幼児に“野球の基本動作”をどう教える? 投げ方、捕り方…説明不要の「猿・カニ・ヘビ」
未就学児と1年生指導に力を入れる北海道・東山大雪少年野球クラブ
北海道東川町にある「東川大雪少年野球クラブ」の小林弘明監督は、野球人口減少への強い危機感から、幼稚園の年中・年長児と小学1年生で構成される「キッズ」の指導に力を注いでいる。投げ方や捕り方、ルールが感覚的に身に付く、彼らを夢中にさせる魔法のドリルとは?
グラウンドの一角に「猿! カニ! ヘビ!」という賑やかな声が響き渡る。野球のルールはおろか、ボールの握り方すら知らない子どもたち。彼らに感覚的に正しい動きを身につけさせるため、数十種類のドリルが用意されている。指導に理屈は不要だ。言葉で説明するのではなく、動物やキャラクターのモノマネで体を動かす。
「投げる時はお猿さんのポーズね」とボールを持った右手を頭の上に乗せる。「そこからカニさんステップ。カニ、カニ、バチンと投げるよ」と横歩きでお手本を示す。腕が体に巻き付くようなフィニッシュは「ヘビ」だ。「猿、カニ、ヘビ! そうそうそう!」と監督が声をかけると、子どもたちは遊び感覚で投球フォームを身につけていく。
ライナー捕球ドリルでは、子どもたちが構えたグラブに下手投げで優しくボールを投げ入れる。「グローブ、パッ!」という言葉で閉じたグラブを開かせ、「中身を僕に見せて」とグラブを正面に向けさせる。「はい! 右手を下からカメハメ波で添える!」と人気アニメの必殺技で両手捕りへと導き、打撃姿勢は「おしりたんてい」のポーズで構えさせる。これらは小林監督が自身の息子との遊びをヒントに編み出された。
さらに、初心者に大好評なのが「手投げ野球」だ。幼児にとってバットで小さな球を打つのは至難の業。まずはバットを持たず、練習した「投げ方」を使って好きなところへボールを思い切り投げて走る。ほぼ全打席が長打コースの“ヒット”になり、ベースランニングの基本が楽しく身につく。段階が進むと、ティーボール、トスでの試合とステップアップする。
「でも、久しぶりに『手投げ野球やるか!』と言うと、『イエーイ!』と大歓声が上がるんです。肩が強い子は大喜びです」と小林監督。芝生の上で行うためスライディングしても、怪我の心配が少なく、砂ぼこりで真っ黒にならないため自宅での洗濯の負担も軽い。
野球の「入り口」を“限界まで広げる”
遊び心あふれるこれらのメニューには、野球というスポーツの「入り口」を限界まで広げる狙いがある。
現在、道内では小学3年生以下を対象にティーボールで行う「ちびっこ野球」の大会が複数開かれている。小林監督が向き合っているのは、その手前にいる子どもたちだ。「ちびっこ野球の大会はすでに試合として成り立っています。僕が対象にしているのは、野球をやろうかな、どうしようかなという段階の子なんです。野球人口減少に歯止めをかける可能性は、幼児にあると思っています」。
幼児の受け入れを始めたのは、前任チームである上富良野ジャガーズを指導していた11年前にさかのぼる。「自分の息子のことを考えた時、幼児の習い事って意外と選択肢が少なく、月謝も高い。それならチームで受け入れようと考えたんです。スポーツを試しにやらせてみたいという親御さんもいますから」。3年前からは年中児も対象にした。
キッズクラスを終えて2年生になる際に「次はサッカーに行きます」とか「地元のチームに入ります」と去っていく子も中にはいる。「本音は長く一緒にやりたいです。でも、親の負担や友達関係を考えて選んだ道をダメと言って縛り付けたら、少年野球自体が成り立っていかないですから」。去り行く背中を温かく見送る懐の深さが、チームの根底にある。
子どもたちを夢中にさせる工夫は他にもある。「思い切り投げよう」と声を張り上げる必要はない。スピードガンを置くだけで子どもたちに火がつき、全力投球を始める。小学校教員でもある指揮官は、話をする時には座って子どもたちと目線を合わせ、練習はあえて1時間20分ほどでスパッと切り上げる。「もっとやりたい」という物足りなさが、次週への強烈なモチベーションにつながるからだ。
野球の入り口を徹底的に楽しく、そして正しく。底辺拡大に尽力する魔法のドリルは、未来の球児たちを育んでいる。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

