『地獄に堕ちるわよ』がヒットも「昭和と裏社会ばかりで飽きた」との声も…それでもNetflixが定型ドラマを量産せざるを得ない「切実な裏事情」

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Netflixの熱狂と既視感

『全裸監督』に始まり、『地面師たち』『極悪女王』と、配信されるたびに社会的な話題を集めてきたNetflixの日本発オリジナルドラマ。その勢いは、2026年現在も堅調である。

直近でも、法と裏社会を描いた『九条の大罪』が配信直後からランキングの上位を維持し、順調にヒットを記録。

さらに、かつて視聴率の女王として芸能界に君臨した占い師・細木数子氏の半生を描いた『地獄に堕ちるわよ』が、SNSを中心に賛否両論を巻き起こしながら注目を集めている。Netflixドラマで初主演を飾る戸田恵梨香が、全盛期の細木氏を高い熱量で演じる姿は、視聴者に鮮烈なインパクトを与えた。

豊富な資金力を背景とした豪華な映像、そして攻めたキャスティングと演出。これこそがNetflixの強みとも言えるのだが……最近、ちょっと引っ掛かりもする。

Netflixオリジナルドラマには、ある共通の要素が繰り返されていることに気付くのだ。

「アンチヒーロー」「昭和とスキャンダル」「裏社会」――。

SNSでも、一部のユーザーから「また裏社会モノか」「昭和ばかりでさすがに飽きた」「展開がどれも似ている」という声も漏れ聞こえる。

にもかかわらず、作品が発表されるたびにランキングのトップを独占し、世間の話題をさらうのはなぜなのか。Netflixがいかにしてこの‟定型ドラマ”を作り上げたか。そして、‟定型ドラマ”を量産しなければならない裏事情に切り込んでいきたい。

試行錯誤で掘り当てた「金脈」

Netflixといえば、膨大な視聴データをアルゴリズムで解析し、ヒット作を狙い通りに生み出しているイメージがあるかもしれない。だが、その足跡を辿ると、最初からすべてが計算通りだったわけではないようだ。

エンタメ業界の動向に詳しいドラマプロデューサーは、当時の状況をこう振り返る。

Netflixが日本に本格参入した2010年代、実はオリジナル作品の制作にはかなり苦戦していました。多額の予算を投じても、日本の視聴者に深く刺さる決定打がなかなか出なかったのです。

その試行錯誤の末に、2019年に見つけた大きな金脈が『全裸監督』でした。本作は山田孝之が昭和の伝説的なAV監督・村西とおるを演じたことで話題になりましたが、昭和×エロ×アウトローの組み合わせが数字を叩き出したことで、彼らの日本におけるコンテンツ戦略の方向性が定まりました」

つまり、最初からスマートに導き出された最適解ではなく、泥臭い試行錯誤の末に見つけた「勝利の方程式」を、今も忠実に守り続けているというのが実態のようである。

平均3秒で離脱する恐怖

では、なぜ一度掴んだ方程式をこれほどまでに繰り返すのか。そこには配信ビジネス特有の宿命である「離脱率」への恐怖がある。配信ドラマを中心に手掛ける別のプロデューサーは、実際の現場の様子を次のように明かす。

Netflixの社内データベースには、視聴者が作品のどこで再生を止めたかがすべて可視化されています。彼らとの打ち合わせでは、『映画館は客が入ればめったに外に出ないが、配信はいつでもやめられる』とよく言われます。そして彼らが提示するデータによると、視聴者が離脱するかどうかの平均時間は、わずか3秒だそうです。開始直後から、強いフックを入れ続けなければ、すぐに別のコンテンツに逃げられてしまいます」

すなわち、制作側は常に「3秒の壁」というプレッシャーと戦っていることになる。

暴力や裏社会、あるいは「昭和」というエネルギッシュな時代設定は、視聴者のアテンションを冒頭からしっかりと掴み、次を観せる引きが抜群に強い。データ上も安定したコンテンツだからこそ、プラットフォーム側にとっては作り続ける価値があるわけだ。

同様の理由で、『今際の国のアリス』から続くデスゲーム系もキラーコンテンツとされている。既に配信されてヒットを記録している『イクサガミ』や、今後配信を控える『国民クイズ』も、このデスゲームの系譜にあると言える。

データ主義の「シビアな現場」

しかし、脚本開発がデータによってがんじがらめになっているのかというと、実際の現場は少し異なるようだ。前出のプロデューサーは、制作の構造についてこう語る。

「現在、Netflix Japanを支えるプロデューサー陣の多くは、日本の地上波テレビ局や映画会社の出身です。アメリカ的なシステムをそのまま持ち込んでいるわけではありません。もちろん企画によって幅はありますが、Netflixのアメリカ的なデータ主義と、日本のドラマ映画界で長年培われてきた職人クリエイターの力が、上手く融合した結果と見るのが自然でしょう」

そのため、Netflixの現場で重宝されるのは、大根仁監督(『地面師たち』)や根本ノンジ氏(『九条の大罪』)のような「腕の立つ職人タイプ」のクリエイターだという。

また、Netflixは日本でもいち早くチームライティング(集団での脚本執筆)を導入している。元々はハリウッドで確立された手法で、キャラクターの創作やストーリーの執筆など複数の脚本家で分業し、多角的な視点で物語を構築する。

大ヒット中の連続ドラマ『地獄に堕ちるわよ』の脚本としてクレジットされている真中もなか氏はこれまでの作品歴がなく、謎の新人、あるいは高名な脚本家が偽名を使って書いたなど様々な憶測が飛んでいるが、同ドラマのために組織されたチーム名ではないかとも言われている。

しかし、そんな合理的な環境には、それゆえのシビアな側面もある。

「外資系ならではの徹底した成果主義であり、結果を残さなければ社内のプロデューサーであっても契約を打ち切られる世界。突然、プロデューサーのクビが切られるという現実はまさに彼らの作るドラマのワンシーンのようです。だからこそ、現場のプロデューサーも冒険がしづらく、データ上で確実に数字の取れる選択肢に頼らざるを得ない、という構造的な背景もあります」(前出・プロデューサー)

成功が義務付けられた世界で、安定した再生回数を確保するためにデータと効率を重視するのは必然なのかもしれない。しかし同時に、それはNetflixオリジナルドラマが特定のジャンルへ‟定型化”していく引き金にもなっていた。

それでは、なぜこれほどまでに、「昭和・裏社会」ジャンルのドラマが日本で確実に当たり続けるのか。

つづく記事Netflixの狙いは、日本のTVドラマが切り捨てた“おじさん達”だった…昭和・裏社会ドラマばかりがヒットしてしまう「日本市場の特殊性」〉で、詳しく解説する。

【つづきを読む】Netflixのターゲットは、日本のTVドラマが切り捨てた”おじさん達”だった…昭和・裏社会ドラマばかりがヒットしてしまう「日本市場の特殊性」