JRT四国放送

写真拡大 (全54枚)

テレビの前のみなさんは、「はったい粉」をご存じでしょうか?

大麦の一種、はだか麦を加工した食品です。

かつて、栽培が盛んだった徳島県つるぎ町で今、この「はだか麦」が消滅の危機を迎えています。

伝統を守り続ける家族を取材しました。

徳島県つるぎ町貞光。

標高約430メートルの山あいにある三木枋集落です。

今でも3戸4人が暮らすこの集落では、2018年に世界農業遺産に認定された「傾斜地農耕」が行われています。

磯貝ハマ子さん。

手入れをしているのは、12月に種をまいた「はだか麦」です。

(磯貝ハマ子さん(78))
「麦の中の草をとっている。麦が大きく成長するとき、雑草に負けて麦がきれいのができない」
「やっぱり手作業で草をとってやらんと」

はだか麦は大麦の一種で、粟やそばなどと並び「つるぎの五穀」の一つ。

この町ではかつて、葉たばこの裏作として、はだか麦の栽培が盛んにおこなわれていました。

(磯貝ハマ子さん(78))
「昔は全部、どこ見ても麦畑ばっかりだったんよ」
「それが年々年々減るから、勢いのある集落だったけど、今はほんまに寂しくなった」

はだか麦は、1980年には貞光地区だけで約260戸の農家が栽培していましたが、今では、ハマ子さんと数年前に勤めていた会社を辞め跡を継いだ、長男・一幸さんの磯貝さん一家、一軒のみ。

減少の一番の原因は高齢化。

それに伴って農業を離れる家が多いほか、こんな理由も。

(磯貝一幸さん(53))
「高齢化によって耕作面積がどんどん縮小していった。はだか麦は畑の占有期間が、長いものでだいたい収穫までに7か月くらい畑を占有してしまう」
「冬場の野菜や、春野菜が生産できなくなる」
「だからそちらを優先して、はだか麦の生産をあきらめてしまったという農家が多い」

とはいえ、はだか麦を加工した「はったい粉」は昔、こどもや年配の人がおやつとして食べるなど広く親しまれていて、今でも一定の人気があります。

(磯貝ハマ子さん(78))
「子どもの時にお父さんが挽いてくれたのに、お砂糖入れて練って食べたことは思い出にある」

(磯貝一幸さん(53))
「細々とではあるが、懐かしいと言って買ってくれる人も多い」

その「はったい粉」への加工過程の一部を見せてもらいました。

はだか麦は収穫したあと乾燥させ、脱穀、精麦を行います。

そして次に行うのが焙煎です。

(磯貝ハマ子さん(78))
「いい匂いするやろ、焦がしているから今。ものすごい賑やかになっている。これが全部焦がしてきたら麦自体が静かになる」

(記者)
「このパチパチする音がなくなってきたらいい?」

(磯貝ハマ子さん(78))
「静かになってくるわ、さっきとだったら違う。置くほど焦げてくるから、はよ移してやらなこの工程だけ」
「焦げて真っ黒になったら苦くなる、はったい粉にしたら。早く出したら生のものがあるからおいしくない。長い間していたら分かる勘で」

焙煎した麦は、一晩置いて粗熱をとったあと機械で粉にして完成。

このはったい粉、はだか麦は、にし阿波ブランド認証品にもなっていて、道の駅などで販売しています。

はったい粉に親しんでもらおうと、あるものも作っています。

3年ほど前から、その作業をハマ子さんから引き継いだのが、磯貝理恵さん。

一幸さんの奥さんです。

(磯貝理恵さん(47))
「お客さんが待ってくれているっていう商品なので手は抜けないし、責任重大な感じはあった」
「その中でも試行錯誤しながら、これ美味しいなとか考えながら今に至る」

(磯貝ハマ子さん(78))
「(理恵さんは)結構いける、一人前になっとる。私からは言うことない」
「伝統的なことは、技術をあとの世にも教えとかないかんと思う」
「若い子が私のこと引き継いでしてくれる、私はそれが一番嬉しい」

そうして完成したのが、このきなこ飴。

はったい粉を使うことで、よりまろやかで香ばしく、優しい味に。

(磯貝理恵さん(47))
「おいしい、おすすめです」

(磯貝ハマ子さん(78))
「自分でつくっておいしいな」

(磯貝理恵さん(47))
「おいしい」

唯一の生産農家となってしまったものの、最近では磯貝さんのもとに町の移住者などから、はだか麦を試しに作ってみたいという声も寄せられています。

(磯貝一幸さん(53))
「自分がもし、ある時できなくなったらそこで終わってしまうのかなという危機感もあったけど、今は逆にそういう声もいただいたりするので少し期待もしている」
「広めていくために知ってもらうきっかけを作るのが、自分の役目」

磯貝さん一家には、町そして集落の伝統を途切れさせないという強い思いがあります。

(磯貝ハマ子さん(78))
「世界農業遺産ってどこでもとれるものじゃないし、これを維持していかないかん」
「麦にしたって伝統的なものなくしたらいかんと思う、それをずーっと後の世にも続けてほしいと思う」

つるぎ町伝統のはだか麦。

一面麦畑だったかつての景色はなくなりましたが、次の世代へこの文化をつなぐべく磯貝さん一家はきょうも、身を粉にして働きます。