さよなら「Hey Siri」よろしく「通知」! watchOS 5で激変するApple Watch 6つの習慣

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WWDC2018で発表されたなかで何が一番印象的だったかーー。僕はこれを選ぼう。「watchOS 5」がとにかくすごい。

Apple Watchに親しむひとりのユーザーとして「Apple Watchをどう活用したらさらに便利になるだろうか」なんて思い巡らすこともある。でも今回のアップデートはそんな想像を軽く超えてきた。

本記事では、Apple Watchの基本とともに、秋に控えるこのアップデートの概要について、6つのポイントをおさらいしよう。そして、同時にそれぞれの項目について何が魅力的に感じたのか、筆者のインプレッションを伝えたいと思う。

1)アクティビティの成果を1週間単位で競い合える

Apple Watchで健康的な運動習慣を実現しようとする際には、ふたつのアプリがキーとなる。「アクティビティ」と「ワークアウト」だ。まず、アクティビティについて紹介しよう。

アクティビティでは、3つのリングが表示される。外側から赤、緑、青の3色あり、それぞれ、「消費カロリー(ムーブ)」「運動時間(エクササイズ)」「立ち上がる頻度(スタンド)」を表している。そして、この中で自由に目標値を調整できるのが、赤の消費カロリーを表すリングなのだ。

このムーブという指標は、その日の運動量を把握するとともに、モチベーションを維持するためにも利用される。その上で、人と競い合う、という発想が出てくるのは自然な流れだ。従来も「共有」というタブで、登録した友人の運動量を把握できた。ただ、その比較は1日単位であり、「今日は友人がどのくらい運動しているのか」「誰が目標までの達成度が高いか」などという情報を可視化できるに留まっていた。

watchOS 5で登場する「競争」という機能は、この「共有」機能の一部を強化したものだ。具体的には、友人と1週間単位で運動量を競い合うものになる。

ちなみに、ここで競い合うのは、ムーブの目標達成率を基にしたポイントだ。つまり、純粋に運動時間や強度を比較するわけではなく、「自身の定めた目標をどれだけ忠実にこなせたか」が評価基準になる。運動習慣に差がある友人や家族同士でも、無理なく、ハンデなく、楽しみながらモチベーションを維持できるわけだ。

例えば、運動好きなAさんが、普段運動しないBさんに「競争」を挑む。すると、Bさんは「いや、お前とやっても勝てないからいいよ」と断るだろう。そんなとき、Aさんはこう言えばいい。「大丈夫、君はゴールを下げてやればいい」と。対等な勝負ができるというルールを教えてあげればいいのだ。これは健康を目的とした機能であり、「根性論」的な機能ではない。

とはいえ、競争的な要素もしっかりある。順位が変わった時点で通知が来る。その時点で「あ、抜かれた」と分かる。1週間が終了した時点で、勝者にはアプリ内に記録される「トロフィー」が贈られる。

 

2)本格的なマラソンのトレーニングもできるように

続いて、「ワークアウト」について。このアプリは、前述のアクティビティとは使い方が少し異なる。アクティビティは、日常の全ての動作からカロリーを測定する機能だった。もちろん、歩く、走る、階段を登るといった動作もこれに含まれる。

一方、ワークアウトは「いざ、運動しよう!」と能動的に運動をする際に使用する機能だ。例えば、朝3kmのジョギングをしようとする際には、「ワークアウト」アプリで「ランニング」を計測することになる。

ワークアウトアプリを起動し、「ランニング」や「ウォーキング」などの種目を選ぶ。すると測定が始まるので、その状態で走ったり、歩いたりしていく。これで走った距離や時間、消費カロリーなどが記録される。もちろん、ここで消費したカロリーの量や運動時間などは、アクティビティアプリにも共有されることになる。

watchOS 5では、このワークアウトに関して3つのアップデートが施される。ひとつ目は、新たな測定種目として「ヨガ」と「ハイキング」が追加されること。ふたつ目は、走り出しと終了時の記録忘れを予防する「自動ワークアウト検出」機能が使えるようになること。3つ目は、測定項目がより細かくなることだ。

なお、3つ目のアップデートをまとめると下記のようになる。

1分間あたりのステップ数が表示できるようになる屋外ランニング時に、目標ペースにより遅いか速いかがアラームで通知される現在のペース、平均ペースに加えて、直前の走行ペースが表示される

これらは、マラソンの練習などを行ううえで非常に役立つはずだ。記録を狙っていく層についても、しっかりとカバーできるようになるだろう。

 

3)ジョギングしながら英会話の練習とかできるかも

外出時にApple Watch単体で音楽を聴くためには、「AirPods」のようなワイヤレスイヤホンを使う必要がある。ウォッチ本体に音源を同期する方法もあるが、Cellular+ GPSモデルでは、LTEネットワークを使用してApple Musicのストリーミング再生が行える。ここまでが既存の情報だ。

watchOS 5では、さらに「Podcast」アプリのストリーミング再生もサポートする。ポッドキャストのエピソードは自動的に同期され、ほかのデバイスで聴き終えた場合なども、最新のエピソードにリフレッシュされるという。

例えば、朝のジョギングをしながらPodcastで英会話のリスニングを行う。こんな使い方がイメージできる。

 

4)より手軽なコミュニケーション手段が登場

従来、Apple Watchで能動的にコミュニケーションを取る手段には、「電話」と「SMS」があった。通話はウォッチを手首につけた状態で利用でき、本体のスピーカーから通話相手の声が出る仕組み。SMSは定型文を選択したり、音声入力でテキストを送信することが可能だ。

そのほか「LINE」や「Facebook Messanger」などのサードパーティ製アプリでは、未読のメッセージを確認したり、スタンプで受動的なリアクションを取ったりできる。これだけでも、さほど不自由はない。

しかし、watchOS 5では、新たに「トランシーバー」というアプリが登場する。その名の通り、画面に表示されるボタンを押してからしゃべった言葉を、ボイスメッセージとして送信可能。「トランシーバー」という名前こそついているものの、音声データはモバイルネットワーク上でやり取りされるので、ノイズは発生しない。

一方、受信側としては、急に腕時計から声が聞こえだしたら困るわけだが、ここを解消する設定ももちろんある。同アプリの画面を上から下にスワイプすると、受信可能かどうかを選択するスイッチが現れる。ここをオフを選択しておくことで、相手からの急な連絡を防げる。

アジア圏では、スマホのコミュニケーションアプリでもボイスメッセージが頻繁に使われている印象がある(文字の変換が面倒なのかもしれない)。トランシーバー機能は、こういった文化圏で非常にウケるのではないだろうか。もちろん、日本でもアウトドアシーンや、日常のちょっとした場面で、トランシーバー機能が大活躍しそうだ。

例えば、2階で洗濯ものを干しながら、「お昼のドラマ録画しておいて」なんて、1階にいるパートナーへ連絡する。しばらくすると「了解」と返事が来るなんてシーンが容易に想像できる。わざわざ電話をかける場面じゃない。けれど、トランシーバーなら気軽に使えそうだ。

 

5)さよなら「Hey Siri」

Siriに関するアップデートにも期待が高まる。これはApple Watchだけに限ったことだが、watchOS 5では、Siriを使う際に以前のように「Hey Siri」と声をかけなくてよくなる。なぜなら、腕を持ち上げて口元に寄せた時点でSiriが起動するから。

従来もデジタルクラウンを長押しすることで、Siriを起動させられたが、それ以上に便利だ。筆者個人は、おそらくSiriを使う頻度が倍増すると思う。

また、Siriの文字盤に関してもアップデートが予定されている。そもそもSiriの文字盤にはさまざまなカードが並び、デジタルクラウンを回すことで、それをめくって確認できるデザインになっている。カレンダーに記入された情報をベースに、当日の気温や、日の入りなどの時間、「呼吸」「アクティビティ」のレコメンドなどが時系列に表示される。

watchOS 5では、こうしたデザインはそのままに、表示されるショートカットが増える。例えば、応援しているスポーツチームの試合結果を表示させたり、位置情報に基づいて通勤時間を表示させたりすることも可能だ。iPhoneで作ったSiriのショートカットも表示される。また、サードパーティ製のアプリを操作するコンテンツも使えるようになる。何が表示されるかは、ユーザーの行動傾向を蓄積して、動的に変化していく。

きっと、毎朝「Nike+ Run Club」アプリを使ってジョギングしていると、朝にランニングを開始できるようなカードが表示されるようになるのだろう。どういったアプリが対象になるのか、リリース後にじっくりと検証してみたい。

 

6)通知

そして、おそらく将来的に最も重要になるのが「インタラクティブな通知」だ

おそらく半分以上の読者が「ぽかーん」となっていることだろう。ここでいう「インタラクティブ」は、“対話のようなスタイルで操作できる”という意味だと思っておけばいい。簡単に言えば、通知に「はい/いいえ」と書いてあって、どちらかすぐに操作できるというイメージ。従来は通知をタップ→Apple Watchでアプリが起動→アプリ画面を操作、という手順だった。しかし、これからは通知で直接操作できるようになり、アプリが起動する待ち時間や手間がなくなっていくに違いない。

例えば、「オンラインチェックインできるけど、ウォレットアプリに搭乗券追加する?」という内容が表示されて「はい/いいえ」を選ぶ(正確な表示は少し違うけど)。ほかにも「Yelpアプリで予約した時間と席、変更する?」って出てきて変更できる。キーノートではこのように解説された。

こうした通知を出すためには、Apple Watch側に専用のアプリ(例えばYelpのwatchOS版)のインストールが必要なのかなと思った。しかし、どうやらそうではないらしい。iPhoneアプリの通知がApple Watchに転送された場合にも、こうした通知が表示できるという。

もしこれが多くのアプリで対応するなら、アプリ側の戦略も変わるだろう。今後は”より良い通知”で素早く操作できる工夫が、重要になってくると思われる。

Apple Watchのアプリを開発するのは大変だけど、通知だけ整えるならやろうじゃないか」。そんなことを考えるサービスが増えたとしても、ユーザーメリットは大きい。

ちなみに、SMSでURLが送られてきたときには、それをタップして直接ウェブサイトを開けるようにもなる。こちらも、ユーザーエクスペリエンスを向上させるだろう。

*  *  *

「トランシーバー」のキャッチーさに目が行きがちだが、watchOS 5の真髄は「Siri」と「通知」にあると思う。OSが新たにデザインされることで、一気に便利になる瞬間は、いつ見ても本当にワクワクするものだ。どちらも早く正式版を使い込んでみたい。

なお、watchOS 5が対応するのは、Apple Watch Series 1/2/3となる。それより前の機種では利用できないので留意しよう。

>> Apple「Apple Watch」

>> Apple「watchOS 5」

 

(取材・文/井上 晃)

いのうえあきら/ライター

スマートフォン関連の記事を中心に、スマートウォッチ、ウエアラブルデバイス、ロボットなど、多岐にわたる記事を雑誌やWebメディアへ寄稿。雑誌・ムックの編集にも携わる。モットーは「実際に触った・見た人だけが分かる情報を伝える」こと。編集プロダクション「ゴーズ」所属。