マンション価格高騰で…とうとう「50年住宅ローン」まで出現の世も末(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】
「新・家の履歴書」という連載が週刊文春にある。
著名人が自分の住まいの変遷について話しているのだが、これが面白い。家に歴史ありだ。
私の住んでいる荒屋(あばらや)にも歴史というほどではないが、私の家族の人生が染み付いている。
敗戦直後、新聞社に勤めていた父親が、義父の勧めで、金の工面に苦労して土地を買ったと聞いた。子どもの頃は玄関にたらいを出して湯を張り、風呂代わりにした。
都心からそう遠くない文字通り「ネコの額」だが、縁側から箱庭を眺めると、そこだけ深山幽谷の趣があるのが気に入っている。
私が大学に入る頃に建て直したが、庭はそのまま残した。
結婚して一度家を出た。みそ汁の冷めない距離の4階建て賃貸マンションの4階。地方から出てきた同期が次々都心にマンションを買い始めた。2LDKが1800万円前後だったか。20年ローンが多かった。
3人目の子どもが生まれ、母親のたっての頼みもあり、実家へ戻った。2階だけ1000万円ほどかけて改築した。その息子も昨年、不惑を迎えた。
世は高度成長からバブル期へ突入。両親が新聞に出ている路線価を見ながら、ここを売れば何千万円になると喜んでいたのを覚えている。
相場師の知り合いがいた。今日は何百万儲かったといって、寿司や鰻を大盤振る舞いしてくれた。友人が、親や親戚から借り集めた金を相場師に預けた。その数週間後にバブルがはじけた。しばらくして会った相場師は、莫大な負債を抱え、脳梗塞を発症して不自由な体になっていた。
両親が残し、私が継いだ家も還暦を超えた。だいぶ前、知り合いの建築士に、この家は震度4で崩壊すると太鼓判を押された。だが、東日本大震災の時、震度4強の揺れに“奇跡的”に耐え抜いた。
外から見れば“廃屋”にしか見えない家と一緒に、夫婦共々老いさらばえていくしかないと、心に決めている。周囲の家々の人たちには申し訳ないのだが。
ところで、東京23区の新築マンションの平均価格が1億6000万円になったという。購買力のあるパワーカップルといえども容易に手を出せなくなったため、週刊新潮(7月9日号)は「50年住宅ローン」が出現したと報じている。今のところメガバンクは扱っていないが、地銀やネット銀行が始めたという。30歳で借りて完済するのが80歳。たしかに気が遠くなる話である。
新潮の記事に登場する小林さん(仮名)は世帯収入と児童手当などを含めて月63万円ほどになる4人家族。50年ローンを組んだ考えを聞くと、こう答えたという。月々の返済額は約11万円。幾通りものシミュレーションをして、「借入額は約5000万円。50年ローンの場合、金利が35年ローンよりも0.15%ほど上乗せになることを加味して、年利1.15%で計算します。まず、35年の場合は月々の返済額は約14万円になる。(中略)50年の場合は約11万円ですから、差額は3万円です」。総支払いでは700万円多くなるが、差額の毎月3万円をインデックス投資で運用すれば、年利5%で約2200万円になるから、1500万円も得するというのである。私には机上の空論としか思えない。
金利の上昇。円高。投資が失敗する確率。バブル崩壊も、2008年のリーマン・ショックも不動産や住宅価格の下落が引き金になった。
今の日本のどこを見ても、将来に希望の持てるものなど皆無である。
新潮には不動産経済研究所の上席主任研究員のこんなコメントがある。
「たった数年先の金利の見通しを立てることすら困難な時代に、50年先までの責任を負うのは、ギャンブルに近い側面があります」
人生において、最も切実・堅実なはずのマイホーム取得が、丁半ばくちの類いになるとは……世も末ではないか。
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
