「ゴミ同然」団地の放置自転車100台、勝手に撤去したらNG? 自治会長の計画に潜む法的リスク
団地の駐輪場に、長年放置された自転車が100台近くある。壊れていたり、タイヤがパンクしていたりするものも多い。
新しい住民のスペースを確保するため、自治会長が撤去を進めようとしたところ、ある住民から「所有者でもないのに違法行為ではないか」と指摘されたという。
たしかに、放置自転車は見苦しく、防犯上の不安もある。では、自治会はどこまで対応できるのか。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられている。
●自治会長は「段階を踏んだ撤去計画」を立てたが・・・
相談者は、ある団地の自治会長をつとめる人物だ。駐輪場を占拠する「ゴミ同然」の自転車を整理するため、警告タグの貼付、会報での周知、警察への連絡など、段階を踏んだ撤去計画を立てていた。
住民のために良かれと思っておこなう「大掃除」が、なぜ法的に問題となり得るのか。不動産トラブルにくわしい瀬戸仲男弁護士に聞いた。
●所有者がいるものとして扱う必要がある
──団地の所有者でも管理者でもない自治会が、長年放置されている自転車を撤去する場合、どんな法的リスクがありますか。
他人の所有物を無断で処分すると、所有権侵害として不法行為(民法709条)が成立し、損害賠償義務を負う可能性があります。
たとえ長年放置され、壊れていたりパンクしていたりする自転車であっても、所有者が明確に所有権を放棄していない限り、「無主物」とはいえません。基本的には、所有者がいるものとして扱う必要があります。
一見すると、社会通念からすると、やや違和感があるかもしれません。しかし、日本では所有権が非常に強く保護されています。
憲法29条1項は「財産権は、これを侵してはならない」と定めています。所有権は、財産権の代表的なものであり、強く保護される仕組みになっています。
もちろん、同条2項により、法令で例外的に制限することは可能です。
たとえば、空き家等対策特別措置法のように、行政が私有財産に介入できる制度もあります。また、公道上の放置自転車については、各自治体の条例に基づき、撤去・処分が認められている場合があります。
しかし、団地やマンションなどの私有地にある放置自転車については、行政が簡単に介入することはできません(民事不介入)。民間同士の問題として扱われるためです。
そのため、私有地上の放置自転車については、所有権絶対の原則を前提に、慎重に対応する必要があります。
●「古い自転車だから」勝手に処分していいわけではない
──民事上の責任だけでなく、犯罪になる可能性もあるのでしょうか。
場合によっては、刑事責任を問われるリスクもあります。
たとえば、処分すると言いながら自分で利用した場合には、窃盗罪が成立する可能性があります。また、撤去や処分の過程で自転車を壊した場合には、器物損壊罪に問われるおそれもあります。
「古い自転車だから」「壊れているから」といって、勝手に処分してよいわけではありません。
●住民のために動いたはずなのに・・・
──法律以外の面で、自治会として注意すべきことはありますか。
会長の独断で撤去を進めると、住民から「勝手なことをするな」「手続きが不透明だ」と不信感を持たれる可能性があります。
住民のために動いたはずなのに、自治会への信頼性や公正さを損ねたり、運営が混乱したりすることも考えられます。
したがって、法的な手続きだけでなく、住民への説明や記録の保存、管理権者との連携が重要です。
●解決策は「地道に対処」その理想的な手順
──では、どのような手順で対応するのが安全でしょうか。
特効薬・ウルトラCのような解決策はありません。地道に手順を踏むことが、最も安全な方法です。
まず必要なのは、所有者の特定です。
「防犯登録番号」のシールが貼られていれば、警察に照会します。自転車に氏名や住所が書かれている場合は、その情報も手がかりになります。近隣住民に情報提供を呼びかけることも有効です。
所有者が特定できない場合には、遺失物として警察に届け出ることも検討します。その際は、自転車の状態や放置場所を詳しく説明し、写真などの記録を残しておきましょう。
警察から指示された期間は、破損や盗難に注意しながら保管してください。 所有者の特定の有無にかかわらず、現行法では所有権保護が強いため慎重な手順が不可欠です。
●正規の手順を踏み、管理権者と連携する
──自治会だけで判断しないほうがよさそうですね。
はい。管理組合や管理会社など、団地の管理権限を持つ主体に相談し、正式な手続きとして進めてもらうことが大切です。
具体的には、次のような流れが考えられます。
(1)管理組合や管理会社に相談する
(2)撤去予定日、猶予期間、連絡先、処分方法を明記した「予告」を自転車に貼る
(3)掲示板やポスティング、会報などで住民に周知する
(4)写真を撮り、周知や対応の経緯を記録する
(5)警告期間後も引き取られない自転車については、警察に盗難車かどうかを照会する
(6)管理組合・管理会社が、自治体の担当部署や専門業者に相談し、管理規約などに基づいて処分を進める
自治会や個人が、勝手に廃棄したり、売却したりすることは避けるべきです。
法的リスクを避けるためには、必ず正規の手順を踏み、管理権者と連携して対応することが重要です。
【取材協力弁護士】
瀬戸 仲男(せと・なかお)弁護士
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。
事務所名:アルティ法律事務所
事務所URL:http://www.arty-law.com/
