「AI任せ」の会社が破綻する…Uberも悲鳴を上げた「AIコスト大爆発」の序章

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2026年6月10日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた1本のニュースが、大きな注目を集めた。ChatGPTでお馴染みのOpenAIが、AIモデルの利用料金の「劇的な値下げ」を検討しているというのである。しかも、ライバルのAnthropicが値下げに動くことを見越した、先回りの検討だという。

ただ、最近のAI界隈における「ある変化」を認識していた人々にとって、OpenAIとAnthropicの値下げ競争は、ある意味で当然の帰結だった。実は最近、米国企業の間で、膨れ上がる「AIの請求書」にどう歯止めをかけるかという点が、大きな課題として急速に浮上してきている。ユーザーはコストに悲鳴を上げ、提供側はそれに応えようと値下げに走る、という構図だ。

ではこれで一件落着と言えるかというと、事態はそう簡単ではない。まずはいま起きている状況を整理してみよう。

470万人が直面した「定額制の終わり」

異変の予兆は、6月1日に現れていた。この日、Microsoft傘下のGitHubは、AIコーディング支援ツール「GitHub Copilot」(AIがプログラミングのサポートをしてくれる人気のツールだ)の全プランを定額制から従量課金制へ移行させた。同社の公式ブログによれば、今後の料金は、AIとのやり取りで消費されるトークン(AIが処理するテキストの単位。入力・出力・キャッシュのそれぞれが計測される)の量に基づいて計算されるようになる。月額料金は「AIクレジット」という持ち点に置き換わり、1クレジット=0.01ドルのレートでトークン消費に応じて減っていく。使い残したクレジットは翌月に繰り越せない。

この話、携帯電話の「ギガ」に例えると分かりやすいかもしれない。携帯電話のデータ利用プランから「定額無制限」が無くなり、すべて「毎月〜GBまで」というプランになって、使い果たしたら追加購入しなければならない。しかも余った分は繰り越せないというわけだ。

Copilotの有料契約者は470万人に上る。月額料金さえ払えば事実上「使い放題」だったツールが、使った分だけ請求される仕組みに変わったのだから、反発は必至だった。米メディアTech Timesによれば、AIに作業を任せきりにするエージェント的な使い方をしてきた開発者の中には、月々の支払いが従来の10倍から50倍に膨らむと見積もる者もいる。GitHubが移行を告知した公式コミュニティのスレッドには、400件を超えるコメントと900近い反対票が付いた。なお、入力中のコードの続きを提案する「コード補完」機能は引き続き無制限で使える。裏を返せば、使い放題の名残はもはやその程度の軽い機能にしか残されていない、ということでもある。

ユーザー企業の側でも、AIコストの引き締めが始まっている。象徴的なのが配車サービス大手Uberだ。米テクノロジーニュースサイトのTechCrunchによれば、同社は6月2日までに、AnthropicのClaude CodeやCursorといったエージェント型AIコーディングツールの利用について、従業員1人あたり月1500ドルの上限を設けた。発端は4月、同社のプラビーン・ネッパリ・ナガCTO(最高技術責任者)が米メディアThe Informationに明かした事実である。Uberは2026年の年間AI予算を、わずか4か月で使い切ってしまった。皮肉なことに同社は、チームごとのAIツール利用量を社内ランキング化して競わせ、積極利用を奨励していた。ナガはこの事態を「白紙からやり直し」と表現している。

そしてMicrosoft自身も動いた。米メディアThe Vergeが5月に報じたところによると、同社はWindowsやMicrosoft 365、Teamsなどを担うExperiences + Devices部門で社内のClaude Codeライセンスの解約を始め、6月末までに自社のGitHub Copilot CLIへ移行するよう指示した。ウォーレンは「Claude Codeは人気のツールとなったが、同時にMicrosoftの新しいGitHub Copilot CLIの足元を脅かしてもいた」と指摘。一方で、6月30日はMicrosoftの会計年度末でもあり、コスト削減の思惑も働いたとされる。

エージェントがトークンを食い尽くす

つい最近まで、生成AI系サービスの料金といえば「月額20ドルで使い放題」のような定額制が相場だった。2022年末のChatGPT公開以来、生成AIが一気に普及してきたのも、この定額モデルが一因となっている。それがなぜいま、従量課金制への移行が始まっているのだろうか。

鍵を握るのは、エージェント型AI(人間が逐一指示しなくても、目標に向かって複数の作業を連続的にこなすAI)の普及である。従来のチャット型AIでは、人間が質問し、AIが答えるという一往復ごとにしかトークンは消費されなかった。ところがエージェント型AIは、ひとつの指示を受けると、自らファイルを読み、コードを書き、テストを実行し、失敗すればやり直す。その間、トークンが立て続けに消費される。コストが人間の作業時間ではなく、AIの稼働量に比例して積み上がる構造だ。

Uberエンジニアたちが予算を溶かしたのも、Microsoft社内でClaude Codeが急速に広まったのも、この構造による。ツールが優秀であるほど任される仕事が増え、任される仕事が増えるほどトークン消費は雪だるま式に膨らむ。ジャーナリストのエド・ジトロンは4月、入手したMicrosoftの内部文書をもとに、GitHub Copilotの週あたり運用コストが2026年1月から倍近くに増えていたと自身のニュースレターで報じた。定額制のままでは、ユーザーが使えば使うほど提供側の逆ざやが膨らんでいく。GitHubが公式ブログで従量課金化を「持続可能なCopilotのビジネスと体験に向けた重要な一歩」と説明したのは、その裏返しと読むのが整合的だ。

実は、定額制の限界はもっと前から露呈していた。Anthropicは2025年8月、個人向けの定額プランに週単位の利用上限を導入している。同社が理由として挙げたのは、Claude Codeを24時間365日動かし続けたり、アカウントを共有・転売したりする一部のヘビーユーザーの存在だった。月額200ドルの上位プランで、数万ドル相当の計算資源を消費する利用者まで現れていたのである。提供側はまず上限で抑え込み、それでも追いつかず、ついに課金体系そのものを使用量に連動させた。この2年間の流れは、このように整理できる。

一方でこの「トークン消費の急上昇」は、AI企業に空前の収益をもたらしてもいる。米CNBCによれば、Claude Codeを擁するAnthropicの収益ランレート(直近の売上を年率換算した値)は470億ドルに達し、前年の年間売上100億ドルから急拡大した。同社は5月末、650億ドルの資金調達ラウンドを企業評価額9650億ドルでクローズし、3月末時点で8520億ドルと評価されていたOpenAIを初めて上回った。後発だったはずのAnthropicがOpenAIを抜く。この逆転劇の原動力こそ、エージェント型コーディングに対する需要だった。

つまりいまAI業界では、ユーザー企業の「想定外のコスト膨張」と、AI企業の「想定外の収益急拡大」が、同じ現象の表と裏として進行している。そしてこの状況が、業界を次の段階へ押し出すことになる――値下げ戦争である。

【後編を読む】社員にAIを自由に使わせた結果…「成果なきAI浪費」が招く「コスト爆発」の末路

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