-米国法人を立ち上げて開発機能を移しました。阪大の研究がいまも続いているのですか。
 「じつは当時のコンセプトはもうない。基礎的な成果は利用しているが、クオンタムバイオとしては阪大の技術だけでは実用化は難しいと判断した。大学では1000回試行錯誤して1回成功すれば論文になるが、企業はユーザーの試行錯誤を支える。100回、1000回と計測しても常に同じ結果にならなければならない。阪大の成果だけでは安定性を確保できなかった。そこでコンセプトを大きく変えた。出資を受けて15年から16年にかけてクオンタムバイオとしての開発体制を整えた。ただ1分子・電気計測のコンセプトは変えていない」

 「米国にはシーケンサーベンチャーをいくつも輩出しているベンチャー支援機関がある。この施設に入居し技術者を引き抜いた。20年以上シーケンサーの開発に携わり、各技術の良しあしに精通しているエンジニアをリーダーに据えている。給与やストックオプション、保険は競合と同等の水準で、通勤は駐車場が変わるだけ。我々の手法で1分子・電気計測のDNAシーケンサーが実現できれば社会へのインパクトは大きい。そこに賭けないかと口説いた。このエンジニアのもとでなら勉強になる、人脈を作れると優秀な若手が集まってくる。ベンチャーは成功も失敗もあるが、若手にとっては成長の機会になる」

 「米国法人を設けたことで、半導体大手との提携も進んだ。DNAを読み取るチップを工場で製造している。カリフォルニア大学デービス校やスタンフォードとも共同研究を進めている。他のシーケンサーメーカーとも議論するが、ワン・フィッツ・オール(1企業がすべての用途に対応する)な市場ではない。現在は米イルミナの独り勝ちだが、後発であっても読み取り速度や精度、コストのすべての面で上回る必要はない。自社のユニークな部分を最大限引き出せる用途を見つければ戦える」

-現在の開発状況は。
 「NDAを結んでいる関係でほとんど話せることはないが、21年にプロトタイプを完成させ、特定の大学研究者に使ってもらう。この段階では我々の計測コンセプトを形にして、適した用途を探る。研究者からのフィードバックを受けて22年や23年に機能を絞った製品を出す計画だ。我々の手法はメチル化などのDNAへの化学修飾情報(エピゲノム)が読める。DNAとRNA、そのエピゲノムまで読めるシーケンサーは存在していない。エピゲノムは遺伝情報の発現をコントロールしており、メチル化の異常はがんにつながる。研究にも産業にもインパクトがある」