ゲノム解読が「ゼロ円」に、生物を扱う産業を一変させるポテンシャル
この中心にあるのがDNAシーケンサーだ。クオンタムバイオは微細電極で電気的にDNAの配列を読み取る。大阪大学の研究成果をもとに起業した。電気式の利点はエピゲノムを安価に読み取れることだ。細胞の中ではメチル化でDNAの働きが調整され、メチル化の異常はがんにつながる。がん研究では細胞の時系列変化を調べるニーズがある。
エピゲノムは一度読んだら終わりにはならない。本蔵は「定期的にエピゲノムを読んで健康をチェックするビジネスが構想されている」と話す。現在の研究用シーケンサーの機能を絞り、小型化・低価格化して「将来はシーケンサーは個人持ちになる」と予測する。クオンタムバイオは1時間で1万円のフルゲノム解読を目指す。
現在は競合から技術者を引き抜き米国で開発を進める。DNA読み取りチップの製造技術は半導体大手と連携し、自社の開発負担を抑えた。一つのチップに数億個のセンサーを集積化させる。21年に研究者にエピゲノムシーケンサーを提供、22年や23年に用途を絞った機体を製品化する。
本蔵は「シーケンサーが1社独占の現状ではコストが下がらない。我々のようなベンチャーの台頭をIT企業は歓迎している」とパートナーシップは順調なようだ。クオンタムバイオがデータのコストを下げ、IT企業はデータの価値を最大化する。価値とコストが逆転した瞬間にゲノム解読ゼロ円の世界が誕生する。(敬称略)
本蔵俊彦社長インタビュー
-起業のきっかけは。
「展示会で阪大川合知二教授と谷口正輝教授らの研究に出会ったことがきっかけだ。当時は産業革新機構のディレクターとしてバイオベンチャーの投資育成に携わっていた。成果をみて、これは面白いと思い、面談を申し込んだ。川合先生たちもベンチャーを作りたいとベンチャーキャピタルなどと話をしていたが、難しいと断られていたところだった。2012年9月に阪大産学連携部門と谷口先生たちと面談して状況を伺った。産革機構としては会社になっていなければ投資はできない。やりとりをする中で私がスタートアップを作ることになった。設立は13年の1月7日。面談から約3カ月で会社が始まった」
-もともと経営者になりたかったのですか。
「簡単に経歴を振り返ると東京大学森下真一教授のもとで助手としてバイオインフォマティクスの研究に携わっていた。助手になった01年にヒトゲノムの解読が宣言された。国際共同プロジェクトと同時に米セレラというベンチャーが解読したことが象徴的だった。セレラ社はショットガンシーケンス法を武器に学術界を上回る速度で解読を進めていった。これを機に私はアカデミアの研究者の立場から、より広い視点でバイオ研究を見るようになった。03年に証券会社に転職し、製薬企業担当のアナリストに混じってバイオベンチャーの銘柄を見るようになった。財務諸表と格闘しながら一つ一つ勉強していった。バイオベンチャーの上場ブームも経験した」
