「トラックの脱輪事故」が増えた理由にJIS方式からISO方式への変更がある! 日本の環境に合わない「ホイールボルトの規格」は早急に対策が必要
この記事をまとめると
■大型トラックのホイール脱落事故が増えている
■脱輪の原因のひとつといわれているのがボルトナットの規格変更だ
■「JIS方式」と「ISO方式」の違いについて解説する
「JIS方式」から「ISO方式」に改められた
ここ数年、ホイール脱落事故の報道が目立ってきたように思うのは、ニュースの量が増えているだけではない。全日本トラック協会によれば、2015年度から2018年度の4年間だけでも大型トラックのホイール脱落事故は41件から81件へとほぼ倍増しているのだ。
その原因のひとつといわれているのが、ホイールを固定するボルトナットの規格変更だ。2009年から(生産継続車は2011年から)日本国内で販売される新型大型トラックのホイールボルトはJIS方式からISO方式へと改められている。
ISOとは国際標準化機構の略で、さまざまな規格を世界で統一しているものだ。クルマだけでなく、あらゆる工業製品や生産品質、情報などあらゆる品質を統一化して、安心して取引やサービスを受けられることを目的としている。
大型トラックのホイールボルトに話を戻すと、ISO方式はすべてM22ミリのネジ径で22.5インチホイールでは10本のボルトナットで固定される。それに対して旧規格のJIS(日本工業規格)では前輪はM24、後輪は車種によってM20とM30が使い分けられるが、固定するボルトは8本だ。
単純に比べると10本のボルトナットで固定するISO方式のほうが丈夫で安全なようにも思える。実際、世界中で使われるトラックの95%はISO方式のホイール固定方式を採用しているから、信頼も高そうだ。もしホイールナットが緩んでホイール脱落の原因となっているなら、より安全な規格に改められるだろう。
「ISO方式」は日本の環境に合っていない可能性が高い
しかし、細かく仕様を見ていくと、これが日本の使用環境には合っていない可能性が高いのである。まずJIS方式では左側のボルトナットは正ネジではなく、逆ネジだったのだが、ISO方式は左右どちらも正ネジだ。
どうしてJISでは逆ネジだったのかというと、日本は左側通行で路肩に向かって傾斜がついている。そのため左側の車輪に荷重がかかりやすく、左折時には小さくまわるため、車輪に捩れる力が大きく働く。車輪の回転方向が半時計方向なので、正ネジでは緩む方向に力がかかってしまうのだ。
右側通行の国ではこうした問題は発生しない。2022年には国交省国交省自動車局整備課がホイール脱落事故の91%がISO方式のホイールボルトナットを採用していることを把握している。
ISOとJISの違いはネジの回転方向だけではない。ホイールとナットの座面形状も違う。JISはホイールの締結部に球状の窪みをつけて、ナットの球面座がそこに食い込むようになっていた。しかしISOは平面座という真っ平なナットで締め付けているだけだ。
どうして増し締めが必要なのか
面座のISO方式のナットは、ホイールをナットの表面で挟み込んでハブと固定しているため、走行中の振動などで馴染みが進むことで締め付けトルクが減少する。これが緩みにつながるのだ。
1本が緩むと周囲のボルトの負担が増えて緩みやすくなり、回転方向や振動、捩れといった外力でホイールボルトに直接力がかかるようになり、ボルトが折損し次々と残るボルトの負担が増えて脱落事故が起こるのだ。
定期的な点検を、それもJIS規格時代よりも増やすことが必要となるが、人手不足の現在はなかなか管理し切れない部分もある。また、増し締めも、きちんと締め付けトルク管理を行なっていなければ返って危険性が高まることもある。オーバートルクで締め過ぎの状態が続けば、やはりボルトが折損することにつながるからだ。
それでもホイール脱落事故は歩行者や周囲の車両乗員の生命を脅かすほど危険なことなので、国交省はこうした事態を重く受け止めて、何らかの追加対策を導入してもらいたいところだ。