もともとペダルの段差はミスを防ぐためだった

 アクセルとブレーキのペダル踏み間違いは、自動車業界にとどまらず社会問題となっている。そもそも右足で踏み込むという同じような動作で、「進む」と「止まる」という真逆な操作をするという操作系を採用したことが問題の根源という見方もあるが、とくにブレーキについてはトラブル発生時に強い力で操作する必要がある。そのためには足で踏むという操作系を選ぶのは妥当といえるだろう。

 さて、ペダル踏み間違いの原因として「アクセルとブレーキペダルの段差があることが理由になっているのでは」という意見もあるという。「ブレーキを踏もうと慌てて右足で操作しようとしたときに、より踏みやすいアクセルを踏んでしまうのでは?」という指摘もあるという。

 もともとは踏み間違いをしないように段差をつけたという面もあるので、こうした指摘は無理筋にも思えるが、ではアクセルとブレーキペダルの段差がある理由というのは踏み間違い防止のためだけなのだろうか。

 冒頭で、トラブル発生時にブレーキペダルを強く踏む必要があると書いたが、現在の市販車においてほとんどのクルマが倍力装置付きのブレーキを採用している。そのためエンジンを切った状態では、まったくブレーキが効かないと感じるだろうし、クルマを停めるにはかなり奥まで踏み込む必要がある。通常で感じているブレーキペダルの倍近いストロークが必要になるのだ。つまり、ほとんど床にペダルがくっついてしまうくらいの力で踏み込む必要がある。

ブレーキペダルの床付きは絶対にNG!

 このあたり、完全にバイワイヤになってくると事情は変わってくるが、エンストしたときでもクルマを停止させるだけの制動力を発生させなくてはいけない現在の仕様においては、ブレーキペダルのストロークは長くなりがちであり、目一杯踏み込んだ状態でもペダルが床付きしないこと(床付きすると、それ以上液圧が上がらなくなる)を考慮するとアクセルと段差が生まれるのは致し方ないともいえる。

 また、かつては市販スポーツカーにおいて「ヒール・アンド・トゥ」をしやすいように、設計段階でペダルの段差を調整しているという話もあった。ヒール・アンド・トゥとはブレーキを踏み込んだ状態でアクセルペダルを操作して、エンジン回転を合わせてスムースにシフトダウンさせるというテクニックだ。

 右足でブレーキペダルを踏みながら、かかとのあたりでアクセルペダルを操作するには、ブレーキペダルを踏み込んだ状態でブレーキとアクセルのペダル高さが合っていると操作しやすいといえる。つまりブレーキペダルを手前に持ってくるほうがスポーツドライビングを楽しみやすいのだ。

 とはいえ、昨今のクルマにおけるペダルレイアウトを見ると、明確にアクセルとブレーキに段差を設けている傾向が強い。あくまでも踏み間違いを防ぐための段差であると理解するのが妥当といえる。

 かつてはかかとを床につけて、足首を動かして左右のペダルを選択するという操作をするドライバーが多かったが、現在はブレーキを踏むときにはしっかりと意識して膝から動かすドライビングがスタンダードとなりつつあるということだろう。