【真壁 昭夫】「激安製品の大量輸出はもうやめてくれ」中国に対する各国の本音…”補助金ジャブジャブの中国製品”の氾濫が世界の安全保障を脅かす
「チャイナショック2.0」への懸念
昨年後半以降、中国の輸出増加が一段と顕著になっている。今年3月はイラン戦争の影響で一時的に増加ペースは鈍化したものの、4月以降盛り返し、増加率は前年同月比10%を上回っている。
輸出品目別に見ると、パソコンやスマートフォン、EVなどの伸びが鮮明だ。地域別に見ると、トランプ関税の反動で米国向けも伸び、アジア諸国や日本、欧州向けの輸出も増加している。
中国の輸出増加の一因に、国内の過剰な生産能力がある。政府の産業補助金などの供与によって、中国では鉄鋼製品などの生産能力が国内需要を上回った。それに加え、人工知能(AI)など先端分野での基礎研究の蓄積も、中国企業の競争力の向上につながった。
中国の輸出急増に対して、主要先進国では“チャイナショック2.0”との懸念が急上昇している。
チャイナショック1.0は、2000年代の初頭、中国が工業化を推進し、アパレルや日用品など安価なモノが世界にあふれ出た時期をさす。当時、わが国では、中国がデフレを輸出しているとの見方が多かった。現在、欧州などでEVやスマホなどの分野で中国企業のシェアが急上昇し、産業競争力が削がれるとの危機感は高まっている。
ハイブリッド車などシェアを維持する分野は残るものの、消費財から耐久財、さらには産業分野まで、わが国企業のシェアの低下は深刻だ。しかし、将来を悲観してばかりでは仕方がない。半導体関連の部材や電子部品など、超高純度の素材の製造技術において、日本企業が比較優位性を持つ分野はある。
中国の輸出攻勢に懸念を高める国と連携し、新たな対中包囲網の形成を目指す必要性は高まるだろう。環太平洋連携協定(TPP)への加盟方針を固めた韓国などのアジア諸国、欧州や南米諸国との経済連携は一段と重要になるはずだ。
低迷する中国国内の需要
現在、中国国内の経済環境は厳しい状況にある。根っこにあるのは、不動産バブル崩壊による国内の需要不足だ。
それは、GDPデフレーターの推移から確認できる。GDPデフレーターとは、名目GDP(金額ベース)を、実質GDP(物価変動を除いたGDP)に変換する際、割り引く数値をいう。GDPの計算上、輸入は輸出から控除して純輸出を求める。GDPデフレーターは、国内要因によって生み出された物価変動の指標と解釈することができる。
今年1〜3月期まで12 四半期連続で、中国のGDPデフレーターはマイナスだった。不動産バブルの崩壊で、中国国内の需要は低下したと考えられる。また、過去の投資累積で供給能力が増加し、企業は値下げで需要を取り込もうとした。
中国経済全体のダイナミズムの低下は、他の経済統計からも確認できる。ここ6ヵ月間、小売売上高は前年同月比1%前後と低水準で推移している。上海など大都市では持ち直しの兆しも見えているようだが、住宅価格も全体として下落基調を脱していない。
年初以降、新車販売台数も伸び悩んだ。企業の設備投資など固定資産投資も停滞気味だ。労働市場では、学生を除く16〜24歳の若年層失業率が16%程度と高止まりした(全体の失業率は5%前後)。コスト削減のためにAIで労働力を置き換える企業は急増し、中国の2億3600万人が仕事を失うとの推計もある。
中国政府は、自動車業界を筆頭に、国内での過当競争を避けるよう企業に要請している。また、AIによる業務代替から雇用を守るよう通達も出した。
表向きアリババやテンセントなどは、その意向に従う方針を示しているようだが、中国経済の現状を踏まえると雇用の保護は企業のコスト増加につながるだろう。雇用・所得環境の不安感は高まりやすく、消費者の節約志向は上昇しているはずだ。
海外になだれ込む安価な中国製品
国内で需要が見つからないモノは、海外に流出することになる。
特に、今年4〜5月の輸出の伸びは、多くの経済の専門家にとって驚きだった。需要の弱さに加え、中国政府(中央と地方)の産業補助金政策の影響は大きい。経済協力開発機構(OECD)によると、中国政府が国内企業に支給した産業補助金の規模(売上高と補助金の比率)は、海外企業の3〜8倍に達したようだ。それに加え中国政府は、税還付によって間接的に企業の研究開発などを支援しているともいわれている。
中国では、政府の補助金の受給を目当てにEV、半導体、AIデータセンター建設などの分野で企業の設立が相次いだ。その結果、鉄鋼や造船などの在来分野から、太陽光パネル、リチウムイオン電池、エアコン、EV、建機、さらにはパワー半導体をはじめとする汎用半導体に至るまで、幅広い製品で生産能力は過剰になっているようだ。スマホに関しても、潜在的な生産能力は過剰になっているとみられる。
過剰生産能力の積み上がりと、産業補助金による安価な販売価格の実現により、中国企業の輸出は増えた。また、中国の企業経営者の気質も、輸出競争力の上昇、世界シェアの拡大に寄与したとみられる。先端産業を育成し、覇権強化を目指す政府の政策指針もあり、中国企業はAIなど成長期待が高い分野にヒト、モノ、カネを集中的に投下している。
その結果、EV、車載用バッテリー、スマホ、半導体などの分野で中国企業の世界シェアは上昇した。それを支える基礎研究の振興も活発だ。
2021年から2025年の間、AIをはじめ74の先端分野の研究論文引用件数で、中国は世界の46.5%のシェアを押さえたとの推計もある。それは米国の11.2%を凌駕した。3位はインドの5.1%だった。わが国はトップ10にランクインすらできなかった。
そうした中、主要先進国の一部では、新たなチャイナショックの警戒感が高まっている。EV、汎用型の半導体、太陽光パネルなど過剰生産能力を背景に中国の安価な製品が世界に流出し、経済、さらには安全保障体制が脅かされるとの懸念だ。
すでにドイツでは、自動車大手のフォルクスワーゲンが中国勢に飲み込まれつつあるようにもみえる。
つづく記事〈中国の次なるターゲットは「世界の原子力発電所」か…新興国向けの輸出拡大のさきに待ち受ける「エネルギーの中国依存」〉で、詳しく解説する。
【著者】真壁昭夫 1953年 神奈川県生まれ。76年一橋大学商学部卒業後、 第一勧業銀行に入行。ロンドン大学経営学部大学院、メリル・リンチ社への出向を経て、みずほ総研主席研究員。現在、多摩大学特別招聘教授。行動経済学会常任理事。FP協会評議委員。著書に『日本がギリシャになる日』、『行動経済学入門』など
【つづきを読む】中国の次なるターゲットは「世界の原子力発電所」か…新興国向けの輸出拡大のさきに待ち受ける「エネルギーの中国依存」

