こちらは、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した渦巻銀河「NGC 4654」。おとめ座の方向、地球から約7200万光年先にあります。


【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が観測した渦巻銀河「NGC 4654」(Credit: ESA/Hubble & NASA, D. Thilker, J. Lee and the PHANGS-HST Team)】

渦巻腕(渦状腕)に囲まれた中心部分に棒状構造がある「棒渦巻銀河」と、棒状構造がない「渦巻銀河」の中間的な性質を持つことから、「中間渦巻銀河(Intermediate Spiral Galaxy)」に分類されています。


輝く中心部の周囲には青い星団や暗い塵(ダスト)の帯が入り混じり、渦巻腕のあちこちにピンク色の斑点が散りばめられている様子が印象的です。


ただ、渦巻腕がある円盤部の全体的な形は大きくゆがんでいます。画像の左下に向かって伸びるはっきりとした腕がある一方で、右上方向には対応する腕が見当たらず、星もまばらです。


銀河団の向かい風「ラム圧」と過去の相互作用

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)によると、NGC 4654のいびつな形は、この銀河も含めて1000以上の銀河が属する「おとめ座銀河団」の環境に深く関係しています。


おとめ座銀河団の内部を高速で移動しているNGC 4654は、銀河団ガス(銀河団に属する銀河と銀河の間を満たす高温で希薄なガス)へ突っ込む状態になっており、ガスから受けるラム圧(動圧)によって進行方向の縁が圧縮され、進行方向とは逆の方向へとガスが引き剥がされているといいます。


また、ガスだけでなく星の分布までも偏っている理由としては、現在観測されている状態から約5億年前に、おとめ座銀河団の別の銀河「NGC 4639」と接近したことが挙げられています。接近時の重力を介した相互作用によって片側のガスが大量に引き剥がされてしまい、その領域での星形成活動が制限されたことで、現在観測されているような非対称の姿になったと考えられています。


逆風に負けない力強き「星のゆりかご」

興味深いのは、ラム圧という“強風”にさらされながらも、NGC 4654が力強い“生命力”に満ちている点です。


ESAによると、ラム圧を受けて星の材料となる低温のガスを剥ぎ取られた銀河は一般的に、新たな星を生み出す星形成活動が大幅に低下してしまいます。ところが、NGC 4654は同じくらいの規模がある渦巻銀河と同等のペース(1年あたり太陽約2個分の質量)で、新たな星を生み出しているといいます。


画像を彩るピンク色の領域は、若い大質量星から放たれた紫外線によって電離した水素が赤い光を放つ電離水素領域(HII領域)であり、“星のゆりかご”とも呼ばれる星形成領域の場所を示しています。銀河全体に分布する電離水素領域からも、NGC 4654が活発に星を育む様子が伝わってくるようです。


ハッブル宇宙望遠鏡の観測データは、銀河内部のガスがどのように移動し、いつどこで星が誕生するのかを調査するために用いられています。過酷な環境下にあるNGC 4654の観測は、周囲の影響を受ける銀河がどのように進化していくのかをより深く理解する上で、重要な手がかりをもたらしてくれることでしょう。


冒頭の画像はESA/Hubbleから2026年7月24日付で公開されています。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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