奈良県吉野町、吉野山

 「一目千本」と評されるサクラの名所、奈良県・吉野山。その木々で昨秋、内部を食い枯死させてしまう特定外来生物「クビアカツヤカミキリ」による被害が初めて確認された。約3万本とも言われる吉野山のサクラを守ろうと、関係者は巡視や防除、啓発など対策を急いでいる。(共同通信=佐野七海)

 「外敵がおらず繁殖力が強いのが厄介だ」。吉野町環境対策室の岡本弘文主任は眉を寄せる。クビアカツヤカミキリの幼虫はサクラの木の内部を食べ、木くずとふんが混ざった茶色い「フラス」を出す。吉野山では今年5月までに12本のサクラに被害を確認した。

 町によると、車など乗り物に付いて長距離移動するため、異名は「ヒッチハイカー」。侵入を防ぐことは困難で、早期発見と防除が求められる。

 5月中旬、サクラの保護活動に取り組む「吉野山保勝会」が巡視活動を主催。民間企業や自治体職員ら約50人が、急峻な斜面に植えられたサクラに近寄り、フラスなど異常がないか1本ずつ確認した。保勝会の桜守山口公佑さん(47)は「見回りで被害を抑制し、1本でも多く長生きしてほしい」と気を引き締めた。

 吉野山のサクラは、約1300年前、修験道の開祖とされる役行者が修行を積み、サクラの木に蔵王権現を刻んだという伝承から、神木として保護されてきた。1594年には豊臣秀吉が武将や茶人らを従えて花見をしたとされる。

 山以外にも多くのサクラがあり、吉野町は所有者らに対し、被害に遭った木の伐採経費の補助や、薬剤など駆除用品の配布を開始した。木に負荷をかけることに抵抗感がある人も少なくないが「サクラを守るための手段」と理解を求める。

 町は成虫のイラストと「WANTED」の文字をプリントしたTシャツを制作して啓発。環境省や県、保勝会などと会合を重ね小まめに情報を共有している。「手探りだが、当たり前の存在を守らねばと改めて感じている」と町担当者。長い歴史を持ち、春を告げる象徴を未来へつなぐ、地道な取り組みが続く。

 ◎クビアカツヤカミキリ

 クビアカツヤカミキリ サクラ、ウメなどバラ科の樹木の内部を食い荒らして枯死させる特定外来生物。成虫は5〜8月ごろに発生し、幹に産卵する。光沢のある黒色で胸部が赤く、体長約2〜4センチ。原産は中国や朝鮮半島などで、繁殖力が高く、被害が拡大しやすい。環境省によると国内では2012年に初めて見つかり、今年2月までに17都府県で確認された。

奈良・吉野山のサクラ

クビアカツヤカミキリ(奈良県提供)

クビアカツヤカミキリのふんと木くずが混ざった「フラス」(奈良県提供)

クビアカツヤカミキリが描かれたTシャツを着てサクラを巡視する保護活動の参加者=5月、奈良県吉野町

サクラの木に異常がないか確認する吉野山保勝会の山口公佑さん=5月、奈良県吉野町