代理店が、この不安感を巧みにマーケティングに利用しています。たとえば、「日本人の二人に一人はガンに罹る」と不安を煽ったうえで、「保険に助けられた」と安心を提示する広告が典型例です。

いまや、保険を勧めるのは保険会社の営業だけではありません。銀行やカード会社などの金融機関はもとより、家電量販店や自動車販売店まで代理店となり、いたるところで無料のFP相談が紹介され、そこで保険の必要性が語られます。さらに、保険の種類も多様化し、旅行のキャンセル保険やインフルエンザ保険など、必要性に首をかしげるような商品まで登場しています。

NISAをはじめとした投資ブーム、街中で目にする保険広告や勧誘。これらを一歩引いた目で見てみると、見えない不安を刺激され、安心を求めて「〇〇貧乏」と揶揄されるまでに踊らされる日本人の悲しくも滑稽な姿が見えてきます。

不安に踊らされない「マネーリテラシー」を身につけるために

たしかに将来のリスクに備えることは必要です。しかし、そもそも未来は不確実で誰にもわからないもので、そのリスクすべてを完璧にカバーすることは無理な話です。

投資にしても保険にしても、不安に駆られやみくもに始める前に、自分にとって本当に備えるべきリスクはなんなのか、どのような方法で対応するのかを立ち止まって考えることが、正しいマネーリテラシーを身につける第一歩になると筆者は考えます。

なお、その判断について保険の営業やFPに相談する際は、助言を鵜呑みにしないよう注意しましょう。なぜなら、投資の神様ウォーレン・バフェットの名言にあるとおり、彼らはあなたの持つ資産を飯のタネにしている販売側の人間だからです。

「床屋に髪を切るべきか相談してはいけない。彼らは常に『切る必要がある』と答えるからね」

凡人投資家Gekko(ゲッコー)

サラリーマン兼業個人投資