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「仕事は辞めて家庭に入ってほしい」という〈年収1,400万円〉のエリート夫からの頼もしい言葉を信じ、周囲が羨む結婚生活を手に入れたはずの専業主婦のサオリさん(仮名・29歳)。しかし、モルディブへの新婚旅行に向かう機内で、裏に隠された恐ろしい本性に気づいてしまいます。収入のない専業主婦が直面する「離婚の壁」をどう乗り越えるべきか、弁護士の山村暢彦氏が解説します。

29歳専業主婦が〈年収1,400万円〉エリート夫に抱いた「ある違和感」

専業主婦のサオリさん(仮名・29歳)は、外資系コンサルティングファームに勤める夫のトモヤさん(仮名・36歳)との新婚生活に悩みを抱えています。

トモヤさんの年収は約1,400万円。マッチングアプリで出会い、1年の交際を経て結婚しました。トモヤさんは「仕事は辞めて家庭に入ってほしい」といってくれる頼もしい男性で、周囲からも羨まれるような生活のスタートでした。

しかし、交際中からサオリさんは少し引っかかることがありました。レストランやタクシーなどで、トモヤさんがスタッフに対して妙に横柄な態度をとるのです。違和感を覚えつつも、「自分には優しいから」と目をつぶっていました。

その違和感が確信に変わったのは、新婚旅行でモルディブへ向かう機内でのことでした。

モルディブに向かう機内で戦慄した〈夫の本性〉

ビジネスクラスの座席で、トモヤさんの頼んだ食事が間違えて運ばれてきました。するとトモヤさんは客室乗務員に対して、「遅すぎる。ビジネスクラスで高い金を払っているんだぞ」と、威圧的な声でクレームを入れ始めたのです。

見かねたサオリさんが「少し時間がかかっただけじゃない。せっかくの新婚旅行なんだからやめようよ」となだめるも、トモヤさんはサオリさんをにらみつけました。

「そもそも、この新婚旅行は誰が稼いだお金で行けると思っているんだ?」

その言葉に、サオリさんはハッとしました。「家庭に入っていい」という優しさの裏には、「自分のお金で相手を支配したい」という本性が隠れていたのです。

そのときサオリさんは、「あぁ、この人と添い遂げるのは無理だ」と強い恐怖を感じ、離婚の2文字が頭にちらつきました。

「専業主婦のくせに」…離婚を切り出すも直面する壁

帰国後も、トモヤさんの態度は変わりませんでした。モルディブに向かう機内での一件が決定的となり、以来サオリさんはトモヤさんの言動の端々に支配欲を感じるようになりました。そして次第に、トモヤさんを生理的に受けつけなくなったのです。

そんなある日、トモヤさんが「俺たちもそろそろ子どもを考えないか」と機嫌よく切り出してきました。限界を迎えていたサオリさんは、「ごめんなさい、あなたとは将来を考えられない……」と離婚の意思を告げました。

しかし、トモヤさんは「専業主婦のくせに、一人で生きていけるわけがないだろう」と鼻で笑うだけ。サオリさんは離婚を決意したものの、自分自身の収入がないことや、明確な暴力がない状態で法的に離婚が認められるのかという壁に直面し、一筋縄ではいかない現実に、途方に暮れています。

弁護士の見解

本件でまず整理すべきなのは、「性格が合わない」「相手の態度に強い違和感を覚えた」というだけで、直ちに一方的な離婚が認められるわけではないという点です。夫婦双方が合意すれば協議離婚は可能ですが、相手が拒否する場合、最終的には裁判上の離婚原因が必要になります。

本件では、「誰のお金で生活しているのか」「専業主婦のくせに」といった発言があり、経済的優位を背景にしたモラルハラスメントと評価し得る面もあります。もっとも、同居を続けながら、こうした言動だけを理由に裁判で離婚を認めてもらうのは、実務上簡単ではありません。録音やLINEなどの証拠があっても、それだけで直ちに婚姻関係の破綻が認定されるとは限らないからです。

そのため現実的には、まず同居を解消し、別居によって生活と精神状態を落ち着かせることが重要です。別居期間が長くなると、夫婦としての共同生活が失われていることが明確になり、裁判所も婚姻関係の破綻を認めやすくなります。

一般的には、別居期間が3年以上に及ぶと離婚が認められやすい傾向がありますが、本件のように婚姻期間が短い場合には、それより短い期間でも事情によっては離婚が認められる可能性もあります。

また、別居中であっても、夫婦である以上、収入の多い側は収入の少ない側に対して婚姻費用を分担する義務があります。サオリさんに収入がない場合でも、婚姻費用分担請求調停などの手続を取れば、別居中の生活費を請求できる可能性があります。

本件では、同居を続けながら夫の問題発言を集めて戦うよりも、まず安全に別居し、婚姻費用を確保しながら、冷静に今後を判断することが現実的です。そのうえで、婚姻を継続できるのか、それとも離婚に進むのか、別居期間、婚姻費用、財産分与の見通しを含めて専門家に相談しながら進めるべきでしょう。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士