日本人技術者の大量流出、市場を席巻する中国…「ドローン敗戦」国産化の前途多難
「空飛ぶスマホ」とも呼ばれるドローンの市場を席巻しているのは中国だ。国産化に舵を切る日本だが、その道はあまりにも険しい―。
日本メーカーの倍の待遇で引き抜く
東京・品川。ソニー本社の目と鼻の先にそのビルはある。世界最大のドローンメーカーとなった中国DJI社の対日拠点が入るビルである。
そこは、ドローンに搭載する次世代カメラの開発拠点と言われている。ニコン、キヤノン、富士フイルムなど日本の光学機器メーカーを退職した中高年をスカウトし、日本メーカーの2倍近い1500万円や1800万円の報酬で遇している。ライバルの国産ドローンメーカーの社長は、こう観察する。
「DJIは、非常に戦略的に技術者を採用しています。世界を席巻した日本のカメラを開発してきた人たちは優秀です。彼らを高給で優遇する。別に中国に連れて行くわけではなく、品川ですから抵抗感も少ないでしょう」
研究開発部門で働く日本人は少なくとも70人いる。カメラの鏡筒設計から始まり、画像アルゴリズム、コンピュータービジョンまで幅広く人を集めている。最近では「ソニーからも優秀な技術者が数人流出した」とも言われる。
なぜ、ドローンメーカーは、日本のカメラの技術者を欲するのか。
それは、ドローンの性能の良し悪しを決めるキーパーツの一つがカメラだからである。絶えずプロペラの振動にさらされるなか、ぶれない画像を撮影する。そのために、揺れなどを補正しカメラの水平を保つ「ジンバル」という制御装置が組み込まれている。
実は、こうしたジンバルをはじめ、ドローンにはスマートフォンで使われるものが多く使われている。たとえば、長時間の飛行を可能にするバッテリー。位置を確認するためのGPSモジュール。移動や回転を瞬時に計測できる六軸センサーなどである。
それらに頭脳ともいうべきフライトコントローラーとモーター、それにプロペラを装着すれば、ドローンはできあがる。ドローンが「空飛ぶスマホ」と呼ばれる所以である。
自衛隊までも「中華ドローン」を使っている
'06年に深圳で創業したDJIは、'10年代に中国大陸でスマホの大量生産が始まった波に乗った。
ドローン向け投資をしているベンチャーキャピタルの責任者はこう指摘する。
「スマホで使われる部品を活用したら「できちゃった」んです。それは意図して狙ったというよりも、スマホの大量生産のおこぼれに与ったんだと思います。ちょうどシャオミがスマホのあとにEVを作り出したのと似ています」
あとは実際に市場に投入し、性能を向上させる業務改善フローの「PDCA」をたくさん繰り返せばよかった。液晶パネルや太陽光電池のような単純な大量生産とは、そこが違う。DJIは当初、ラジコンのようなホビー用として家電量販店などで売り出し、一気に愛好家の支持を得た。そこから量産→飛行→性能改善の好サイクルを得たのである。
先んずれば人を制す。もはや世界市場の70%、日本においては90%ものシェアを有するドローン界のガリバーとなった。スウェーデンの老舗カメラメーカーのハッセルブラッドを買収してカメラの自社開発を強化し、その延長線上に日本の光学機器メーカーOBの戦略的な採用がある。
これに危機感を抱いたのが日本政府だった。
警察庁出身の杉田和博官房副長官が'19年ごろ、経済産業省に対して「自衛隊も海上保安庁も警察もみんな中国製ドローンを使っている。これを何とか国産化できないか」と持ちかけ、経産省主導のもと国産ドローンメーカーの育成が本格化した。
【後編を読む】「日の丸ドローン」の相次ぐ大失敗…「ドローン敗戦」ニッポン 経済安保これで大丈夫か
「週刊現代」2026年7月6日号より

