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アメリカのオクラホマ州の地方裁判所は2019年8月26日、ケシから採取される麻薬入りの鎮痛剤オピオイドの乱用問題をめぐる裁判の中で、製薬会社のジョンソン・エンド・ジョンソンに対し、5億7200万ドル(約606億円)の支払い命令を言い渡しました。

Opioid crisis: Johnson & Johnson hit by landmark ruling - BBC News

https://www.bbc.com/news/business-49452373

Johnson & Johnson Ordered to Pay $572 Million in Landmark Opioid Trial - The New York Times

https://www.nytimes.com/2019/08/26/health/oklahoma-opioids-johnson-and-johnson.html

Johnson & Johnson to pay $572m for fueling Oklahoma opioid crisis, judge rules | US news | The Guardian

https://www.theguardian.com/us-news/2019/aug/26/johnson-and-johnson-opioid-crisis-ruling-responsibility-oklahoma-latest

鎮痛剤のオピオイドはケシから採取されるアルカロイドなどから作られる鎮痛剤で、鎮痛や陶酔といった作用を持つことから麻薬性鎮痛薬とも呼ばれます。従来品に比べ依存性が少ないとの触れ込みで急速に普及し、医療の現場では必要不可欠な薬になったオピオイド系鎮痛剤ですが、その後乱用や過剰摂取の問題が表面化。アメリカ疾病管理予防センターの発表では、オピオイドの過剰摂取が関連しているとみられる死者は40万人にのぼると見積もられており、オクラホマ州だけでも約6000人がオピオイドの過剰摂取で命を落としています。完全に合法の薬物でありながら、違法薬物よりも多くの死者を生み出していることが大きな社会問題となっていました。

オピオイドの乱用をめぐる問題については、以下の記事に詳しく記載されています。

鎮痛剤「オピオイド」の過剰投与による薬害問題の背景には製薬会社から医師への利益供与があった - GIGAZINE



「オピオイド・クライシス」と呼ばれるようになったこの問題の責任を追及すべく、オクラホマ州の検察は製薬会社3社を相手に訴訟を起こしましたが、イスラエルの製薬会社Teva Pharmaceutical Industriesと、疼痛処理薬が主力の製薬会社Purdue Pharmaの2社は今回の裁判に先駆けて和解に応じました。一方、訴訟の中心となっていたジョンソン・エンド・ジョンソンは和解に応じなかったため、裁判でオピオイド問題にまつわる責任の所在が争われることになりました。

約2000件にも及ぶオピオイド訴訟の最初の判決として注目を集める中、オクラホマ州地裁は「ジョンソン・エンド・ジョンソンは医師を欺き、誤解を招く危険で大規模な宣伝活動を展開し、その結果依存症患者や過剰摂取による死者を指数関数的に増加させた」としてジョンソン・エンド・ジョンソンに対し制裁金として5億7200万ドル(約606億円)の支払いを命じました。

この判決に対し、ジョンソン・エンド・ジョンソン側は即座に控訴する意向を表明。ジョンソン・エンド・ジョンソンの弁護士であるサブリナ・ストロング氏は「判決には欠陥があります。ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売した医薬品は規制当局によって承認されており、オクラホマ州でのどんな死亡事故とも直接的な関わりはありません」との声明を発表しました。また同時に、「我々は薬物乱用にさいなまれている全ての人の苦悩に心を寄せています。しかし、ジョンソン・エンド・ジョンソンはいかなるオピオイド乱用問題も引き起こしていません」ともコメントしています。



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事実上勝訴した形になったオクラホマ州側ですが、今回支払いが命じられた5億7200万ドルという金額は、検察が当初求めていた175億ドル(1兆8500億円)をはるかに下回る額でした。しかし、アメリカの大手新聞社ニューヨーク・タイムズ紙は「今回の判決はジョンソン・エンド・ジョンソンが州の公害法に抵触したという見解が示された判例として重要です」と指摘。州の主任弁護士であるブラッド・ベックワース氏も「ジョンソン・エンド・ジョンソンがオピオイド・クライシスの根本的な原因であることが認められました」と話し、今回に続く約2000件の裁判での勝訴に弾みをつけたいとの考えを示しました。