大学教授「熱中症にもヒートショックにも効く」…"血管を強くする"スーパーで買える果物3種
※本稿は、加藤和則『血管細胞を強くすれば熱中症は予防できる 熱中症やヒートショックに強い身体に変える3つの成分』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■睡眠不足・疲労・飲酒と熱中症の関係
「寝不足が続くと夏バテがひどくなる」「疲れているときは熱中症になりやすい」「飲酒後に倒れやすい」――これらは単なる俗説ではなく、自律神経・炎症反応・脱水という三つの視点から生命科学的に説明できます。
睡眠不足になると、身体を活動方向に動かす交感神経が優位になり続け、体内の代謝が通常より活発になります。つまり、眠れていないというだけで身体は「内側から余分な熱を発生させやすい状態」に置かれてしまうのです。
疲労については、精神的・肉体的を問わず「弱い慢性炎症」が体内で起きている状態と重なることがあります。この弱い炎症が体温のセットポイント(身体が基準とする体温)をわずかに押し上げ、そもそものスタートラインが高い状態から夏の暑さに臨むことになります。その結果として、同じ外気温でも熱中症に至るまでの余裕が少なくなっているのです。
飲酒については、アルコールの利尿作用による脱水がよく知られていますが、さらに深刻な問題があります。アルコールが分解される過程で生じるアセトアルデヒドは血管を拡張させ、熱が体外に逃げやすくなる一方、血圧の急変動を招きます。
■熱中症のなりやすさと個人差・遺伝的要因
熱中症にかかりやすい人、遺伝子的に熱に弱い体質を持っている人が一定数いることが、近年の研究で明らかになっています。そして、熱中症にかかりやすい人・かかりにくい人の違いについても間違いなく個人差があります。もちろん、すべてが遺伝的な要因によるものではありませんが、遺伝子的に熱への耐性が低い人が実際に存在することは確かです。
前述したような生活習慣や環境の差だけでなく、遺伝的な要因も関与していることが明らかになってきているのです。
順天堂大学では、暑さへの強さ・弱さに関連した遺伝子検査のプロジェクトが行われたことがあります。そこで注目されているのが、脂肪酸代謝に関わるCPT2遺伝子です。
このCPT2に変異のある遺伝子を両親から両方受け継いだ場合は熱中症の重症化リスクが高く、片方だけ受け継いだ場合でもリスクは高くなります。ほとんどの人は変異がないわけですが、変異を持っている人は特に暑い環境で気をつけなければなりません。
■人によってミトコンドリアの量は違う
また、個人によって細胞内でエネルギーを生み出すミトコンドリアの量は異なります。ただ厳密にいうと、ミトコンドリアではその量よりも質のほうが重要です。エネルギーをうまく作れるミトコンドリアを持つ人とそうでない人がおり、この違いは遺伝によって左右される部分があるのです。
また、自動車のエンジンが古くなって不完全燃焼すると排気ガスが増えるように、ミトコンドリアがダメージを受けると病気の原因になったり老化を進めたりする活性酸素が爆発的に増えるという悪循環に陥ります。
興味深いことに、ミトコンドリアはすべて母親由来です。ミトコンドリアは精子に含まれず、卵子にのみ含まれているため、私たちのミトコンドリアDNAはすべて母方の系統を受け継いでいます。
長距離走の能力は母系の遺伝が関係しているというのは、このミトコンドリアの質に由来します。競馬の世界でも長距離のレースで母方の血統を重視するのは鉄則とされていますが、それもこの理由によるものです。
■はっさく、シークワーサー、ココナッツ
私たちはハッサクに含まれるオーラプテン、シークワーサーに含まれるタンゲレチン、そしてココナッツに含まれる中鎖脂肪酸の組み合わせが、ミトコンドリアの機能を介し、血管内皮細胞の保護効果を持つのではないかということを明らかにしました。これに関して言えば、前述した体質による個人差は重要な観点です。
人によって体質や気温に対する反応は異なりますし、同じ人でも体調によって変わります。これらの成分を摂取することで症状が少し緩和されるということは、必ずしも身体の弱い人だけが対象ではありません。元気な人にとってもプラスアルファの効果があると考えています。


ところで、ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場であり、神経細胞は特に大量のエネルギーを必要とします。そのミトコンドリアの機能を熱ストレスや酸化ストレスから守る成分が、例えば認知機能の維持などにも有効である可能性は十分に考えられます。
まだ基礎研究の段階ですが、これら柑橘由来の成分が持つ神経細胞の萎縮や障害による神経性疾患に対する効果が期待されています。
すでにオーラプテンを含む柑橘ジュースを長期間飲むことによって、認知機能の維持が証明されており、機能性表示食品として認められています。また、オーラプテンもタンゲレチンも、酸化ストレスや炎症ストレスによる神経変性や機能障害を抑制することが報告されていて、パーキンソン病などの難治性の疾患への応用も考えられるかもしれません。

■アスリートのパフォーマンス向上に3成分を
私たちの研究の射程は、熱中症にとどまりません。

アスリートにとっては、熱中症予防とともに夏場のパフォーマンス維持が課題です。オーラプテンやタンゲレチンが脂肪酸の燃焼効率を上げ、中鎖脂肪酸が即効性のエネルギーを補給するという3成分の組み合わせは、長距離競技の持久力を支える理にかなったアプローチになるでしょう。
さらに、長時間走れば冬でも体温は上がります。箱根駅伝のような冬季競技においても、年間を通じた継続摂取に意義があると考えています。
血管内皮細胞だけでなく、持久力を担う赤筋(遅筋)細胞、肝臓、消化器官の細胞も熱に弱いことがわかっています。「暑い中でも脂肪酸をしっかりエネルギーに変えて動き続けられる」という効果が血管と筋肉と肝臓などの細胞で実証されれば、スポーツのパフォーマンス向上と熱中症予防の両立という、非常に実用的な成果につながる可能性があります。
■熱中症と冬のヒートショックの関連性とは
また、高齢者にとって冬場のヒートショックも深刻な問題です。急激な温度変化によって血圧が激変し、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすヒートショックの死亡者は年間約1万7000人と、交通事故死亡者の6〜7倍にも上ります。
熱中症が高温による血管へのダメージとすれば、ヒートショックは急激な温度変化への血管の対応力の問題です。もしもオーラプテンが血管内皮細胞を丈夫にするのであれば、夏の熱中症だけでなく冬のヒートショックに対しても保護的な効果が期待できるでしょう。


高齢になるほど血管の弾力性は失われ、どちらのリスクも高まります。細胞レベルで血管をケアするという発想は、日本の超高齢社会が抱えるこの二つの課題に同時に応えうるものです。
そのカギとなるのが、ハッサクのオーラプテン、シークワーサーのタンゲレチン、そして中鎖脂肪酸の3成分なのです。それぞれが異なる経路で細胞を守り、組み合わさることで「1+1+1」が「3」を超えるシナジー効果を発揮します。
このように細胞レベルで血管を強くするという発想は、熱中症の季節を越えて、私たちの身体を支える新しい予防の形になるはずです。
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加藤 和則(かとう・かずのり)
東洋大学健康スポーツ科学部 教授
1963年、岩手県奥州市生まれ。東北大学大学院薬学研究科卒、薬学博士。薬剤師、公認スポーツファーマシスト。東洋大学健康スポーツ科学部教授、同大学院研究科長。順天堂大学医学部、UCサンディエゴ医学部、国立がん研究センター、札幌医科大学でがんと免疫に関する基礎と臨床研究に従事し、2011年から東洋大学に着任。東洋大学では、食品中の機能性成分に着目し、熱中症やアスリートコンディショニングに関わる研究を産官学連携で実施。順天堂大学大学院医学研究科客員教授を兼任。
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