吉祥寺に「吉祥寺」はあるのか?なぜ吉祥寺なのか…住みたい街ランキングでしぶとく上位のワケ「人気のわりに実はリーズナブル」タワマンもない

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 東大卒の不動産評論家・牧野知弘氏が自分の住みたい街について縦横無尽に語る大好評連載の最新回は吉祥寺についてだ。「高齢化の進展で思わぬ掘り出し物件が手に入りやすくなる可能性もある」というーー。

吉祥寺は「住みたい街ランキング」で毎年上位に君臨する…2024年も首都圏3位にランクイン

 私の朝のウォーキングコース、本駒込三丁目の本郷通り沿いに吉祥寺というお寺があります。あれ? 吉祥寺といえば、JR中央線と京王帝都井の頭線が交錯する「吉祥寺」駅が思い浮かびます。なんでこんなところに吉祥寺

 今回はSUUMOが発表する「住みたい街ランキング」で毎年上位に君臨する人気の街、吉祥寺を取り上げます。2024年の住みたい街ランキング(首都圏版)でも3位にランクインしていました。

吉祥寺はなぜ「吉祥寺」と呼ばれるのか

 吉祥寺というお寺は吉祥寺駅周辺のどこかにあるはず、と思っている人は多いでしょう。でも吉祥寺駅周辺をどんなに探索しても吉祥寺というお寺は見つかりません。吉祥寺駅周辺はたしかに寺町で、街中には安養寺、光専寺、蓮乗寺、月窓寺などのお寺があります。でも肝心の吉祥寺は文京区の本駒込三丁目とはいかに。

 歴史を紐解くと、諏訪山吉祥寺は曹洞宗のお寺で江戸時代には現在の文京区本郷一丁目、都立工芸高校の場所にあったそうです。JR水道橋駅付近の交差点にある学校です。ところが明暦の大火によって消失し、現在の地に移るのですが、大火の時に付近に居住していた住民が幕府によって移動させられ、武蔵野の地の開墾要員として、現在の武蔵野市に移住することになり、彼らがお寺を慕って町名にしたとされます。

 狭義の吉祥寺吉祥寺駅の北にある、吉祥寺本町、吉祥寺中町、吉祥寺北町、吉祥寺東町と駅南側の吉祥寺南町を指します。吉祥寺中町はJR三鷹駅北口に近く、吉祥寺南町は三鷹市にある井の頭恩賜公園と神田川に接します。

 私にとって吉祥寺は青春の街です。通っていた高校が杉並区の久我山付近にあったので、よく授業が休講になると、井の頭公園まで自転車に乗って出向き、井の頭池のボートに乗って遊んでいました。また学園祭や運動会のあとはみんなで吉祥寺に繰り出し、夜遅くまで遊び惚けていたものです。学校が私服でしたので、現代では許されませんが大学生のフリをして居酒屋に入って大人の気分を味わっていました。

中央線で新宿までわずか11分、東京には26分。井の頭線で渋谷まで17分

 さてこの街の魅力はなんでしょうか。まずは立地のよさです。鉄道網はJR中央線と京王帝都井の頭線の2本だけです。しかし都心にはとても近いのです。中央線を使えば新宿までわずか11分、東京には26分。渋谷に行くのならば始発の井の頭線で17分です。

 この圧倒的な利便性は都下の街にあっては特筆ものです。また駅からのバス網が充実しており、練馬区、杉並区、三鷹市方面へのアクセスも軽快です。

文化人も多く、カルチャーの雰囲気が漂う街

駅周辺の商業店舗も充実しています。今でも活況のサンロード商店街をはじめ、昭和の色を残したハモニカ横丁、ダイヤ街、平和通り。ちょっと小洒落たバーやレストランに加え、この街は音楽の街。ジャズ喫茶やロック演奏、フォークソングが聴ける店が数多く出店しています。また街には昨年亡くなった楳図かずおや江口寿史など漫画家や文人も多く居住していて、街全体にカルチャーの雰囲気が漂います。

 大型商業施設は近年入れ替わりが激しくなりましたが、アトレ、伊勢丹退店後にオープンしたコピス、パルコ、ロフト、東急百貨店、近鉄百貨店跡のヨドバシカメラなどが軒を連ねます。アトレは私が高校生、大学生の頃は「ロンロン」といって財布にお金がなくてもぶらぶらと歩きながら高校生でもデートが楽しめる場所でした。

 吉祥寺周辺には学校が多いのも特徴です。駅北口から四軒寺通りを右折すると通りの名は「女子大通り」。東京女子大学につながる道です。大学の時に入っていたサークルにこの大学の学生も参加していたので、互いに行き来がありました。駅北西には成蹊大学があります。東京女子大は都内や地方から出てきた真面目な学生が多い印象でしたが、成蹊大学は良い家のお坊ちゃまお嬢さまが通う華やかなイメージが強く、私にはご縁のない学校でした。また三鷹市の立教女学院も近く、私の通う高校の男子生徒の憧れの学校でした。

 学生が多い街は、駅周辺の雰囲気も華やぎます。常に若い人たちが出入りするためお店の新陳代謝もあり、新しいファッションに身を包んだ若い男女が闊歩する街でした。

吉祥寺はなぜねらい目なのか…住民の高齢化で築古戸建てが大量に売られる可能性

 いっぽうで近年は住民の高齢化が話題になっています。武蔵野市の人口は現在14万8千人ですが、このうち65歳以上の高齢者は3万3千人と高齢化率は22.5%ですが、市の推計によれば2052年には高齢化率は32.4%になるとされます。

 今後は吉祥寺周辺でも多くの相続が発生することが見込まれ、大量の戸建て住宅が売却や賃貸に供されることが想定されます。吉祥寺はそうした意味では今後狙い目の街になるともいえますね。

中古マンションは築古なら坪300万円台から探せる…人気のわりにそこまで高くないリーズナブルなエリア

 では現状の相場をみてみましょう。驚くべきことに中古のマンション価格は人気のわりにそれほど高い水準ではありません。

 築浅のものであれば坪400万から450万円。十分に高いのでしょうけれども湾岸エリアで坪550万円とか600万円の数値を見慣れているせいか街の成熟度のわりにリーズナブルにも映ります。また築古でしたら同300万円台でも探すことができます。

なぜ吉祥寺駅周辺にはタワマンなど高い建物がないのか

 吉祥寺駅周辺には高い建物がありません。これは市の定める容積率ほかの規制によるものですが、多くの自治体で主要駅前の容積率を緩和して、市街地再開発事業を推進、タワマンを建設するのに対して、武蔵野市はかなり厳しい規制をかけているようです。

 ロータリーがあって多くのバスやタクシーの発着がスムースな北口に比べて、南口はロータリーがなく、通称「三角地帯」と言われる公園口正面の一帯が古くからの建物がひしめき交通の阻害要因になっていました。そこで市では、この地帯の家屋を買収し、駅前ロータリーの整備をめざしているものの、買収は難航していると聞きます。安易に開発に頼らず、の姿勢は良いのですが、なかなか道のりは遠そうです。

高齢化の進展で思わぬ良い物件がマーケットに出てくる可能性

 駅公園口から七井橋通りを、三角地帯を抜けて井の頭公園に至る道は、昭和の雰囲気を残したカフェや飲食店、雑貨屋があって、公園に向かってパッと開ける雰囲気は、なんでも開発してきれいにお店を並べる街並みよりも温かみを感じます。

 駅周辺はどうしても不動産価格は高くなりますが、どうでしょうか。駅バス物件ならば悪くない気がします。北側の東京女子大から善福寺公園あたりもよいですし、南側の井の頭公園から三鷹台にかけてのあたりもよい雰囲気です。築古のマンションでも比較的管理のしっかりした物件も多いエリアですので、吟味して選べば比較的リーズナブルな物件を手にできると思われます。

 今後は高齢化の進展で思わぬ良い物件がマーケットに出てくる可能性もあります。やっぱり吉祥寺はみんなにとって住みたい街なのです。私の評価も◎ですよ。