世界トップクラスのエンジニアたちは生成AIとどう付き合っているのか? 12万部超の『世界一流エンジニアの思考法』の著者、米マイクロソフト現役エンジニアの牛尾剛さんが放つ最新刊が『部下としてのAI 世界一流エンジニアの進化術』。開発の最前線のスキルとマインドセットを知り尽くした牛尾剛さんに、ビジネスパーソンはこれからどうAIという部下と付き合ったらいいのか、「文藝春秋PLUS」でお話を伺いました。

【動画で見る】AIを「新しいおもちゃ」から「部下」へ! 米MSエンジニア・牛尾剛が語る、爆発的な結果を引き出す“クラリファイ”の極意

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年6月29日配信)

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「エンジニアは食われるんじゃないか」

MC・村井弦(以下、――) 新著の『部下としてのAI』、一人のビジネスパーソンとして大変面白く読ませていただきました。今日はそのエッセンスを通常のビジネスパーソンにもわかるような形で解説していただきたいと思います。

 まずAIという存在が牛尾さんのされている仕事の世界に最初に入ってきた時に感じた衝撃はどんなものだったのでしょうか。

牛尾 実はAIが最初に入ってきた時は、そこまで衝撃じゃなかったんですね。ああ、新しいおもちゃがまた来たなって(笑)。だから、自分でも趣味のアプリを書いたり翻訳させたり、業務でやってることをAIにやらせてみたりして、遊んでたんですよ。

 でも本格的に、みんながやばいぞとなり始めたのは、やっぱりChat GPT-4が出てきたあたりから。「あれ、これめっちゃ賢くないか? エンジニアは食われるんじゃないか」と思って、MSR(マイクロソフトリサーチ)でAIを専門にやっている友達に聞きに行ったんですよ。「そうは言っても、AIは技術的にはまだまだだからな、君らそんな心配しなくていいよ」と言ってくれることを期待して。

 ところが彼は「そうだなぁ、リプレイスされちゃうかな」と言ったんですよ!「俺たちの部署も、OpenAIにやられてもうお通夜のようだ」と。AIの専門家にとってもエンジニアにとっても、そのくらい衝撃的でした。そして昨年末くらいからコーディングエージェントが飛躍的に進化し、ClaudeやGitHub Copilotの最新版が来て、もうゴリゴリにコーディングができるようになってきて、本当に俺たちはもういらないのかなと思いました。

――そのあたりの苦悩が今回の本に書かれていましたが、よく考えたらそんな生成AIの衝撃はつい去年の暮れの話で、あまりに時間の流れが速いですね。


『部下としてのAI』

牛尾 めちゃくちゃ早いですよ。だって僕がやったプロジェクトは、この短い期間に2つなくなりましたからね。コーディングエージェントの時代になったら、Microsoftみたいな大きな会社でもピボット(事業の転換)がすごい。

 もともと僕らのチームはクラウドサービスのバックエンドを担っていたから関係ないと思っていたけど、僕は趣味でAIを使っていたから「AIの部署にいかないか?」とジョブチェンジになった。そしたら、もうカオスでした。これはマイクロソフトの見解じゃなくてあくまで一個人の感想ですけど、まあ「屍の山」ですよ! この前始めたばかりのプロジェクトが急に中止になって数週間の努力が何の意味もない、みたいなこともあって、嵐の中で航行してるような感じでした(笑)。

 偉い人も「Duplicate effort, OK」、つまり「重複した試みもOK」と異例の宣言をして、各自がいろんなことを試してプロットタイプを作る中で、芽が出るサービスが少しずつ出てきた感じです。あんな大きな会社なのに、上手くいくかわからないものにベットして、スタートアップのようにやってしまうのは本当にすごいと思います。

「部下として」に込めた意味

――本当に激動の中でAIと向き合ってこられたわけですが、今回『部下としてのAI』というタイトルがとてもいいなと思ったんですね。ツールとしてのAI本はたくさんあると思うんですけど、あえて「部下として」とされた理由を教えていただきたいです。

牛尾 元々の背景は、メンターのクリスが1on1で言った言葉がすごくインパクトがあったんですね。「僕らはもはや、エージェントのマネージャーだよね」と。彼は本当にマジで世界一流で、マイクロソフトの中でもフラッグシップになるようなサービスをいくつも開発している人がそう言った。本当にそうだなと思いました。

 使い倒している人はみんなわかっていると思うんですが、AIは簡単にアホになりますよね。賢いけどよくアホになるし、嘘もつく。東大出身で俺より明らかに賢いはずなのに、業務ができなくて嘘もつく部下というイメージです。そこでいかにアホにならないようにするのがAIを使った開発の肝なので、そこから今回のタイトルは来ています。

――「部下として」と考えると、AIを使いこなすのはマネジメントする側の問題だと実感できますね。あとお聞きしたかったのは、AIにはけっこう雑な指示をしても、それなりに返してくるじゃないですか?

牛尾 それっぽいのをね(笑)。

――牛尾さんは、大雑把な指示はダメなんだとお書きになっていましたが、そのあたりの理由を改めて教えてください。

牛尾 人間で考えてみてもそうじゃないですか。さっき言ったみたいに東大出身でめちゃ賢い、知識はあるけどたまに嘘つくし、突然アホなことし出す――そんな新入社員がいたとしましょう。「君、あれやっといて」でちゃんと仕事ができると思いますか?

――それは無理ですよね。

「明確化する」と爆発的な結果を出せる

牛尾 そう、まったく同じなんですよ。だから最初面倒くさいと思うかもしないけど、賢いそいつの頭を利用するんです。ちゃんと話をして、「こういう感じのをやればいいんじゃないかな」「こういうアイディアがありますよ」みたいに話していって、「こういうものを作ればすごくいい感じじゃない」というところまで行く。僕らは「クラリファイ」という言葉を使うんですけど、「明確化する」。

 これって実はソフトウェアの開発でも一緒です。アメリカの場合は最初からかっちりしてないんで、めっちゃふわっとしたやつが上から降りてくるんですよ。「牛尾君、大体これして」みたいなのが。その時点では誰も何もわかんないですよ。だからそれを明確化するところからスタートする。スペックを考えて、ベテランの人にシェアして「これどう思う?」と聞いたりしながら、明確にしていくんですよね。「これで作り始めれるね」となったところで、プロトタイプを作って、実際やってみるんですよ。

 だからAIとしゃべって、そういうクラリファイを同じようにやって、「これでもうそろそろ勘違いしないな」となったら作業をお願いする。するとAIが30分とか一時間かけてやってくれるんで、そしたら次のAI二号君とお話をするというノリですね。

――本当になるほどなと思いました。こういうことをやっていくんだっていうところまでちゃんと話して、しっかり定義して、詰めていってから作業させると、一気に爆発的にすごい結果を出すという。

 これって逆に言うと、リアルな部下とか後輩に対しても同じだ、という気づきも得られた気がします。

牛尾 人間の知識をAIは学習していますからね。ソフトウェアの世界に「コンウェイの法則」というのがあって、「ソフトウェアの構造は、それを設計する組織の構造と同じになる」という原則があるんですけど、それと似てるかもしれないですね。AIは人間から学んでいるので、人間に似ています(笑)。

(牛尾 剛/ライフスタイル出版)